ネームレスG 郷土の偉人、渋沢栄一の精神と志を未来へつなぐ
日本近代化の父であり、現行紙幣の顔である渋沢栄一。その生まれ故郷である埼玉県深谷市出身の金田隼人氏は事業構想大学院大学での研究を経て、株式会社渋沢栄一学を設立した。渋沢の思想や行動を研究し、その成果を教育活動等に生かすと共に生成AIを使ってさらなる発展を目指す。
金田 隼人 ネームレスグループ代表
(事業構想大学院大学 東京校11期性/2023年度修了)
プロデュース思考で
企業の価値創造を支援
天保11年(1840年)、現在の埼玉県深谷市血洗島の農家に生まれ、生涯で約500の会社に関わり、同時に約600の社会公共事業等にも尽力したという渋沢栄一。日本の近代経済を語る上で欠かせない偉人であり、近年は大河ドラマで取り上げられ、壱萬円札に肖像が使われたことでも注目を集めた。
深谷市出身の金田隼人氏にとっては「人生で最初に知った偉人」だ。高校2年にして起業を志し、大学時代には企業経営者への取材活動などを手がけたほか、世界一周しながら大学を巡り、様々な出会いにも恵まれたという。卒業後は営業の仕事に就いて「営業学」の体系化に取り組んだ。2016年に満を持してプロデュースを主たる事業とする株式会社ネームレスを設立、現在はネームレスグループとして多数の企業・関連プロジェクトを統括している。
「ネームレスグループではプロデュースを事業の軸としています。よく『0から1を作る』と言いますが、我々はどんな人や会社や地域にも価値の種となる『0.1』が必ずあるので、その種の本質を、対話を通じて深掘りして言語化し、価値を定義した上で必要なリソースを巻き込みながら形にしていくことを目指しています。言い換えれば、正解のない問いに向き合いながら一歩ずつ前に進めていく仕事であり、自分自身もオーナーシップサイドに立って一緒にチャレンジする『挑戦する伴走者』であることが重要なのです」
金田氏はその考え方を「プロデュースシンキング®(プロデュース思考®︎)」という独自メソッドとして体系化し、それを研究・実践するべく一般社団法人PRODUCE THINKING LABを設立した。ネームレスグループでは業務改善コンサルティングも行っているが、それとプロデュースには決定的な違いがあるという。
「コンサルは現場を緻密に捉えて改善点を可視化する仕事であるのに対し、プロデュースは上流工程しかできず現場には入りません。ただ、その両軸を見ていることが我々の強み。事業を起承転結になぞらえれば、日本は現場力に長けた『転結人材』が育ちやすい反面、事業を構想しデザインに落とし込める『起承人材』が生まれにくい社会環境ですから、『起承』の部分をプロデュースしたいと思っています」
今なお忘れられない
「本能を出していい」という助言
金田氏は「起承」をプロデュースするために必要なことを学ぼうと、事業構想大学院大学(MPD)修士課程に進む。
「10年以上前に初代学長の野田一夫先生からMPDのことを聞いていて、今がそのときだと思いました。また、営業学やプロデュース思考は自分の考えを体系化したに過ぎなかったので、より発展させるには正式な研究活動にする必要があると考え、社会構想大学院大学の実務家教員養成課程にも同時に通うことにしました」
両課程で研究する日々は多忙ながらも実りは多かった。当初はプロデュース思考そのものを目的化していたが、教員や同期との対話を通じて「プロデュース思考は自分の生き方であり、それを使ってどうしたいのか、もっとダイナミックに人生を捉えていい」という気づきを得たという。また、ゼミでは理性的に振る舞ってしまう金田氏に対し、教員が「もっと本能を出していい」と助言。金田氏は「理性の追求こそが本能の昇華であるという教えが今も心に残っています」と振り返る。
「事業構想計画書のタイトルは『挑戦の民主化を目指す多展開型 教育伴走拠点構想』。入学当初のアイデアをダイナミックに進化させ、誰もが挑戦できる社会を作りたいというビジョンに結実させました」
渋沢栄一の精神や思想を
次世代へ継承するために
その思いを胸に、金田氏は2025年7月に株式会社渋沢栄一学を設立した(図1)。偉人の名を冠した会社を設立するとなれば、関係各所との調整が必要不可欠だが、金田氏は深谷市渋沢栄一政策アドバイザーや深谷市教育委員会「ふるさと ふかや・渋沢学」推進委員を務めており、深谷市や関係団体と懇意にしてきたことから調整はスムーズに進んだ。
図1 渋沢栄一学の事業ドメイン
提供:渋沢栄一学
「近年は渋沢栄一翁の偉業や事実を知る人が増えましたが、今を生きる人たちが渋沢栄一翁から何を学び、どうすれば実践に生かせるのかは大きな課題であり、そこにこだわりたいという当社の思いに共感していただけたのだと思っています」
株式会社渋沢栄一学の主な事業は、渋沢に関する研究、渋沢の知を活かすAIの開発、アントレプレナーシップやリスキリングなどの教育、企業・地域・行政との共同プロジェクト、そして渋沢の理念に基づく情報発信・啓発の5つで、すでに複数のプロジェクトが進行中だ。2026年1月末には全国から40名の経営者を集めた「深谷・渋沢栄一学視察ツアー」を実施。募集早々に満員御礼になったことから、今後も開催する予定だという。
また、AIに関しては「渋沢栄一AI開発プロジェクト」という名称で開発が進む。これはAIを使って渋沢を現代に蘇らせようという話ではない。渋沢栄一学の構想に共感する様々な専門分野を持つ研究者と研究室アライアンスを組み(図2)、渋沢の研究を推進するのと同時に、渋沢に関するありとあらゆる情報を学習させたAIモデルを開発し、学習に役立てることが目的だ。人間はAIと対話することで新たな問いや考えるヒントを得られ、探究を深めていくことができる。同時にAIも新しい対話に学ぶため、渋沢が知り得なかった令和の情報も得て、どんどん進化を続けるという。
図2 研究室アライアンス概念図
提供:渋沢栄一学
「自分一人が嬉しいのではなく、みんなが嬉しいのが一番」とは、大河ドラマで有名になった渋沢栄一翁の母親の教えだ。江戸時代に生まれ、明治・大正と駆け抜けて昭和の経済的基盤を作った渋沢栄一の精神を、平成生まれの金田氏が令和に伝えていくことで「みんなが嬉しい」世界になることを期待したい。