三重県知事インタビュー 「空飛ぶクルマ」の実用化で新産業を創出

テクノロジーの活用で「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」の実現を目指す鈴木英敬三重県知事は、第2期「三重県まち・ひと・しごと創生総合戦略」を掲げ、独自の「令和の日本列島改造論」を提唱。「Smartな自治体変革」や「空飛ぶクルマ」の実証実験の誘致などに注力している。

三重県知事 鈴木英敬氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策のためオンラインインタビューにより実施(2021年5月25日)

――第2期「三重県まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中の人口減少対策について、お聞かせください。

第1期の総合戦略により、合計特殊出生率の全国順位が、2017年に29位、2018年に19位、2019年に16位と上がり、自然減の対策については一定の成果が出たと思っています。一方、社会減については、2019年の県外への転出超過数の目標を1,600人としていましたが、6,251人という厳しい結果となりました。特に若い世代の転出超過に歯止めがかからない状況です。

この結果を踏まえて、第2期では地方創生の実現に向けた3つの考え方を明示しています。1つ目は、「量」と「質」を重視した地方創生です。これは、地域を支える人材確保という量的な視点だけでなく、そこに暮らす一人ひとりの希望を叶えられるような生活の質を高めるということです。

2つ目は、課題解決に向けた「対策」の再編です。「活力ある働く場づくり」「未来を拓くひとづくり」「希望がかなう少子化対策」「魅力あふれる地域づくり」の4つに再編し、様々な施策を分野横断的かつ一体的に取り組むことで課題解決を図り、地域の自立的、持続的な活性化を実現します。

3つ目は、Society 5.0やSDGsといった新しい技術や新しい考え方の活用です。IoT、ビッグデータ、AI、自動運転などの技術は、労働力不足や地域交通の維持充実など、地方が抱える課題の解決が期待できます。SDGsの「誰一人取り残さず、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指す」という考え方は、地方創生の大きな原動力となります。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、大都市への過度な一極集中は危機管理上のリスクが高いことを顕在化させました。その結果、30代や40代を中心に地方への関心が高まり、首都圏からの転出超過が進んでいます。三重県はこうした人たちが住みたい場所、住み続けられる場所になるような戦略をとっていかねばなりません。

私は、それを実現するのは「令和の日本列島改造論」だと考えています。田中角栄さんの「日本列島改造論」はインフラ整備によって地方の活性化を図ろうというものでしたが、令和の改造論は、「医療」「子育て・教育」「デジタル」「防災・減災、国土強靱化」を充実させることで地方を活性化して、一極集中を是正します。

第2期の総合戦略の成果は少しずつ表れています。2020年度に市町の空き家バンクや移住相談窓口などを利用した移住者は前年比34%増の514人となり、統計を取り始めた2015年度以来最多となりました。

「3つのS」が実現する
住みたい場所で暮らし続ける自由

――アフターコロナを見据えて取り組まれている「Smartな自治体変革」についてお聞かせください。

デジタル改革で目指すのは、性別年齢国籍や障がいの有無に関係なく、誰もが住みたい場所で暮らし続けられるようにすることであり、幸せで快適な生活を送れるようにすることです。三重県では「あったかいDX」をキャッチフレーズに、社会課題の解決と県庁や行政のあり方を変えていく「3つのS」、すなわち、「Smart Government」「Smart Workstyle」「Smart Solutions」を進めてきました。

現在特に注力しているのは「みえDXビジョン」で、DXで実現する世界を県民の皆さんにわかりやすく示し、目標を共有するためのものです。また、市や町、県民の皆さんがデジタルに関することで困った時に何でも相談できる「みえDXセンター」を設置する準備も進めています。私が提案をしていた全国知事会のデジタル社会推進本部の設置が実現したので、今後は全国のデジタル関連部局を結んだ連携会議を実現したいです。

DXを推進するには「技術」「人材」「ルール」の3つがセットで必要です。特にデジタルを前提としたルールになっているかどうかは重要です。少し前までは地方自治体が支払いにクレジットカードを使えなかったように、ルールがデジタルを前提としていないと行政はDX化したくてもできません。

――スマート人材も、一朝一夕で育つものではありませんよね。

一朝一夕には育たないので、中長期的にスマート人材を育成しながら、短期的にはリボルビングドアの仕組みをつくることが重要だと思っています。

当県は今年度デジタル化の取組を加速するため「デジタル社会推進局」を設置し、その司令塔となる常勤の「デジタル最高責任者(CDO)」を全国の自治体で初めて公募で選出しました。

デジタル社会推進局のキックオフ。同局の司令塔となる常勤の「デジタル最高責任者(CDO)」を全国の自治体で初めて公募で選出した

今後はデジタル社会推進局に民間の兼業・副業チームをつくろうと思っています。現在、日本のデジタル人材の大半はNECや富士通などのベンダーに所属していますので、この開放を兼業・副業リボルビングドアと併せて短期的に進めて、全国のデジタル人材のレベルアップを図る必要があると思っています。OJTは自治体や行政の職員を大きく成長させます。ですからスタートアップの人たちも含め、一緒にやってくれるベンダーの人材を開放することは非常に重要だと考えています。

「空飛ぶクルマ」で新サービスを生み出す聖地に

――「空飛ぶクルマ」の実用化に向けた実証実験の誘致を、積極的に推進しておられますね。

空飛ぶクルマは、誰もが住みたい場所に住み続けられるようにするための空のインフラです。当県は2020年3月に全国の自治体で初めて「空飛ぶクルマ 三重県版ロードマップ」を策定し、交通・観光・防災・生活の4つの分野の地域課題の解決を図り、新ビジネスの創出を目指します。具体的には、民間企業と連携して、2023年に物流分野、2027年には人が乗れる空飛ぶクルマの実用化を目指します。

図表 空飛ぶクルマ 三重県版ロードマップ

三重県は、空飛ぶクルマの試験・実証フィールドの提供を通じてその事業化を促進し、地方発の新しいビジネスの創出や、移動革命による社会構造の再構築により、豊かな近未来社会の創造に取り組みます。

出典:三重県

 

今年1月には楽天が志摩市の離島、間崎島で自動飛行ドローンによる配送サービスの実証実験を行いました。同市内のスーパーマーケットから間崎島開発総合センターまで、実証実験としては最長距離にあたる往復11㎞間を自動制御により目視外飛行して商品を配送しました。高齢化率が80%の間崎島の人々は、志摩市内まで船や電車を乗り継いで生活必需品を買いに行っていましたが、ドローンはわずか10分で配達します。利用者アンケートの平均点は100点満点中98点で、「このサービスは島民にとって希望の燈火だ」という感想が寄せられました。楽天との実証実験では、薬をドローンで運ぶ実験も行いました。

三重県には約1,100kmの海岸線があり、南海トラフ地震の懸念があります。空飛ぶクルマに人が乗れるようになれば、漁業従事者の方々が内陸の住居から効率的に漁港に通うこともできます。人が集積すれば、その地域に活力が生まれます。空飛ぶクルマをまちづくりにも活用できればと思っています。

空飛ぶクルマの離島間での活用イメージ

観光面も、現在は中部国際空港から伊勢志摩まで陸路で約3時間かかりますが、空飛ぶクルマなら30分に短縮できます。移動だけでなく観光地の回遊に活用するなど、新たな価値の創出もできるでしょう。当県には実証実験に協力したい市や町がたくさんありますので、実証サービスの開発をどんどんやっていただきたい。三重県が空飛ぶクルマの新しいサービスを生む聖地になればと思っています。

空飛ぶクルマの実用化も、DX推進と同じように、空飛ぶクルマを使えるルールが必要ですので国に「許可基準」をつくっていただくよう提案しました。おそらくこの秋ぐらいから動きがあるのではないかと期待しています。

オンライン商談会や補助金事業で
中小企業の海外展開を支援

――中小企業の海外展開について、アフターコロナに向けてどのような戦略をお考えでしょうか。

販路開拓についてはオンライン商談会の支援をしています。この3月にはJETROと協力して、スペインバスク州のバイヤー4社と県内の食品事業者20社による商談会を実施しました。

また、今回のコロナ禍でサプライチェーンの寸断により部品が輸入できなくなる事態が発生しました。そこで三重県では海外サプライチェーンの多元化と販路の拡大を積極的に支援しています。昨年度は中小企業の販路開拓を目的とした調査費用や、多言語の部品カタログの作成費用などに対する補助事業を約5,000万円の予算で行い、67の事業者が利用しました。この補助事業は今年度も継続しています。

今後取り組むべき重要事項には、脱炭素化があります。三重県は自動車のエンジン部門関係の企業が多く、EV化への対応が課題です。そこで8月を目途に脱炭素における産業構造転換のための有識者検討会議を立ち上げます。

 

――観光施策については、どのようにお考えでしょうか。

コロナ禍で需要が急増したアウトドア系や自然体験系の観光は、三重県には得意なジャンルですから、まずこれを充実させていきます。加えて、新しい旅のスタイルとして注目を集めているワーケーションについて、日本航空と連携協定を結ぶとともに、三重県が選ばれるためのみえモデルを構築する事業を進めています。また、宿泊施設や土産物店、観光施設などの感染症対策を徹底するため、7月から認証制度をスタートする予定です。

インバウンドに関しては、再開可能になった時にスタートダッシュを切れるようにしておく必要がありますので、海外の観光関連機関とオンライン会談を行うなど、積極的に海外との連携を深めていきます。

特産品の産地全体が儲かる輸出の仕組みを構築

――農産物などの特産品の販促戦略についてお聞かせください。

自治体職員が法被を着て売り込む「法被営業」を脱却するべく、HISと連携協定を結び、産地全体が儲かる農産品輸出の仕組みづくりを進めています。世界中に代理店を保有し、現地のレストランやホテルとつながっているHISに商社の役割を担っていただいています。

たとえば直近では、お茶のニーズがあり、競合が入っていない地域を選定していただきました。そこに個々のお茶農家が輸出するのではなく、産地で一斉に輸出します。そうすることで出荷量が増大して、売上も大きくなります。お茶の特徴や価格は様々ですが、それが交渉のオプションとして機能します。その結果、産地全体が儲かるわけです。なぜこの方法にもっと早く気づかなかったのかと、自戒の念を込めて、昨年度から仕組みづくりに取り組んでいます。

最後に、三重県では今年、「三重とこわか国体・三重とこわか大会」を開催します。安全・安心に万全の体制で開催しますので、コロナ禍の中でがんばるアスリートの皆さんを応援してもらえるといいなと思っています。そしてコロナ禍が落ち着いた時には、ぜひ伊勢神宮にお越しいただき、暮らしの安心を祈願していただくといいのではないかと思います。 

 

鈴木 英敬(すずき・えいけい)
三重県知事