宮崎県・河野俊嗣知事 「3つの日本一」に挑戦し未来を切り拓く
宮崎県では未来に向けた成長を促すため、「3つの日本一挑戦プロジェクト」に取り組んでいる。同県の強みをさらに強化することで、人口減少や地域産業の課題を解決するとともに、経済効果を創出していくことが狙いだ。アジアをはじめとする海外も視野に入れたその施策について、河野俊嗣知事に話を聞いた。
河野 俊嗣(宮崎県知事)
宮崎の未来を創造する
「3つの日本一」へ挑戦
――2023年度から取り組まれている「3つの日本一挑戦プロジェクト」についてお聞かせください。
未来創造に向けたさらなる成長を目指すため、宮崎県が強みとする3つの分野で日本一を目指す「3つの日本一挑戦プロジェクト」に取り組んでいます。3つとは、①子ども・若者プロジェクト、②グリーン成長プロジェクト、③スポーツ観光プロジェクトです。
①子ども・若者プロジェクトでは、「日本一生み育てやすい県」に挑戦しています。②グリーン成長プロジェクトでは、再造林率日本一に挑戦し、ゼロカーボン社会と地域資源を活用した産業成長の実現を目指しています。③スポーツ観光プロジェクトでは、スポーツ環境日本一を目指し、スポーツによる地域経済の活性化、観光振興の好循環を創出します。
企業に最大100万円を支援
男性の育休取得を後押し
――「子ども・若者プロジェクト」ではどのような施策に注力されていますか。
本県は、2023年の合計特殊出生率が沖縄県に次いで全国2位でした。そこで、誰もが子育てを楽しいと思えるような、日本一の子育て県を目指した取組を進めています。
コロナ禍の前は年間4600組ほどあった婚姻数が、現在約3500組まで減少しています。婚姻数の減少は少子化に直結します。県では、結婚を希望する男女に、会員制マッチングシステム等を利用した1対1の出逢いの機会を提供する「みやざき結婚サポートセンター」を運営しています。さらに、結婚への気運を盛り上げようということで、2024年度からは新たに、同センター内に結婚支援コンシェルジュを2名配置し、市町村や企業・団体における出逢い・結婚支援の取組を支援しています。
県では、会員制マッチングシステム等を利用した1対1の出逢いの機会を提供する「みやざき結婚サポートセンター」を運営
また、調べてみると、どうやら男性が積極的に育児参加することが、第2子、第3子を持つことにつながるようです。本県では、全国と比べて第2子以降の出生割合が高いという特徴がありますので、その強みをさらに伸ばすため、男性の育児休業取得を推進する企業に対して、最大100万円の男性育児休業取得奨励金を出しています。奨励金で代替人員を雇う、育休を取る男性の所属部署の方々に手当を出すなど、男性が育児休業を申請しやすい環境整備をしてもらっています。
実はその一方で、本県の第1子の出生割合は全国の中でも低い方です。その原因は、若者、特に女性が県外に流出していることも影響しています。来年度は若者の県内定着の施策に注力していく予定です。
再造林や粗飼料自給率の向上
持続可能な農林水産業を
――続いて、「グリーン成長プロジェクト」における取組についてお聞かせください。
国産材の需要が伸び、森林伐採が進む一方で、その後の再造林が十分に進んでいないことが全国的な課題となっています。本県の再造林率は現在78%で、これを90%以上にして全国1位を目指します。
農業も、本県の産業の柱です。2023年のG7宮崎農業大臣会合では、地域資源を活用した持続可能な農業を推進する方針が採択されました。本県ではそれに率先して取り組んでいます。
本県では畜産と施設園芸が盛んです。本県農業産出額の約7割を占める畜産は今、エサ代が高騰し非常に厳しい状況にあります。そこで牧草などの粗飼料の自給率を現在の88%から100%にする取組を行っています。
また、施設園芸はハウス栽培のキュウリ、ピーマンの生産量が、それぞれ全国1位と2位です。これをハウス環境の見える化や自動収穫ロボットなどのDXを活用することでさらに生産性を高める取組を行っています。
プロジェクトとは別の取組ですが、農畜水産物の輸出にも力を入れています。農畜水産物の輸出額は右肩上がりで、2023年度は過去最高の115億円でした。ここは力の入れどころだと思っています。
畜産の中でも宮崎牛は、「全国和牛能力共進会」で、4大会連続で内閣総理大臣賞を受賞しており、海外での人気も高く、輸出も伸びています。2024年2月には西都市でハラール対応の食肉処理施設が操業を開始しました。ハラール認証への対応が可能となり、イスラム圏も含めた海外展開の環境が整いました。
また、昨年、焼酎や日本酒などの「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。本県の焼酎も海外プロモーションを展開しています。宮崎の焼酎と言えば芋焼酎が有名ですが、フランスのコンペティションの焼酎部門では、本県の麦焼酎「青鹿毛(あおかげ)」が最高賞のプレジデント賞を獲得しました。非常に香り高い焼酎で、工夫も施されていて、国内向けのものは25度ですが、海外向けのものは40度に仕上げています。海外の試飲会で寄せられたご意見を参考にしたそうです。海外マーケットに合わせた売り方をすれば、可能性はもっと広がるはずです。
ゴルフやサーフィンで誘引
アジア富裕層の観光客を集客
――「スポーツ観光プロジェクト」ではどのような施策に取り組まれていますか。
宮崎県ではプロ野球、Jリーグ、ラグビーなど、さまざまな合宿を受け入れていますが、その数は沖縄県に次いで全国2位です。沖縄県を抜いて1位になるため、「スポーツランドみやざき」というコンセプトでさまざまな取組を進めています。
旧シーガイア・オーシャンドーム跡地には県が屋外型トレーニングセンターを整備し、2023年4月にオープンしました。ここにはサッカーやラグビーの国際大会で実績のある天然芝と人工芝を組み合わせた「ハイブリッド芝」のピッチを備えています。また、県総合運動公園には24面のテニスコートがあり、現在、全面を世界標準のハードコートにする整備を進めています。24面ハードコートを備えた施設は全国でも少ないので、日本代表クラスの合宿や国際大会などを積極的に誘致していきたいと思います。
トップアスリートの合宿に対応した高品質なグラウンド等を備える「アミノバイタル®トレーニングセンター宮崎」(宮崎市)
2年後には、「日本のひなた宮崎 国スポ・障スポ」が開催されます。そこに向けて、県内各所の施設の充実を図っています。こうした施設をスポーツに限らず広く活用することで経済効果をもたらしたいと思います。
スポーツの中で今最も観光につながっているのはゴルフです。2023年には「AGTC(アジア・ゴルフ・ツーリズム・コンベンション)」が日本で初めて宮崎で開催されました。これはアジア最大の国際ゴルフツーリズム商談会です。本県のゴルフ場の高品質なプレー環境に加え、ゴルフ場から空港までのアクセスの良さ、近隣繁華街での美味しい食事などが総合的に評価され、東アジア地域において、最も優れたゴルフ環境として主催者から表彰されました。このことは「ゴルフ王国・宮崎」実現への大きな弾みとなるでしょう。
2024年12月から、ソウルとの往復直行便が毎日就航しています。韓国ではゴルフが人気で、直行便を利用して多くのお客様に来ていただいています。そうした方々は2泊とか3泊されますが、これを1週間ぐらい滞在していただき、ゴルフだけでなく観光も楽しんでいただけるようにアピールしていきたいと思います。また、東南アジアや欧米豪のお客様にも来ていただけるように注力していきたいと思っています。
宮崎県ではサーフィンも盛んで、国際大会も開催されます。全日本サーフィン選手権大会は3年連続本県で開催されています。近年アジアの富裕層を中心にサーフィン人気が高まっているので、アジアからのサーフィン愛好者の誘致にも取り組んでいます。
九州の一員として
シリコンアイランドを目指す
――今後、成長産業と位置付けて育成に取り組まれる分野や、スタートアップ支援についてお聞かせください。
今、九州全体で新生シリコンアイランドを目指す取組が進んでいます。本県でもロームグループのラピスセミコンダクタ宮崎第二工場において試作レベルの稼働が開始しています。半導体関連は、人材育成も含め、九州全体で考えていく必要があります。本県も役割を果たせるように、さらには半導体関連の企業誘致にもしっかり取り組んでいきます。
本県は、大分県とともに東九州メディカルバレー構想に基づく医療関連機器産業の集積を進めています。異業種参入により、自社の技術を生かした様々な製品が生まれており、医療・介護現場での課題解決にもつながっています。今後も取組を着実に進めてまいります。
スタートアップ支援については、2023年度からスタートアップ創出・成長促進事業「hinata STARs」を立ち上げ、スタートアップの成長支援や、県内企業等とのマッチングを通じた技術検証の実施支援を行っています。
――これからの産業人材を育成するプログラムとして、「ひなたMBA」にも取り組まれていますね。
産業界と連携して効率的に人材を育成するというコンセプトで、初任者から管理者まで育成するさまざまなプログラムを走らせた人材育成の仕組みの構築に取り組んでいます。人材育成とともに研究機能を高めていく必要があります。研究し、商品を開発し製造する。こうした一連の循環ができるように産学官金と連携して九州全体で取り組んでいきます。
地震、台風、線状降水帯
備えの重要性を痛感
――2024年は大きな地震がありましたが、防災面ではどのような取組を行われていますか。
2024年8月、日南市で震度6弱を観測する地震が発生しました。その後、初めて南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出されて、改めて防災に対する意識が高まり、この緊張感を継続していくことが大切だと思いました。そして同じ8月に、今度は過去最悪の被害をもたらした台風と同じようなコースで台風第10号が襲来しました。さらに10月下旬には日南市と延岡市で線状降水帯が発生し、残念なことに2名の方が命を落とされました。災害に対する備えをハードとソフトの両面で強化していく必要があると、改めて痛感した2024年でした。
一方、この数年間、国土強靭化の取組による対策の効果を感じることもできました。過去に被害の出た同程度の降雨に見舞われても浸水被害をぎりぎり防ぐことができましたし、地震の際も耐震改修を行った港湾岸壁はひび割れなどの被害が出ませんでした。落石で国道が塞がれた時は、昨年(2024年)3月に開通した高速道路によるダブルネットワークの効果を実感できました。また、今後の備えとして、災害支援物資拠点施設の整備を進めており、2025年1月に建物本体の供用を開始しました。これにより、支援物資を必要な場所に効率的に届けることができるようになりました。
南海トラフ地震などに備えた県内最大の災害支援物資拠点施設(高鍋町)の運用を2025年1月より開始した
海外との関係を深め
人材確保や産業振興につなげる
――最後に、知事がこれから特に力を入れていきたいことや、今後の構想についてお聞かせください。
特に注力したいことは、アジアをはじめとする海外との関係を深めることです。宮崎産業経営大学は農業部門で世界ランキング第1位のオランダ国立ワーゲニンゲン大学に学生を派遣し、有機農業などを学ばせています。農業や再生可能エネルギーに対する問題意識が非常に高い国々と関係を深めることは、学生たちに良い影響を及ぼすでしょう。
海外との関係を深めることは、インバウンド誘致や県産品の販路拡大だけでなく、高度人材を含む人材確保や環境保全、さまざまな産業振興にもつながり、宮崎をさらに強くします。こうした活動が宮崎の未来に結びつくよう、取り組んでいきたいと思います。
2019年に日向坂46のロケが宮崎県で行われたことを機に、「日本のひなた宮崎県」と日向坂46のつながりが生まれた。昨年は日向坂46による音楽イベント「ひなたフェス2024」を同県で開催

- 河野 俊嗣(こうの・しゅんじ)
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