日南市 「刀剣発祥」を強みに、日南の魅力を世界に発信する

宮崎南部に位置する日南市は2025年1月、「剣法発祥の地」として知られる鵜戸神宮において、刀剣がテーマのインバウンド向けガストロノミーツーリズム「日南刀光夜」を開催した。同市はどのような目的で同イベントを実施したのか、企画した日南市観光・クルーズ振興課の谷口誠一郎課長に話を聞いた。

谷口 誠一郎(日南市観光・クルーズ振興課 課長)

鵜戸神宮で開催する
ガストロノミーツーリズム

宮崎県南部に位置し、日向灘に面して南北約120キロもの海岸線を有する日南市。国内初の海中公園である「日南海岸国定公園」には、南国宮崎を象徴する日南海岸や、パワースポットとして有名な鵜戸神宮、野生の御崎馬が棲息する都井岬など、魅力的な観光スポットが多く集まっている。

今回、日南市は2025年1月21日〜29日にかけて、鵜戸神宮において刀剣がテーマのガストロノミーツーリズム「日南刀光夜」を開催した。日向灘の断崖にある鵜戸神宮は、南北朝時代から戦国時代にかけて、「兵法三大源流」のうちの2つである「念流」と「陰流」が生み出された「剣法発祥の地」として知られている。

「日南刀光夜は、観光庁の観光振興事業費補助金を活用し、インバウンド向けのイベントとして企画しました。鵜戸神宮において、日南市が主催してこのようなイベントを開催するのは初めてのことです。宮崎県も日南市も、コロナ禍で減った訪日インバウンドの回復がまだ完全ではないという現状があり、海外富裕層の増加を目的としてプログラムを作成しました」と日南市観光・クルーズ振興課課長の谷口誠一郎氏は語る。

鵜戸神宮内をライトアップし、刀剣をテーマにした唯一無二の体験を提供

地元食材の懐石料理と
刀剣がテーマの文化体験

同イベントは、鵜戸神宮の特別夜間開放を行い、神宮内をライトアップして実施。刀剣をテーマにした計5つのプランを提供した。1つのプランの所要時間は約2時間で、ランチ・ディナーを含むプランのほか、バータイムのみ利用できるプランもある。

最も豪華な「日南プレミアムプラン 刀」(90,000円、税込)では、日南の名店「ひなたの宿」の総料理長が手掛ける日南食材をふんだんに使用した懐石料理コースを楽しめるほか、居合体験や神楽などの鑑賞、世界で活躍するバーテンダーである緒方唯氏と蛯原三奈氏が考案したオリジナルカクテルを飲むこともできる。

左/ランチ・ディナーで提供されたオリジナルの懐石コース。海に面した日南ならではの食材や郷土料理を使用 右/世界の大会で数々の受賞経験を持つバーテンダー、緒方唯氏と蛯原三奈氏によるオリジナルカクテルを提供

「海外の方にPRするにあたって、『日本と言えば刀』というイメージを持っていらっしゃる方も多いと思い、興味を持っていただくために刀剣とガストロノミーという組み合わせにしました。また、鵜戸神宮が刀剣発祥の地であることをご存じない方もいらっしゃるので、そのような部分も含めて日南を世界にPRしたいという意図がありました。一番高いプランでは、真剣を使った居合が見ることができます。居合体験ではお客様に真剣を持っていただくことはできないので、木刀で体験をしていただきました。プランごとに、殺陣の演舞、地元の神楽や獅子舞などの様々な伝統芸能を鑑賞していただくことができ、大変好評でした」

さらに、鵜戸神宮が保管し、通常公開されることはない歴史的刀剣の公開と特別展示を参加者限定特典として実施した。公開されたのは、宮崎県の無形文化財に指定されている刀匠、松葉景正氏によって制作された2つの御神刀、「平成の鵜ノ丸太刀」と「鵜羽ノ御太刀」。刀剣ファンには見逃せない体験となった。

宮崎県の無形文化財に指定されている刀匠、松葉景正氏による2つの御神刀、「平成の鵜ノ丸太刀」(左)と「鵜羽ノ御太刀」(右)を参加者限定で公開

今回、同イベントに参加した計65名のうち、海外からの観光客は12名だった。コロナ禍で停止されていた台湾から宮崎への直行便が再開したため、日南市は当初、台湾人を中心とするアジアの人が主なターゲットにしていたが、実際は台湾からの参加者はおらず、欧米を主に多様な国籍の人々が参加したという。

「今回は募集期間と準備期間が約1カ月とタイトだったこともあり、思うように海外のお客様を呼ぶことができなかったのが反省点です。しかし、『素晴らしい体験ができた』『目の前で居合を見ることができ、すごく迫力があって良かった』という生の声をいただけました。今後はどのような国の方々にこの企画が喜ばれたのか、興味を持っていただけたのかというのをしっかり分析し、これからの観光戦略に活かしていきたいです。また、やはり宿泊していただく、滞在期間を長くしていただくということが重要なので、今回のようにディナーを企画するなど、宿泊していただくことを1つの柱として、観光企画を考えていきたいと思います」

宮崎の中でも特に豊かな
観光コンテンツを持つ日南市

日南市には日南海岸以外にも、「九州の小京都」と呼ばれる風情ある町並みで有名な飫肥城下町や、日本農業遺産に認定された「かつお一本釣り漁業」で知られる漁港、「日本の棚田百選」に選ばれた「坂元棚田」など、多くの観光資源がある。

「日南市は、宮崎県の中でも非常に豊かな観光コンテンツを持つ地域です。現在は東九州自動車道が整備され、交通の利便性もかなり良くなってきたので、多くの人や企業に入ってきてもらえると嬉しいですね。そして、日南市の地域資源を活用していただいて、ともに観光産業を盛り上げていけたらと思っています」