宇宙を日本の力に!「世界で稼ぐ」「持続的国家インフラ」を推進する経済産業省の政策
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年5月13日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
人類の活動領域が宇宙空間に本格的に拡大しつつある。宇宙空間の利用を通じてもたらされる経済・社会の変革スピードも加速している。国際的な宇宙開発競争をリードしていけるか否かが、今や国家の存立と繁栄を大きく左右する。
宇宙を、「限られた国内官需だけに頼る産業」ではなく「世界を相手に稼ぐ産業」とするとともに、日々の暮らしや産業、安全保障に不可欠な「持続的な国家インフラ」として、いかに発展させるか――。宇宙をテーマにした政策特集の最終回は、宇宙を日本の力とすべく、経済産業省宇宙産業課が推進する政策や目指す方向性などについて解説する。
世界の宇宙市場…2035年に1兆7900億ドル
国際機関の世界経済フォーラム(WEF)によると、世界の宇宙市場は2035年に1兆7900億ドルと、2023年の約2.8倍に達すると見込まれている。年率9%で成長が続く計算で、世界のGDP成長率(5%)の2倍、半導体産業の成長率(6~8%)と同等のペースだ。WEFは、2035年の市場の内訳を、ロケットや人工衛星の製造、通信・地球観測サービスの提供などで構成される「宇宙技術市場」=(1)=が約4割、衛星データを用いて他産業の課題解決を図るソリューション事業の創出などを含む「宇宙技術が無ければ存在しえない市場」=(2)=が約6割になるとみている。
ただ、日本の宇宙産業の現状を見てみると、例えばロケットの打ち上げ実績では米国や中国に比べ伸びが停滞しており、商業衛星の打ち上げは他国に依存している状態だ=グラフ=。このままでは、成長する世界市場の獲得機会を逃すだけでなく、安全保障上のリスクとなる可能性も指摘されている。
「宇宙を日本の力とする」ために
こうした状況を踏まえ、政府は、2023年6月に閣議決定した第5次宇宙基本計画において、宇宙産業を日本経済における成長産業とするため、宇宙機器と宇宙ソリューションを合わせて2020年に4兆円だった市場規模を、2030年代の早期に2倍の8兆円に拡大していくことを目標としている。経産省宇宙産業課は「宇宙を日本の力とする」というパーパスを掲げており、世界を相手に稼げる産業にするとともに、民間の力を活用して持続的な国家インフラとして発展させることを目指している。
<宇宙産業が目指すべき方向性>

日本の宇宙産業が国際競争力を獲得するためには、国内需要にとどまらず、海外の官需も獲得できるような産業基盤を確立する必要がある。しかし、日本の宇宙産業は長年にわたり、数少ない官需への「一品もの」の製造に最適化されており、「宇宙利用」「衛星の製造」「ロケットの打ち上げ機会」のいずれも少なく、それぞれがボトルネックとなって相互に足を引っ張り合う負のスパイラルに陥っている。宇宙産業課は「JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)を中心として生まれてくる世界トップレベルの技術が、事業として成長していくための産業構造が日本には欠けている」とみており、変革の必要性を説く。
<宇宙産業に求められる構造変革のイメージ>

欠かせない民間のイノベーション力
ロケット打ち上げの高頻度化にしても、衛星の量産にしても、宇宙産業における民間の役割は着実に大きくなっており、適正な価格とスピードでサービスを提供できる民間企業や、民需・外需を通じて培われてきた技術や人材を擁する民間企業のイノベーション力の活用が欠かせない。また、官需を受注することはその企業の経営の安定化にもつながり、ひいては企業の更なる挑戦力の向上につながる。官民の連携と共創は引き続き重要だ。
<官民の連携と共創>

宇宙戦略基金で技術開発や商業化を支援
宇宙空間を舞台とした新たな経済・社会活動が生まれると見込まれる中、政府は2024年3月、民間企業や大学などが複数年度にわたり大胆に研究開発に取り組めるよう、新たに「宇宙戦略基金」を創設した。10年間で総額1兆円規模の支援を目指すもので、内閣府、経済産業省、文部科学省、総務省の4府省で、宇宙開発の中核的機関で産学官の結節点となるJAXAに基金を造成。「宇宙輸送」「衛星」「宇宙科学・探査」などの各分野において、「市場の拡大」「社会課題解決」「フロンティア開拓」に向けた、民間企業などによる先端技術開発や技術実証、商業化を強力に支援する仕組みだ。
<宇宙戦略基金の仕組み>
経産省は、「事業化に向けた研究開発の支援を通じた宇宙関連産業の振興」を重視しており、これまでに、2023年度(令和5年度)の補正予算で「商業衛星コンステレーション構築加速化」などのテーマに計1260億円、2024年度(令和6年度)の補正予算で「衛星データ利用システム実装加速化」などのテーマに計1000億円の支援を行った。このうち、衛星コンステレーション関連では、宇宙をテーマにしたこの政策特集の3回目で取り上げたNECやQPS研究所の事業などが支援を受けている。
2025年度(令和7年度)の補正予算では、ロケットの高頻度打ち上げに向け、従来のサプライチェーン強化の取り組みに加えて、国際競争力の獲得を目指した民間ロケット企業の挑戦を複数回の打ち上げ実証を通じて支援する「民間ロケット打上げ実証加速化(通称:STAND)」などのテーマに計740億円の支援を行うこととした。STANDは、「Struggles Toward Advancement through a Number of Demonstrations」の略で、「リスクに果敢に挑戦し、国際競争力を有する輸送サービスを目指す」との思いが込められている。
また、経産省は「中小企業イノベーション創出推進事業」なども展開しており、同事業では、政策特集の4回目で紹介したispace社の「月面ランダーの開発・運用実証」も補助事業に採択されている。
経産省の総合力と海外にも広がるネットワーク
宇宙を日本の力とするためには、ロケットや衛星の量産化・打ち上げ高頻度化に向けた設備投資やスタートアップなどの支援に加え、諸外国との通商戦略や経済安全保障の視点なども重要だ。経産省は、18人で構成する宇宙産業課を中心に関係各課が連携、地方経産局や関係自治体、民間企業などとともに産業構造の改革に取り組んでいる。
<組織の垣根を越えた連携の一例>

経産省はさらに、欧米やアジア・中東諸国などの日本大使館、日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外事務所などと、宇宙産業に関するネットワークを構築している。2026年3月にはベトナムのハノイで、日本とベトナム両国の宇宙関連企業などが参加した「日越産学官連携フォーラム」が経産省とベトナム科学技術アカデミー(VAST)の共催で開催され、日本の政府開発援助(ODA)を活用して設立された「ベトナム国家宇宙センター(VNSC)」も開所した。現地に赴いた経産省宇宙産業課の岩永健太郎課長補佐は「わが国の高い技術力や産業基盤に対するベトナム政府の信頼や期待はとても大きいと感じた」という。
「世界をリードできる日本」 その強みを引き出す
日本には、自動車をはじめ、半導体や航空機など、世界に冠たる製造業を支えてきた人材と産業基盤が各地域に存在する。また、四方を海に囲まれた日本は、ロケットの打ち上げ場所に適しているとされる。さらに、JAXAが長年にわたり蓄積してきた技術や知見、国際的な信頼は日本の大きな強みだ。
宇宙産業課の高濱航課長=写真=は「日本は世界の宇宙市場をリードできるポテンシャルを持っている」と熱く語り、「日本の強みを引きだし、経済成長と安全保障の確保につなげていけるよう、民間企業がより活動しやすい環境の整備に経産省全体で取り組んでいく」と話している。

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