廃校から世界へ。「計算力」を地方から供給する挑戦
「GPUインフラは、電気やガソリンと同じ――」AIが社会を変革する時代、“AIの計算力”を地方から供給する企業がある。株式会社ハイレゾは、廃校を再生したGPU専用データセンターを全国4拠点で運営し、業界最安値級の計算力で日本のAI開発を加速する。代表取締役 志倉 喜幸氏に地域での事業推進の要諦と今後の展望を聞いた。

計算力は「次の電気」だ──時代を読み抜いた経営者の確信
株式会社ハイレゾは2007年創業、「次世代インフラの構築を通じて世界のイノベーションを加速させる」をビジョンに、全国4拠点でGPU専用データセンターを展開し、GPUクラウドサービス「GPUSOROBAN」を提供する。志倉氏は大学在学中に起業、携帯電話向けシステム開発企業の経営を経て、スマートフォン時代の到来を見越して2007年に同社を設立した。一歩先の技術の波を読み続ける感性が、2016年、GPU事業への転換を生んだ。
志倉氏が手がけるのは、データを「保管する」従来型データセンターではない。「私たちは計算力をそのまま消費していくサービスを提供しています。例えばガソリンと同じように消費していくものです」と志倉氏は語る。電気を計算力に変換し、AIに随時供給する――きわめてインフラ的な性格を持つ事業だ。
転機となった2016年頃、ChatGPTもまだ世にない時代に、志倉氏はディープラーニング向けGPU需要の急拡大を先読みした。2019年8月、石川県志賀町に第1号のGPU専用データセンターを自社設計で開設。NVIDIAがハイスペックGPUをクラウドで提供する規約すら整っていない時代に、いち早くネオクラウド事業を立ち上げている。「これまで10年以上、地方の過疎地でこの事業を続けてきたという実績は、他社にはない大きなアドバンテージになっています」と志倉氏は振り返る。
「日本企業には、計算力の確保がこれからの経営課題になるという事実を理解していただきたい。事業へのAI導入の次のステップで、誰もがこの問題に直面すると思います」。志倉氏が描くのは、電力網のように計算力が日本中を流れる未来である。
廃校を「計算力工場」に──地方こそが競争力の源泉
主力サービス「GPUSOROBAN」は1時間50円から。NVIDIA H200搭載の最上位機を、AWSの同等インスタンスと比較して70%安く提供する。この圧倒的低価格を支えるのが、地方の遊休施設を活用した自社設計データセンターだ。
「最初から廃校に絞って考えていたわけではありません。お客様にとって品質が同じであれば、当然安い方が良いというニーズがあります」――そのコスト追求の結果が、地方であり、廃校だった。廃校利用の起点になったのは、佐賀県玄海町役場の方からの提案だった。廃校となった校舎の新たな活用方法を見つけることが町の課題となっている中で、データセンターとして活用できるのではないかという発想から実現に至っている。玄海町データセンターは校舎裏が山に面しており、自然の冷たい空気が入ってくることを利用して、エアコンを使用せず外気空冷方式のサーバールームを設置した。

廃校活用には経済合理性以上の意味がある。「建物の躯体がしっかりしていますし、電気配線も整っています。地域の中心部にあって、住民の皆さんに馴染みのある場所であることも大きい点です」。同社のデータセンター開設は、これまで香川、佐賀・玄海町で実施。2027年には秋田・男鹿市で新たに開設を予定している。
「香川県での開設は成功事例だと考えています。県知事や市長、議員の方々など、こちらが驚くほどにデータセンターの開設にご協力いただきました」と志倉氏は語る。成功の鍵は県と市町村の両輪での連携だ。「私たちのやっていることは、まだ理解しにくい産業です。県だけ、市町村だけでなく、自治体全体の協力があってこそ、地域の皆さんにも理解いただき、安心していただけます」。
信頼は積み重ねでしか築けない
志倉氏の経営観の根幹には「信頼」がある。「メンバーを信頼し、個人の裁量をリスペクトする、自由な会社にしたいと考えています。誰もやったことがない事業ですから、マニュアルも文献も十分でなく、現場の判断を信頼するしかありません。」と志倉氏は言い切る。
こういった「信頼」に対する姿勢は、対外的な関係にも一貫している。AIデータセンターという馴染みのない産業について、地域で理解を得るには、技術力以上に、長期にわたって地域に向き合える信頼性が問われるからだ。その信頼を支える柱は二つある。現場へ足を運ぶという当たり前の積み重ねと、その土地の慣習や流儀に敬意を払う姿勢だ。
「都市部の感覚をそのまま地方に持ち込めば、知らず知らずのうちに失礼にあたることもあります。地域の考え方に合わせ、お互いが歩み寄ることが大切です」。当たり前のようでいて、これを長期にわたって徹底できる企業は決して多くない。
この積み重ねは、石川県志賀町での取り組みに象徴される。「当時、役場の中に事業に賛成してくださり応援してくれる職員の方がいたため、その方と二人三脚で進めることでデータセンターの開設を実現させることができました」と振り返る。
AIという未知の産業を、地域の方々に理解していただき、志賀町での事業展開に納得いただくことは容易ではない。「私たちだけでお話ししても、なかなか理解していただけません。地域の方や役場の方が間に入ってくださったことで、徐々に理解が広がっていきました」。最初は期待されていなかった事業が、地域の雰囲気を少しずつ変えていく。「だんだんと周りの方々の見方が変わっていき、いまでは高い評価をいただいています」と志倉氏は表情を緩める。
もっとも、データセンターは地域に目に見える恩恵を生みにくい側面もある。「進出によるメリットはあるのですが、周りの方が目に見えて恩恵を受けているかというと、なかなか実感しにくい部分があります」。
志倉氏はこの距離を埋めるべく、地域住民の方に向けたワークショップを、データセンターを置く校舎内で開催するなど、地域のコミュニティ拠点として育てていく構想もある。採用観も同じ線上にある。「全員がデータセンターの専門家である必要はありません。地域とのコミュニケーション能力も、とても重要な要素です」――技術企業でありながら、地域に溶け込む人材を選ぶ姿勢が、地方拠点の経営を底から支えている。
ブータンから世界へ。計算力の民主化を地方から
志倉氏の視座は日本国内にとどまらない。すでにブータンでの事業展開が進む。「ブータンは水力発電がメインで、カーボンニュートラルな環境でデータセンターを運営できます」。日本の地方での15年以上の実績が、海外でも信頼獲得の決め手になった。
「グローバルサウス地域には、そもそもAIデータセンターの技術者が多くありません。だからこそ産業そのものを作っていく意義があります。AIに取り残されたくない、日本とアライアンスを組みたいという思いを、現地では強く感じます」。
次の10年、志倉氏が目指すのは「計算力の民主化」である。一極集中ではなく、日本中の地方が計算力を生み出す。そのノウハウをグローバルサウスへ移植する。「日本から提供できる計算力が世界で一番安くなれば、日本企業のAI開発も加速していくはずです」。
日本の地方から始まった挑戦は、いつしか経済安全保障の国家戦略と重なり、国境を越えていく。電気が産業革命を支えたように、計算力が次の時代の土台になる――その確信を持って、志倉氏は地方の現場から世界に向けて成長を続けている。
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