河野俊嗣・宮崎県知事 「きらりと光る宮崎県」を目指して

今年知事就任11年目を迎えた河野俊嗣知事が現在取り組むのは、「持続可能な宮崎県」の土台づくり。陸路と海路のインフラ等を整備し、農畜水産物の輸出額を増やす一方で、サーフィンの世界大会やスポーツキャンプの誘致、神楽や短歌などの文化資産に磨きをかけることで、きらりと光る宮崎県の実現を目指している。

宮崎県知事 河野俊嗣氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年6月28日)

――知事が目指す宮崎県を実現するための取り組みについて、お聞かせください。

人口減少社会の中で、将来を見据えた「持続可能な宮崎県」の土台作りに、ハードとソフトの両面から取り組んでいます。

大消費地から遠い本県にとって、インフラというハード面の整備は非常に重要です。遅れていた高速道路の整備はここ数年のうちに、かなり進んでいます。また、陸路だけでなく、海路を物流の土台にすべく、現在、宮崎カーフェリー株式会社が新船を2隻造船中で、来年の春と秋にそれぞれ就航予定です。

街中の整備では、昨年11月、宮崎駅前に「アミュプラザみやざき」が開業し、今までにない賑わいの拠点となっています。また、私が知事に就任する前年の口蹄疫や、就任直後の鳥インフルエンザ、新燃岳の噴火、東日本大震災などを経験し、危機管理からスタートしたという思いが強いのですが、新たな防災の拠点として、昨年7月に宮崎県防災庁舎を整備しました。医療の拠点としては、県立宮崎病院を建て替え中で、今年の秋に完成し、来年1月には開院を予定しています。

新たな防災拠点として、宮崎県防災庁舎が2020年7月に完成

ソフト面では、全国的なイベントを通じて、文化やスポーツを柱に将来につながるレガシーづくりに取り組んでおり、今年は国民文化祭、全国障害者芸術・文化祭が7月3日から10月17日まで行われます。また、2027年には国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会が開催される予定です。

国民文化祭、全国障害者芸術・文化祭では、「記紀・神話・神楽」が1つの柱です。今まで表に出ていない神話や伝承にも焦点を当て、宮崎の大きな強みであることを見つめ直し、我々にとっての文化的な宝であることを発信していきます。

ユネスコ無形文化遺産登録を目指している「神楽」。写真は2020年神楽フェスティバルの舞台

会期終了後も、そこで終わりではなく、宮崎の文化に今までにない形で光を当て、それを将来につなげていく取り組みを続けていきます。

神話や伝承を形にした「神楽」では、ユネスコ無形文化遺産登録を目指すという大きな目標を掲げることで活気が生まれています。他にも、神楽などを通じたコミュニティ作りが評価されて、2015年に高千穂郷・椎葉山地域が世界農業遺産に認定されましたが、地域の宝に気づくきっかけを作ることが大切だと考えています。

移住者は前年比約4割増
サーフィン目的の移住者も

――宮崎県は合計特殊出生率(2020年)が全国3位と高い一方、生産年齢人口割合(2019)は全国43位です。どのような対策を講じておられますか。

人口減少対策は現在、当県の最重要課題です。宮崎県の人口は1996年から減少傾向に入っており、私が宮崎県知事に就任してからの10年間で、地域を維持するための人材をいかに確保するかが大きな課題として顕在化してきました。ご指摘のように合計特殊出生率は高いのですが出生数は大きく減少しており、現在は8000人を切る状況で、少子化対策は大きなテーマになっています。

一方、社会動態を見ると、若い世代が進学や就職のタイミングで県外に流出しており、それが生産年齢人口割合に反映していると考えています。まずは若い世代が宮崎県に残り、県外に出てもUターンやJターンで宮崎に戻る。さらにはIターンで宮崎に移住してくる。そういう取り組みに注力していかねばなりません。

近年宮崎県内では、若く優秀な人が活躍できるような企業が増えています。

産業用特殊ポンプや人工透析装置の分野でグローバルな事業を展開する日機装が、航空宇宙、インダストリアル事業を当県に集約したほか、メディカル事業の研究研修拠点を今年6月に新しく開設しました。また、GMOインターネットグループは、これまで宮崎県内に6つの拠点を置いていましたが、今年2月に宮崎市に開設したサテライトオフィスにすべて入居しました。このように多くの企業が当県に立地してきており、県外企業に注目しがちな若い世代に向けて、宮崎県に魅力的な仕事があることをしっかりアピールしていきたいと思っています。

実は数年前に、高校卒業後の県内就職率が54%と全国最下位になったことがありました。それが今では60%を超えるまでになっています。移住に関しては、東京・大阪・福岡・宮崎に「宮崎ひなた暮らしUIJターンセンター」を設けて、移住や就職に関する情報発信を行い、相談も受け付けています。成果も出始めており、県及び市町村が移住施策により把握した2020年度の移住者は755世帯、1326人で、前年から約4割増加し、調査開始以来過去最多となりました。

コロナ禍で全国的に地方での暮らしが見直されていますが、宮崎県のスポーツや食といった強みが移住にも繋がっており、サーフィンや農業をするために移住してこられる方々が少なくありません。特にサーフィンは、日向市で2017年に開催された「VISSLAISA 世界ジュニアサーフィン選手権」や、宮崎市木崎浜海岸で2019年にサーフィンの世界選手権「ISAワールドサーフィンゲームス」が開催されたことで、サーフィン界における宮崎県への関心の度合いが格段に上がったと感じています。

宮崎市木崎浜海岸で2019年に開催された、サーフィンの世界選手権「ISAワールドサーフィンゲームス」の様子

新規就農者数は過去最高水準
スマート化による魅力向上

――宮崎県は食料自給率や土地生産性が全国1位で、一次産業が非常に盛んです。今後、注力していく施策について教えてください。

今後特に注力していくのは、人材確保、スマート化、グローバル化の3点です。

人材確保は、宮崎で培われた技術や魅力的な商品をいかに承継していくかが課題です。農業では、宮崎県立農業大学校で人材を育成しています。また、地方暮らしへの関心が高まる中で、就農を希望する移住者が増加傾向にあり、県内の新規就農者数は4年連続して400人台で、過去最高レベルとなっています。Uターンも含めて、就農希望者の受け皿となっているのは、農業後継者による自営就農と農業法人です。世界的な戦略を展開する農業法人が出てきており、就農希望者の受け皿として大きな役割を担うようになりました。宮崎の農業の特徴は、大消費地から遠いため、付加価値の高いものを作り、それを値段に反映させて都市部で販売していくという戦略です。宮崎産のマンゴー、牛肉、キャビアなどは高級食材として知られており、所得が高いところには後継者がどんどん集まるようになっています。

スマート化では、農林水産業もICTを活用した取組を進めています。宮崎県は林業も盛んです。スギの素材生産量は30年連続日本一ですが、やはり林業も人材確保が課題です。より高度な林業の人材育成を行うため、2019年4月に「みやざき林業大学校」を開講しました。農業や林業の魅力を高めることで、次世代の担い手を確保したいと考えています。

また、近年では国内マーケットが縮小していくことを見据えて、マーケットのグローバル化を進めています。宮崎の農畜水産物の輸出額は、2016年度の約35億円から順調に右肩上がりで伸びており、2020年度には72億円を超えました。特に海外では和牛人気が高まっており、宮崎県の強みである宮崎牛が強く後押しをしています。さらに、2019年の市町村別農業産出額では、畜産が伸びて、宮崎県都城市が日本一になりました。今後は、宮崎ブランドの牛肉、豚肉、鶏肉の海外販路をさらに拡大するために尽力したいと思います。

海外でも高い人気を誇る宮崎牛

「スポーツランドみやざき」のさらなる飛躍へ

――観光・インバウンドについてはどのような戦略をお考えですか。

いずれインバウンド向けの施策にも注力したいと思っていますが、今は足元を見つめ直し、県内旅行での観光需要を掘り起こしています。

例えば小学生を中心とした県内教育旅行では、サーフィン体験や戦争遺構での学習など、自分たちの足元にある魅力に気づくような取り組みを行っています。

また、改めて宮崎の強みとして感じたのは、スポーツです。今年の春には、プロ野球やJリーグのキャンプを、感染防止を徹底しながら、無事に実施することができました。コロナの状況の中でもしっかり受け入れることができるノウハウができたことは、安全・安心なスポーツキャンプ地としてアピールできると思っています。

ラグビー日本代表の宮崎合宿の様子

最近では、プロ野球やJリーグのほかに、ラグビーや海外からの受入れも広がっています。スポーツキャンプは、年間を通じて様々な種目があり、観光や宿泊面も含めた経済効果が本県経済の基盤になっていますので、今後も「スポーツランドみやざき」の魅力を磨いていきたいと思っています。

さらに、コロナの影響で、アウトドアの人気が高まっています。ゴルフやサーフィン、クライミングなどは宮崎県の強みでもありますので、追い風を受けていると考えています。

また、九州・山口各県と経済界が連携して九州・山口サイクルツーリズムを推進しており、「九州・山口一周ルート」をはじめとする3つの広域ルートを掲載した「九州・山口サイクルマップ」を今年5月に作成したほか、2023年にツールド九州を開催する構想が進んでいます。温暖な気候の当県は走りやすさでアピールしていこうと考えています。今、韓国や台湾でサイクリング人気が高まっていますので、アフターコロナのインバウンド集客につながるものと期待しています。

強みや魅力に磨きをかけ
きらりと光る宮崎県目指す

――最後に、知事の今後の構想について教えてください。

現在、人口減少対策基金に30億円を投じて、人口減少という課題に取り組んでいます。しかし、人口減少を止めることはできません。減少のスピードを緩やかにしつつ持続可能な宮崎県の土台を作り、人口が減っても、今我々が享受しているような豊かさを保った宮崎県にしたいと考えています。その実現のために、人材確保、AIを含めたICT化やグローバル化など、やらなければならないことはたくさんあります。

食の生産能力が高いことはコロナ禍の中でも大きな強みであり、宮崎県の食糧供給能力は今後も生きていくでしょう。また宮崎には神楽や神話など、日本古来よりある良いものがたくさん残っています。こうしたものは今後ますます見直される時代になっていくと思います。小さくてもきらりと光る宮崎県を目指し、その魅力を発信して、移住者や観光客をさらに受け入れる体制を整えていきます。

株式会社ポケモンとの連携による「ポケモン」を活用したプロモーションも展開

地域特集 ブランド農畜水産物で世界市場へ 宮崎県

河野 俊嗣(こうの・しゅんじ)
宮崎県知事