増加するロケット打ち上げ需要に応える!民間開発企業の今

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年4月17日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

宇宙空間の利用ニーズの高まりを背景に、人工衛星の軌道投入などに欠かせないロケットの打ち上げ需要が拡大している。ロケットは宇宙にモノや人を運ぶ「宇宙輸送システム」の根幹。これまでは国が開発を主導していたが、近年はより高頻度で、より柔軟に、より低価格での打ち上げを目指し、小型ロケットの開発に参入した民間企業にも注目が集まっている。信頼性とコスト競争力を両立するロケットを量産し、高頻度に打ち上げていくためにはサプライチェーンの強化が必要で、これまでは宇宙産業に関わっていなかった企業や人材の参画も求められる。今回は、ロケットの打ち上げを巡る世界の現状と、日本の主な民間のロケット開発企業の取り組みを紹介する。

ロケットの打ち上げ画像

米中を中心に増加するロケット打ち上げ

経済産業省によると、日本や米国、中国などロケットの打ち上げ能力を持つ主要6か国で、2025年に打ち上げに成功した件数は計314件だった。このうち、日本は3件でほぼ横ばい。一方、全体の約61%を占めた米国は192件で2013年の18件から約10.7倍に、約29%を占めた中国は91件で同様に6.5倍に増加している。

各国のロケット打上げ数
(経済産業省作成)

ロケットの打ち上げが増えている背景には、比較的小型の衛星を複数打ち上げて連携させ、一体的に運用することで、高速・大容量な通信サービスや、より高解像度・高頻度な地球観測データの提供を可能とする「衛星コンステレーション」の進展がある。米国の民間宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク」が代表例だ。

商業衛星の打ち上げ地に日本という選択肢を

衛星の打ち上げ需要が世界的に高まる中、日本では、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を主導する基幹ロケットが科学探査や安全保障などの政府のミッションを実現する衛星の打ち上げを担っているが、商業衛星の打ち上げに関しては海外に依存する状況が長年続いている。

自国での商業衛星打上げ回数(2013-2022年累計)

宇宙へのアクセスを自律的に確保するとともに、商業衛星の打ち上げ場所に日本という選択肢を提供する--。拡大する宇宙市場において日本が国際競争力を維持するためにも、民間ロケットの実用化に期待がかかる。

スペースワン…世界最短・最高頻度の打ち上げで「宇宙宅配便」目指す

スペースワン(本社:東京都港区)は、小型ロケットによる商業宇宙輸送サービスの提供を目的に2018年7月に、キヤノン電子、IHI エアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の4社の出資で設立された。人工衛星を「いつでも、どんな軌道にも」投入できる「宇宙宅配便」となることを目指し、自社ロケット「カイロス」の開発を完了したほか、専用の打ち上げ射場「スペースポート紀伊」(和歌山県串本町、那智勝浦町)を既に整備している。目標に掲げる「契約から打ち上げまで12か月以内」「2020年代に年間20機以上、2030年代に年間30機以上の打ち上げ回数」は、実現すれば世界最短・最高頻度レベルだという。

開発中のロケット「カイロス」(左)と専用の打ち上げ射場「スペースポート紀伊」のイラスト(ともにスペースワンのホームページから。クリックで拡大)
開発中のロケット「カイロス」(左)と専用の打ち上げ射場「スペースポート紀伊」のイラスト(ともにスペースワンのホームページから。クリックで拡大)

カイロスは、燃料を充填(じゅうてん)した状態で保管できる固体燃料ロケット。射場での作業が短時間で済むため高頻度の打ち上げに適しているうえ、構造がシンプルで部品点数が少なく、低コストにもつながるという。スペースワンは2024年3月に初号機、同12月に2号機、2026年3月に3号機をスペースポート紀伊から打ち上げた。こうした経験や蓄積されたデータを生かし、人工衛星の軌道投入への挑戦を続けている。

<スペースワンが取り組んでいるミッション>

<スペースワンが取り組んでいるミッション>
(スペースワンの資料から。クリックで拡大)

スペースワンの豊田正和社長=写真=は、内閣官房宇宙開発戦略本部事務局の初代事務局長を務めたこともあり、「宇宙輸送システムは宇宙を利用するうえで欠かせないインフラ。これがなければ衛星を打ち上げられず、宇宙産業は発展しない」と語る。同社を含む複数の民間企業がロケット打ち上げに取り組んでいることについては「日本もようやくそういう時代になった。それぞれの会社が特徴を生かし、宇宙輸送システムを補完しあえる関係になれば」と話す。

豊田正和社長

スペースワンは、キヤノン電子が持つ民生機器の製造・コストダウンのノウハウをロケットのシステムに活用、IHI エアロスペースが確実な開発を行い、清水建設が「スペースポート紀伊」の整備を担うなど、それぞれの知見や経験が生かされている。現在は20社近くが協働しているといい、和歌山県の中小企業が製造した部品も活用されている。豊田社長は「例えば自動車部品のサプライヤーなど、様々な業種が宇宙産業に関わる可能性がある。宇宙を身近に感じてもらうことが非常に重要だ」と話している。

インターステラテクノロジズ…国内初のロケットと衛星の垂直統合ビジネス

インターステラテクノロジズ(本社:北海道大樹町)は、国内では初となる、ロケット事業と通信衛星事業の双方を自社で一貫して行う垂直統合ビジネスを目指している。衛星コンステレーションの進展を背景に、中山聡代表=写真=は、「自社のロケットがあるからこそ、顧客の衛星に限らず自社の通信衛星も最適なタイミングで打ち上げることが可能になる。両事業を手がけることで、宇宙事業の最大化が図れる」と狙いを語る。

中山聡代表

インターステラテクノロジズは2013年に事業を開始、主要株主にはトヨタ自動車の子会社で先端技術開発を担うウーブン・バイ・トヨタや大手商社の丸紅などが名を連ねている。宇宙インフラを「一点モノ」の生産から高頻度の打ち上げに耐えうる「工業製品」へと変革し、宇宙を自動車産業に続く「次の産業」にする考えだ。中山代表は、「世界の潮流を意識しなければ淘汰(とうた)されてしまう。民間が参画することで、世界と戦える競争力を得られる」と話す。インターステラテクノロジズはこれまで、液体燃料の観測ロケット「MOMO」(全長10.1m)を7回打ち上げるなどの実績があり、2019年5月に打ち上げたMOMO3号機で、国内では初めて民間企業単独で、宇宙空間への到達を達成した。

現在、約320人いるメンバーには、トヨタグループやその関連会社から出向している約20人の技術者が含まれる。モノづくりを重視し、エンジンを筆頭にロケットの主要なコンポーネントをインターステラテクノロジズ自身で設計・開発し、高い設計内製率を誇るのも特徴という。

開発中のロケット「ZERO」(全長32m)は、大樹町の本社からほど近い場所に2026年度中の完成を目指して整備中の新発射場「北海道スペースポート LC1」から打ち上げる予定だ。ZEROは民間ロケットとしては世界で初めて液化バイオメタン(LBM)を燃料に採用。開発は佳境を迎えており、エンジンの燃焼試験を重ねているほか、各コンポーネントの製造・試験が同時進行で進んでいる。

開発中のロケット「ZERO」と北海道大樹町で整備が進む北海道スペースポートの新発射場 LC1のイメージ(インターステラテクノロジズ提供。クリックで拡大)
開発中のロケット「ZERO」と北海道大樹町で整備が進む北海道スペースポートの新発射場 LC1のイメージ(インターステラテクノロジズ提供。クリックで拡大)
1基で13トンの推力を持つZEROのエンジン(左)と高度な溶接技術で製造される推進剤タンク(インターステラテクノロジズ提供。クリックで拡大)
1基で13トンの推力を持つZEROのエンジン(左)と高度な溶接技術で製造される推進剤タンク(インターステラテクノロジズ提供。クリックで拡大)

ZEROの初号機には国内外の民間衛星7機を搭載することが既に決まっており、インターステラテクノロジズは、海外でも競争力のある輸送サービスの提供を目指してグローバルな体制を構築している。中山代表は「宇宙産業の時代はいずれ、否応なしに到来する」と強調、「宇宙インフラやサービスは一朝一夕にはできない。目に見える形になるまで待っていたら、ビジネスに乗り遅れてしまうリスクがあるのではないか」と話す。今は宇宙とつながりがない企業に対しても「どう関わることができるかを意識することは大切ではないか」としている。

将来宇宙輸送システム…宇宙と地球を往還する再使用型ロケット開発

将来宇宙輸送システム(本社:東京都中央区)は2022年5月に設立されたスタートアップで、「誰もが宇宙にアクセスできる時代」に向けて、人やモノを乗せて何度も繰り返し使うことができる再使用型ロケット「ASCA(アスカ)」の開発に取り組んでいる。創業者の畑田康二郎社長=写真=は2015年から2年間、内閣府宇宙開発戦略推進事務局に勤務した際に米国のスペースXがすでに事業を軌道に乗せていたことに衝撃を受け、「日本でも民間が宇宙産業を推進するダイナミズムを作りたいと考えた」と話す。また、誰もが宇宙にアクセスできるようになるにはロケットの打ち上げ高頻度化や低コスト化が欠かせず、再使用型ロケットの可能性に着目したという。

畑田康二郎社長

将来宇宙輸送システムはまた、宇宙への玄関口となるスペースポート(宇宙港)を整備し、ASCAを利用して地球上のどこでも1時間以内に移動できる高速大陸間移動の提供や宇宙旅行商品の開発などにも取り組む。宇宙輸送に関わる新たな設備やサービスの創出で、宇宙産業を日本の新たな基幹産業にすることを目指している。

再使用型ロケット「ASCA」とスペースポートのイメージ(将来宇宙輸送システムのホームページから。クリックで拡大)
再使用型ロケット「ASCA」とスペースポートのイメージ(将来宇宙輸送システムのホームページから。クリックで拡大)

事業のカギを握るASCAは単段式ロケットで、長さ40.7mの機体が飛行機のような形をしているのが特徴だ。高度400km程度の地球周回軌道に10tの人員や物資を投入できる能力を持ち、宇宙と地球を1日に1回往還、適切な点検整備と部品の交換で1000回超の繰り返し利用を想定している。2040年代の実用化を目指して段階的に開発が進められており、2026年1月には、液体燃料エンジンの着火試験に成功した。

2040年代の実用化に向けて段階的に進められるASCAの開発(将来宇宙輸送システムのホームページから。クリックで拡大)
2040年代の実用化に向けて段階的に進められるASCAの開発(将来宇宙輸送システムのホームページから。クリックで拡大)

2022年創業の将来宇宙輸送システムが「2040年代のASCA実用化」というスピード感のある事業計画を描ける背景には、パートナー企業との連携がある。例えば、燃焼試験では荏原製作所、燃焼試験場では旭化成が、大物の組み立て場所ではJFEエンジニアリングが協力しているという。畑田社長は「必要な技術や施設は、企業や大学、国にもある。全て自前でまかなうのではなく、これらを組み合わせた水平分業型でいかにサービスを早く実現するかが大事」と語り、「我々はミッションを策定し、構築すべきシステムを定義し、パートナー企業とともに進んでいく。『民間版JAXA』のような立場」と話す。そのうえで、「今は、企業のトップが新しい事業分野を検討する際、AIや脱炭素、量子コンピューターなどと並んで宇宙が選択肢の一つに入る時代。多くの経営者が『宇宙で、何か新しいことができないか』と考え始めており、(輸送を担う)我々とも連携がしやすい」という。宇宙は一部の熱烈なファンや学者、技術者、政府だけのものではない。畑田社長は「敷居を高く考えずに宇宙に目を向けてほしい」としている。

ホンダも再使用できる「サステナブルロケット」を開発中

自動車メーカーのホンダも、小型ロケットの開発に取り組んでいる。ホンダが培ってきたエンジンの燃焼技術や自動運転などの制御技術を生かし、再使用できる「サステナブルロケット」を開発。持続可能な輸送の実現に貢献するという。垂直姿勢で打ち上げ、高度100km程度まで到達した後に垂直姿勢を保ったまま着陸できるロケットを開発中で、研究開発子会社の本田技術研究所は2025年6月17日、北海道大樹町の専用施設で、自社開発の実験機(全長6.3m)による高度300mまでの離着陸実験に初めて成功した。

離着陸実験の様子(ホンダ提供)
離着陸実験の様子(ホンダ提供)

ホンダは「商業化は決まっていない」としているが、技術開発の目標として、2029年に高度100km以上の準軌道に到達する能力の実現を掲げている。

元記事へのリンクはこちら

METI Journal オンライン
METI Journal オンライン