富山県・新田八朗知事 幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域を目指して

2025年12月に富山県は新たな総合計画を策定し、「関係人口=幸せ人口」1000万人への拡大を目指し、産業振興や地場産業のブランド化、スタートアップ・エコシステムの形成などを推進している。変化の激しい時代の中で目指すべき、県民が幸せを実感できる富山県の姿とは?

新田 八朗(富山県知事)

時代の変化に対応した
5年間の新たな総合計画

――2025年12月に策定された「富山県総合計画-幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~を目指して」の策定の背景や、注力されるポイントについてお聞かせください。

近年、人口減少や少子高齢化が進むなか、コロナ禍や能登半島地震など、さまざまなことが起こりました。こうした変化に的確かつスピード感をもって対応するため、2025年12月に新たな総合計画を策定しました。

計画策定にあたっては、県民主役の計画づくりを徹底しました。全市町村で県民ワークショップ「未来共創セッション」を開催し、「10年後の富山の未来」について対話を重ねました。こどもから高齢者まで300名を超える方々にご参加いただきました。

さまざまなご意見をいただいた中には、共通するご意見もありました。例えば、伝統産業や祭が10年後も残っていてほしいということ。地域によっては富山県の中でも激しく人口減少が進んでいるところがあります。生まれ育ったところに住み続けたいという要望も共通して出ました。さらに、人口減少の中で地域コミュニティを維持するためには、自動運転の実用化やドローンによる物流など、テクノロジーを取り入れることが重要だという意見がほとんどの市町村で出ました。

このように県民の方々のさまざまな意見をお聴きしながらつくりあげた計画では、「未来に向けた人づくり」と「新しい社会経済システムの構築」の2つの政策の柱のもと、こども・子育て、教育、産業・GXなど12の政策分野で施策を推進していきます。

これまでの計画には詳細な個別施策まで書き込んでいましたが、社会経済情勢の急速な変化に対応するため、今回の計画はあくまでも方向性を示すものとしました。個別の施策については毎年度の予算編成や、それぞれの分野において具体策をつくっていきます。また、変化の激しい今の時代に柔軟に対応するため、従来のような10年間の計画ではなく、今回は10年後を見据えた5年間の計画になっています。

ブランディングと企業誘致で
幸せ人口1000万を目指す

――「幸せ人口 1000万」とは、どのようなビジョンでしょうか。

富山県の人口は、1998年の112万6000人でピークアウトしました。それから28年間、減少が続いています。リアルな人口を増やしたいところですが、なかなか難しいのが実情です。そこで減少を緩和させながら上手く適応していくことが重要であると考え、関係人口を増やすための富山県成長戦略を2022年に策定し、「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」を掲げました。「幸せ人口」とは、この戦略に関わった人がみんな幸せになるようにという思いで、関係人口のことをそのように呼んでいます。

これまでいろいろな施策に取り組んできました。まず、「寿司といえば、富山」というブランディング戦略。富山の魅力を体現するのは、美味しい米と豊富な魚種、綺麗な水でつくる旨い酒、料理が映える美しい伝統工芸の器であり、こういった魅力について、「寿司」を入口として、県内外に発信していく取組を行っています。

他にも、例えばバラエティ豊かな産業が集積しており、働く場所が充実しているのも魅力です。しかし、若い人や女性にとって働きやすい職場は少し足りないかもしれません。そこで今、テック系やIT系企業を呼び込むように努めています。

このように関係人口を増やすさまざまな施策に取り組み、2022年に関係人口を本県独自の手法で推計したところ、351万人という結果になりました。2025年に2回目の推計を実施したところ、723万人と、前回からほぼ倍増していました。この主な要因としては、県の施策の効果や、震災後のボランティアの増加、新型コロナの収束等が挙げられます。

一方、アンケートを取ったところ、課題も見えてきました。「富山県とどう関わればよいかわからない」「富山と二地域居住をしたいけれど情報が少ない」といった貴重なご意見をいただきました。今後はこうした課題の改善にも取り組んでいきます。

追い風もあります。国の「ふるさと住民登録制度」です。この制度には地域経済の活性化に貢献する「ベーシック登録」のほか、ボランティアや副業など地域活動の担い手となる「プレミアム登録」が設けられています。本県としてもターゲットに応じた取組を進めて地域と深く関わる方を増やし「幸せ人口1000万人」の達成を目指します。

大学発ベンチャー伸び率1位
「挑戦が日常となる地域」へ

――既存産業の振興と新産業育成において、現在注力されている施策は何ですか。また今後育成に力を入れていく産業領域があればお聞かせください。

産業振興は3つに分けて考えています。まず、これまで富山県の成長を牽引してくださった企業に対して、グローバルでも競争力のある企業になるよう引き続き支援します。特に脱炭素、GX、サーキュラーエコノミーへの対応、デジタル化については、やってみたいけれど着手できずにいる中小企業が少なくありません。こうした企業に対し、規模や取組の進行度合いに応じた支援を進めています。

2つ目は、企業誘致です。本県は昔から企業誘致を得意としてきました。その結果として、今のバラエティ豊かな産業群があります。これには引き続き取り組んでいきます。昨年「企業誘致戦略」を策定し、成長分野や、若者や女性の活躍が期待できる企業の誘致を進めているところです。

3つ目は、スタートアップ支援です。本県では2022年からとやまスタートアップ「T-Startup」創出事業を進めてきました。これは地域発の成長企業を発掘し、半年間伴走支援し、ロールモデルを創出することで、スタートアップ・エコシステムの形成を図るプロジェクトです。本事業では、スタートアップが抱える知財戦略や技術、商品化、法務、資金などの課題を解決できるよう支援しています。

令和7年度「T-Startup」選定式の様子

――創業支援センター「SCOP TOYAMA(スコップトヤマ)」もスタートアップ・エコシステムの形成拠点となっているようですね。

SCOP TOYAMAは誰でも利用できるインキュベーション施設です。開所から4年目を迎え、オフィスは満室稼働を続けており、創業関連イベントを定期的に開催するなど賑わいある拠点となっています。

創業支援センター「SCOP TOYAMA」

また、以前は全国最低件数だった大学発ベンチャーは、実数はまだまだですが、2018年から2023年までの5年間の伸び率が全国1位と報道されました。富山で挑戦してみようという機運はだんだん盛り上がってきているように感じます。

その一方で、大都市圏と比較すると、起業家の母集団はまだ十分とは言えず、挑戦の量的な拡大が喫緊の課題です。富山の強みであるヘルスケア産業の分野のスタートアップやベンチャーを、東京などの都市圏から誘致する取組にも力を入れています。

また、この2月に「富山県スタートアップ・エコシステム戦略~戦略の広がりを、次の段階へ~」を策定しました。これは「持続的な成長」と「挑戦の裾野の拡大」を両輪に据え、「①場と構造をつくる」、「②人と挑戦を育てる」、「③富山ブランドを明確化」の3つの柱のもと取組を進めるものです。本県を「挑戦が日常となる地域」へ、そして次代を担う起業家が集い、育つ場所へと進化させていきます。

北九州市、JR西日本と
「すし連携協定」新企画が続々

――富山市はニューヨーク・タイムズの「2025年に行くべき52カ所」の1つに選出されました。インバウンド対策を含めた今後の観光戦略についてお聞かせください。

観光庁の宿泊旅行統計調査(速報値)によると、2025年の本県の延べ宿泊者数は約375万人、うち訪日外国人延べ宿泊者数は約32万人で、前年比約30%増でした。ニューヨーク・タイムズ紙の「2025年に行くべき52カ所」への選定や、これまでの観光プロモーションにより、訪日外国人の延べ宿泊者数が増加するとともに、県内全域への波及効果も出ています。

標高3000m級の山々が連なる北アルプスを貫く「立山黒部アルペンルート」で毎春開催される「雪の大谷」。高さ最大20mの雪の壁の間を歩くことができる人気イベント

 

黒部峡谷の奥地にある「黒部宇奈月キャニオンルート」内の高熱隧道。日本の建設史に残る電源開発の軌跡をたどることができる
画像提供:佐藤工業株式会社

これまで本県では「寿司といえば、富山」というブランディングに注力してきました。寿司は、日本人はもとより、今や翻訳されることなく「スシ」で通用するほど海外でも人気です。

県内の寿司屋で食べることができる「富山湾鮨」。旬の地魚と県産米を使った寿司10貫、富山らしい汁物がセットで提供される
画像提供:天然の生け簀富山湾鮨 

本県の寿司はにぎり寿司だけではありません。郷土料理であるます寿しは、お土産品の中ではトップクラスの人気商品です。かぶら寿しは、甘みの強い大かぶに、脂の乗ったブリやサバを挟み米麹で発酵させた本県の伝統的なごちそうです。このように富山県には多様な寿司文化があります。

2025年6月、本県は「すしの都課」を設置された北九州市さんと世界初の「すし会談」を実施しました。その後、JR西日本さんにも加わっていただき、三者間で「すし連携協定」を結びました。

北九州市、JR西日本との「すし連携協定」締結式の様子

この1月には、JR西日本さんが新幹線往復券と寿司クーポンがセットになった「北九州VS富山 大阪発すし決戦きっぷ」を限定販売したところ即日完売しました。このツアーは大阪を起点にサイコロで行先が決まります。このように民間からは我々だけでは考えつかないような面白いアイデアも出てきています。

また、2025年11月には、阪急交通社さんが両地域を「すしのゴールデンルート」として周遊する観光ツアーを発売するなど、「すし連携協定」から波及した動きも出てきています。

官民連携・DX・人材育成など
5本の柱で守る富山の未来

――2024年1月の能登半島地震では、富山県も大きな被害を受けました。今後の県土強靱化の方針をお聞かせください

能登半島地震では本当に大きな被害が出ました。被災市町村とも連携して復旧・復興の取組を進めています。公共インフラの災害復旧については、4月30日時点で、土木部所管事業では、県の被害報告箇所118箇所のうち約9割となる108箇所で工事を発注済みで、そのうち85箇所が完了しています。また、農林水産部所管事業では、全396箇所のうち約9割となる342箇所が発注済みで、そのうち226箇所が完了しており、地震からの復旧・復興は公共インフラを中心に着実に進んでいます。

液状化対策にも取り組んでいます。今回の地震では県内5つの市で液状化が起こりました。県としては、住民の方々に住み続けてもらえるように当該の市と連携した支援策をつくってまいりました。少し時間はかかるかもしれませんが、面的に整備を進めて地盤の安全性を高める取り組みを進行中です。

液状化対策は経費がかさみます。それが住民の皆さんを不安にさせ、合意形成を躊躇する要因になっています。そこで県と市が連携して住民の方々の負担をできる限り軽減する方向で進めているところです。

災害は忘れた頃にやってくると言いますが、今は忘れる前に来る時代だと覚悟しています。地震だけでなく、豪雨被害などの自然災害が頻発し、それぞれが激甚化しています。地震の教訓も得て、今は地域防災力の向上に取り組んでいます。

能登半島地震の約5カ月後には地震対応の専門家会議を開催し、災害対応で上手くできたこと、できなかったことを検証しました。そして今後に向け、次のような5つの柱をつくりました。1つ目の柱は、防災士育成などの「人づくり」です。特に避難所に女性の視点が足りないというご意見をいただいたので、女性防災士の育成に注力しています。2つ目は、「官民連携」。役所の力だけでは限界があるので民間の力もお借りします。例えば、キッチンカーの団体やトイレカーの団体などと協定を結んでいます。3つ目は、「ワンチーム」。富山県と15市町村がワンチームで対応にあたるために連携協定を結びました。被害が軽微な市町村が被害の大きな所に助けに行きます。4つ目は、「高品質」。これは、避難所の環境を良くする取組で、災害関連死の抑止にもつながります。そして5つ目は、「DX」。災害こそデジタルの活用が必須です。例えばマイナンバーカードを活用すれば、誰がどこの避難所に避難しているのか明確化できます。我々も避難所の情報をリアルタイムで共有できますから、対策も打ちやすくなります。

この5本を柱として、災害に強い富山県づくりを進めています。

「もっと美しく、楽しく」
夢を構想し実現する知事の決意

――最後に、今後についての抱負をお願いします。

2026年度は、新しい総合計画を本格的に動かしていく「実行の年」となります。これから、着実にこの計画を進めることが、富山県民のウェルビーイングを高めます。そうした幸せな富山県により多くの人が関わってくれる、応援してくれる、あるいは移住してくれる。そういったことにつなげていきたいと考えています。

 

新田 八朗(にった・はちろう)
富山県知事