ミシシッピ・デルタで芽吹く、新たな食の伝統

(※本記事は『reasons to be cheerful』に2025年7月1日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

野菜画像

大規模農業が支配するこの地域で、「地元の食卓に届く農産物」を育てる農家が増えている。

ドロシー・グレイディ氏は、自宅の車道に並べた土入りのバケツのひとつから、青々とした葉を軽く引っ張りました。すると、鮮やかなオレンジ色をした長さ約13センチの太いニンジンが姿を現しました。

その近くのバケツではセージの低木が育ち、もう一つの栽培袋にはネギがぎっしりと詰まっていました。あと3週間もすれば、グレイディ氏はミシシッピ州シェルビー周辺での春の作付けを本格的に始める予定です。そこには、目の前にある閉校した中学校の敷地にある2つの農地、近くの小さなモモとナシの果樹園、さらに町の外にある5エーカーの農地が含まれています。ナス、メロン、トマトをはじめとする多種多様な野菜や果物を育て、やがて127世帯の地元住民の食卓へと届けられます。

ニンジンを収穫するドロシー・グレイディさん画像
ドロシー・グレイディ氏は、デルタ・グリーンズに農産物を供給している12人ほどの地元農家の1人です。写真提供:エリザベス・ヒューイット

シェルビーはミシシッピ川の東側、平坦で肥沃な農地に囲まれた小さな町です。しかし、グレイディ氏が育てる野菜や果物は、この地域で数少ない「地元で消費される作物」のひとつです。というのも、ミシシッピ・デルタの広大な農地のほとんどは、大豆やトウモロコシといった商品作物の栽培に使われており、そのほとんどは域外に出荷されているからです。

グレイディ氏は、地元の小規模農家たちとともに「Delta GREENS」という共同研究プロジェクトに参加し、ボリバー郡、サンフラワー郡、ワシントン郡に住む糖尿病患者の家庭に、新鮮な野菜や果物を届けています。同時に、その健康への効果も追跡調査されています。この「食は薬」という理念に基づくプロジェクトのように、地元農家を支援し、地域産の農作物の市場を広げようとする取り組みが、ミシシッピ西部で広がりつつあります。その恩恵は両方向に広がります──地域住民は栄養価の高い食材にアクセスできるようになり、小規模農家は販路と収入源を得ることができるのです。

「私たちの目標は、農家どうしの協力体制を築くことです」と語るのは、「Reuben V. Anderson社会正義研究所」(ジャクソン所在)の創設ディレクターであり、「Delta GREENS」の共同研究責任者でもあるジュリアン・ミラー氏です。彼は長年、デルタ地域で地元産食品の普及に取り組んできました。「最終的には、小規模農家が事業を拡大し、より広い市場を獲得できる力を持てるようにしたいのです」。

ミシシッピ川とヤズー川の間に広がる200マイル(約320km)にわたるデルタ地帯は、豊かな氾濫原に広がる農業地帯です。かつては綿花の一大産地として知られたこの地も、現在では動物飼料やエタノール製造に使われる商品作物が主流になっています。

ミラー氏によれば、かつてデルタの住民たちは自家菜園で野菜や果物を育てていたそうです。しかし、農業の機械化や土地の喪失といった要因によって、そうした文化は衰退していきました。シェルビーから数マイルの距離で育ったミラー氏自身も、「家庭菜園を持っている人を見たことがなかった」と話します。「食べ物を自分で育てるという伝統は、いつの間にか消えてしまっていたのです」。

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