新しい決済インフラとなる技術 ステーブルコインの可能性と課題
AIエージェントが自律的に決済を行う時代を見据え、価格安定性を備えた暗号資産「ステーブルコイン」への関心が高まっている。事業構想大学院大学事業構想研究所が5月18日に開いた研究会では、その可能性と日本の決済インフラが抱える課題が議論された。

地域経済の活性化に資するステーブルコインの活用について活発な討議がなされた
価格を安定させた暗号資産
ステーブルコインのルールづくり
ステーブルコインは日本において電子決済手段という名称で、法定通貨や現物資産の価格と連動し、価格の安定性を保っている。まず、JPYC株式会社代表取締役の岡部典孝氏が「日本で始動したステーブルコインの可能性と課題」をテーマに講演した。同社は日本におけるステーブルコイン発行に向けてルールづくりから関わり、2025年10月に日本で初めて円建てステーブルコイン「JPYC」を発行した。
岡部典孝 JPYC株式会社代表取締役
ステーブルコインの特徴については「加盟店という概念がないため、不特定多数の店舗等で手数料なく決済に使え、店と消費者あるいは消費者と消費者で送り合えること」と説明。「AIエージェント経済圏の中で独自に交渉、契約をして自動で売買を行う標準的な決済手段として期待されています。日本がアジアにおけるステーブルコイン経済圏の中心になれば、通貨主権を守ることもできる」とその役割を強調した。
一方で、「ステーブルコインはキャッシュか、キャッシュレスか位置づけがあいまいです。またAI同士の決済を行った際のインボイスの扱いなど未整備の点が多く、省庁の枠を超えた制度設計が今後、必要になります」と述べた。
AIエージェント経済圏で
必須となるウォレット
ステーブルコインをはじめとする暗号資産、NFTなどを入れておくデジタル財布「ハッシュポートウォレット」のサービスを提供しているHashPort代表取締役CEOの吉田世博氏は「ビジネス・リテール・AIで使われるウォレットの世界と今後」のテーマで講演。特に店頭・EC決済で使えるウォレットは、売り手・買い手の双方から評価が高い。手数料無料で使うことができるためで、お好み焼きレストランの「千房」が導入したことでも話題を呼んだ。
吉田世博 HashPort代表取締役CEO
最近の事例として、ステーブルコインとAIとをつなげ、旅行エージェントに対し予約と送金を行う実証実験を実施していると紹介。「将来は、ステーブルコインウォレットがAIエージェントに選ばれるサービスとして必需品になっていくだろう」との見通しを示した。同社では2026年中にステーブルコインを活用して店頭・EC決済、海外送金、AIエージェント決済を行い、各種システムをつなぐAPIも備えたプラットフォームの提供を目指している。
垂直統合型リテール決済における
インフラの課題を指摘
続いて衆議院議員の神田潤一氏が講演し、国内におけるステーブルコインの社会実装の経過を説明した。2023年の資金決済法改正により法定通貨担保型ステーブルコインの発行が可能となり、2025年にはSBI VC TradeによるUSDC(米通貨建てSC)の発行に加え、日本初のステーブルコインJPYCも誕生した。さらに同氏は、自民党デジタル社会推進本部が、AIエージェントがステーブルコインやトークン化預金を使って決済をするオンチェーン金融への対応を見据え、提案していることについても言及した。
神田潤一 衆議院議員
ただし、リテール決済インフラについては、日本は垂直統合型でQR決済、電子マネー、クレジットカード、海外送金で別々のインフラ、アプリがあり相互運用がなされていない点が問題だと指摘する。欧州では水平分業型でアプリの相互接続性が確保されているという。
「今後、どのような決済システムのあり方が求められるのか、誰が中心となって設計し、推進していくべきか、官民の担う領域、競争領域と協調領域をどう考えるべきかについて皆さんと一緒に考えたい」と呼びかけた。
多様な決済手段が並立する日本
全体のあり方は要・検討
これらの講演の後、研究会の参加者がステーブルコインについて討論した。一般社団法人キャッシュレス推進協議会事務局長の福田好郎氏は「これまでの決済手段の上にさらにステーブルコインが加わることになる。日本ではさまざまな決済手段に対してそれぞれの業規制があってサイロ化せざるを得ない。我が国の決済はこうあるべきだということをだれも明示していない。決済統一法制の仕切り直しも含めて再整理するタイミングなのでは」と問題提起した。
これに対し神田氏は「オンチェーン金融の時代に向けて、国全体の金融サービスの観点で決済システムのあり方を再検討していくべきです。その場合の司令塔は金融庁が担うべき、ということも自民党デジタル社会推進本部で提言しており、検討の必要があるテーマです」と述べた。
日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの若目田光生氏は、「決済に関わる不正検知もAIが行うようになった場合、どのような仕組みで安全性が担保されるのか知りたい」と質問。岡部氏は「金融機関、暗号資産交換業者、ステーブルコイン発行体などがグレー情報を共有する実証実験をすでに始めている。ブロックチェーンのアドレスをベースに怪しい情報を集め、それが一定以上集まった段階で犯罪収益移転防止法に基づいた事業者がチェックするという防御体制で今のところはうまくいくのでは、と期待しています」と回答した。
地域活性化に向け
ユニバーサルアクセス性の確保を
福田氏は、ステーブルコインのデータ活用による地域経済活性化に必要な条件も指摘した。「広く普及させるためには、デジタル技術に不慣れな人でも使えるようにしなければならない。事業者にとって導入しやすい仕組みが必要です。システムに乗りたい人はだれでも参加できるユニバーサルアクセス性をどのように実現していくかという視点は欠かせません」。
また、QUICKデータソリューション事業本部データ分析G兼ナレッジコンテンツ本部シニアマネージャーの北村慎也氏は「利用側の視点で課題を考えると、AI同士で決済を行う場合に生じるインボイスの問題や、月末締め、翌月払いといった商慣習との適合が気になっている」と、サービスを導入する事業者側の懸念点を挙げた。
これに対し岡部氏は、「例えばJPYCでは1回利用に当たり上限100万円という制限があり、月1回にまとめて多額の決済を求められるとそれができない。となると小分けするしかないので日次決算という発想が出てくる。AIが、事業者の日次決算のリアルタイムデータをもとに資金を融資するといった世界が実現することも考えられ、これは遊んでいるお金を極力少なくして資金効率を向上させることにもつながる。そのような場面でステーブルコインが貢献できるということもアピールしていきたい」と述べた。