時事テーマから斬る自治体経営 「地方議員のなり手不足」の注意点

全国の町や村では近年、議員のなり手不足の問題が深刻化してきている。テレビのニュースでは教員や地方公務員、介護業界のなり手不足もよく話題になっているが、地方議員ならではのなり手不足の背景や課題とは何なのだろうか。また、何がその最大の解決策となると考えられるのだろうか。

地方議員のなり手不足がトピックスとして上がることが多くなった。なり手不足を解決するために多方面から議論がされている。

なり手不足を解決するには、筆者は報酬の増額が特効薬と考えている。しかし、この議論は依然として少ない(少しずつ広がっているが)。議員報酬の増額なくしては、なり手不足は解消しない。この点が注意点である。今回は、地方議員のなり手不足を考えたい。

どこもかしこも「なり手不足」

なり手不足は、地方議員だけではない。教員のなり手不足が顕在化している。2024年度の公立学校教員採用選考試験の受験倍率は、過去最低の3.2倍となった。小学校は2.2倍(過去最低)となっている。地域や職種によっては倍率が1倍程度もある。倍率の低下に加え、採用辞退者が拡大している。高知県教育委員会の小学校教員の採用試験は、合格した280人のうち7割を超える204人が辞退している。

地方公務員のなり手不足も課題だ。1999年度は14.9倍と受験倍率が10倍を超えていた。その後倍率は低下し、2022年度は5.2倍である。約20年間で競争率が半減したことを意味する。地方公務員の離職も激しい。2023年度の戸田市の早期退職者(自己都合退職者)が25人となった。過去5年の職員の早期退職者は、2019年度が17人、2020年度17人、2021年度15人、2022年度の35人である。過去5年間で109人の職員が辞めている(同市の職員は約900人)。地方公務員の離職は戸田市だけではなく、全国的な傾向である。

なり手不足を人手不足に置き換えてみる。人手不足は公的部門だけではない。介護業界は、介護職員が2030年に約69万人不足する予測がある(厚生労働省試算)。そのため外国人技能実習生や特定技能制度による補充が進んでいる。首都圏においては、保育士の人員が確保できず、保育施設が閉鎖するケースも登場している。

帝国データバンクが公表した「人手不足に対する企業の動向調査」(2023年4月)によると、正社員の人手不足企業の割合は51.4%である。全業種の半数以上が人手不足となっている。特に人手不足が顕著なのは、旅館ホテル(宿泊業)75.5%、情報サービス74.2%、メンテナンス・警備・検査67.6%である。その他、建設業、飲食業、物流業も人手不足が顕著となっている。

多種多様な分野でなり手(人手)不足が進んでいる。人材獲得競争は、公民問わず、あらゆる分野で激化している。

地方議員のなり手不足

地方議員のなり手不足に特化して考える。なり手不足とは、一般的には「候補者が議員定数に満たない状態」と捉えられる。なり手不足を把握する指標として、無投票率が活用されることが多い。無投票率が高いのは、都道府県議会議員選挙と町村議会議員選挙である。

実は都道府県議会と町村議会の実態は異なる。都道府県議会の場合は「勝てる見込みがない」ために選挙へ出馬することを控える傾向が強い。実態は「議員になりたいけどなれない」である。対抗馬が意識的に選挙に出られない「諦観的なり手不足」と指摘できる。潜在的な倍率は高いため、現職が後継指名をせず引退すると、多くの候補者が登場するケースが多い(これは首長選挙にも言える)

一方で、町村議会の無投票率は、議員報酬が低い、政務活動費がない(少ない)などの理由から、議員という職業が嫌悪されている状態である。この場合は「議員になろうと思わない」という実態がある。これは「必然的なり手不足」と言える。潜在的倍率は低く、町村議員はなり手が圧倒的に欠如している。本稿が対象とするのは「必然的なり手不足」である。

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