スクリーンの「家族」の姿を通し、今を生きるすべての人に光を灯す

映画監督、呉美保がスクリーンに映すのは、どこか懐かしさを感じる風景と家族の姿。作品ごとに描き方はもちろん、家族が抱える悩みも個性も異なるが、そこからは今の社会が抱える問題も透けて見えてくる。結婚、出産を経て、9年越しに長編映画の監督に復帰してきた呉。その進んできた道のりとは。

文・油井なおみ

 

呉 美保(映画監督)

自分に自信のなかった少女が
気づけば映画監督に

振り返れば、最初に映画に興味を持ったのは、中学2年の夏休みのこと。

「お母さんがテレビで篠田正浩監督の『少年時代』を観ていて、私は他の番組を見たいけど、仕方がないから一緒に観ていたんです。最初は正直、何でこんな暗い映画を観てるんだろうと思っていたんです。ところが、ラストで井上陽水さんの曲『少年時代』が流れる頃には号泣していて。自分以外のことで涙を流すのは初めての経験で、隣を見たら母も泣いていたんです」

同じものを見て、共に心を動かされている。この状況って何だろう。呉は映画の内容はもちろん、この経験に大きく心を揺さぶられたという。

「それから、人をわくわくさせたい、どうしたら人を感動させることができるんだろうと考えるようになりました。とりあえず、家の廊下に掲示板を作って毎日自作の謎の文章やポエムを貼ったり、普段の晩御飯のテーブルに習字の半紙を敷き、大きなお皿にコロッケをのせてナイフとフォークを添え、フランス料理風のおもてなしをしたり(笑)。とにかく、人を喜ばせたい、感動させたいと思っていました」

大学は大阪芸術大学の映像学科に進学。映画監督を目指しての進路かと思いきや、そうではないという。

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