海外の物流関連スタートアップ20選 多様な角度から物流課題に挑戦

物流の課題を解決するため、各地で新規事業が立ち上がっている。 物流の様々なプレイヤーをつなぐプラットフォームを目指す企業は多い。 インドや東南アジアでは、ITを活用した信頼性の高いサービスが成長してきた。

米Zipline International社

射出装置から発射するタイプの自律運航する固定翼型ドローンを使用して医薬品の輸送を行う企業。配送の際ドローンは着地せず、荷物はパラシュートで投下する。配達を終えたドローンは着陸施設まで飛行し、空中に張られたワイヤーに尾翼のフックをひっかけることで回収される。

既にルワンダとガーナで、国全体をカバーする広域医療品配送事業を実施しており、米国でもサービスを提供する。創業は2013年で、自動飛行によるワクチンや血液製剤、医療用医薬品などの医療施設向け配送で実績を積んでいる。2021年6月にはシリーズEラウンドで2億5000万ドルを資金調達した。

日本企業では2018年に豊田通商が出資・業務提携しており、ガーナの豊田通商グループ企業が扱う医薬品をZipline社のドローンで配送している。また豊田通商は、Zipline社からの技術提携を元に、ドローンを使った物流サービスを日本で構築することを目指して子会社「そらいいいな」を設立。2022年5月に長崎県五島列島で、医療機関に医療用医薬品を配送する事業を開始した。

 

米Aurora Innovation社

Googleで自動運転自動車プロジェクトを推進していたロボット工学者が2017年に設立した企業。米国のトラックメーカーPaccar社と協力して、自動運転トラック技術を開発している。自動運転に必要な強力な計算能力を確保するために、半導体米Nvidia社がハードウェアで協力しているほか、LIDAR技術を持つスタートアップやUberの自動運転ユニットであるAdvanced Technologies Groupを買収した。2021年末に特別買収目的会社(SPAC)との合併によって米ナスダック市場に上場した。

2021年9月からはFedex社と商業ベースの自動運転トラックの運行を開始、2022年5月には取組を拡大した。テキサス州フォートワースからエルパソまでと、ダラスからヒューストンまでの2つの経路で、貨物トラックの試験的な自動運航を開始している。これまでのところ、無事故で少なくとも10万kmの安全な走行に成功している。自動運転トラックの正式な発売は当初より延期され、2024年後半を予定している。

 

米project44社

サプライチェーンのモノの移動を可視化するツールを提供する企業。創業は2014年。原料や素材、中間加工された材料がどこにあるかをリアルタイムに把握することで、緊急輸送による追加コストを減らし、遅延ペナルティのリスクを事前に把握して対策を打ったりできる。それにより、各段階における在庫の適正化が可能になり、サプライチェーンの各社の経営はより合理的になる。優良な輸送業者をデータに基づき把握したり、輸送能力に余裕のある運送業者を探す際にも使える。また、輸送に伴う書類のやり取りを紙からデジタルへと移行できるようにした。2022年2月に日本オフィスを立ち上げている。

 

ドイツTradeLink社

欧州においてもトラック輸送の際の倉庫での荷下ろし・積み込みの際の待ち時間が問題になっている。TradeLink社では、運送事業者、荷主、調達先、倉庫オペレーターなど、すべての配送パートナーをプラットフォームでつないで、効率的な作業ができるようにすることを目指す。倉庫オペレーターが直感的に操作できるワークフローツールを開発しており、短期的には倉庫の作業における効率アップを、長期的には輸送プロセス全体の調整とデジタルベースでの情報のやり取りができるコミュニケーションプラットフォームを目指している。2022年6月に1200万ユーロを資金調達した。

 

米Turvo社

サプライチェーン向けに設計した協業アプリケーションを提供している2014年創業の企業。荷主、物流業者、運送事業者によるサプライチェーンの統合を可能にし、リアルタイムで協働できるようにする。デジタル化により煩雑な手動の作業を排除してビジネス・プロセス自動化を進め、各事業者の様々なシステムを統合して作業と分析を実行するエンドツーエンドのソリューションを提供する。2022年6月に、食品など低温での輸送・保管が必要な物資向けに、コールドチェーンの物流倉庫やソリューションを提供する米Lineage Logistics社の傘下に入った。

 

米FourKites社

リアルタイム輸送可視化プラットフォーム企業。創業は2014年。トラックや鉄道、飛行機、船などで輸送される荷物の位置情報を全地球測位システム(GPS)などを活用して把握し、到着日時を予測するサービスや、倉庫・配送センター・製造施設が集荷・入庫の時間帯を効率的に連携できるようにするアポイントメント・サービスを提供している。独バイエル社や米ダウ社、米3M社ほかフォーチュン500企業の50%の世界のサプライチェーンをつないでいるという。米Fedex社、ボルボのCVCなどが出資しているほか、日本企業では2022年9月に三井物産が1000万ドルを投資している。

 

米Flexport社

2013年に創業した国際貨物物流のデジタル化を進めるフレイト・フォワーダー(貨物利用運送事業者)。紙ベースの手続きが多い国際物流関連の業務のDXを進める。通関事業者や運送事業者、倉庫事業者など国際物流に関わる様々な事業者のコミュニケーションをプラットフォームで一元化して、貨物をリアルタイムに追跡したり、正確な配送日を把握することを可能にした。また顧客に対し、輸出から代金回収までのつなぎ資金を提供する貿易金融を提供している。2022年2月にシリーズEファイナンスで9億3500万ドルを調達。ソフトバンク・ビジョンファンドなどが同社に投資している。

 

米Convoy社

荷主と、トラックの荷台のスペースに空きのある運送業者を効率よくマッチングするツールを手掛ける企業として2015年に創業した。広大な米国の都市間輸送において、荷主と近くのトラック運送会社をデジタルネットワークでつなぐ。自動化されたマッチングシステム、値付け、スケジュール設定により荷主はトータルコストを抑えつつ荷物を運べるようになり、運送業者は複数の荷主からの可能な限り多くの荷物を運ぶことで、往復無駄なく運送費を稼げるようになる。空の状態で移動するトラックを減らせることから、温暖化ガス排出抑制にも貢献できるという。

 

インドLetsTransport社

軽貨物トラック輸送のアグリゲーターとして、2015年に設立された。本社はバンガロール。ラストワンマイル輸送を効率化するロジスティクス・アプリを提供している。分かりやすい価格設定で、近距離~州内配送を含むさまざまなサービスを提供する。有能なドライバーを集め、車両はGPSで追跡可能、走行距離ベースでの料金請求、顧客の要望に合わせた輸送の提供など、インドの貨物輸送のデジタル化を目指した事業に取り組む。インドのテクノロジースタートアップを分析するTracxnによると、同社は2022年には2億2200万ドルの企業価値があると推定されている。

 

タイFlash Express

2017年に創業した、タイで初めてのユニコーンベンチャーとも目される企業。主にEC事業者に向けた集荷・宅配や物流サービスを手掛ける。タイ全土、1都76県にネットワークを持ち、配達車両、仕分けセンター、配送センター、取次店があるという。タイの石油会社PTTの小会社PTT Oil and Retail Business社、タイの大手銀行であるサイアム商業銀行(SCB)の子会社であるSCB 10X社、中国アリババ社などが同社に出資している。

 

シンガポールNinja Van社

2014年にシンガポールで設立された宅配便事業を行う運送会社。ネット通販企業のための信頼性の高い宅配を実現することを目指している。シンガポールのほかマレーシア、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシアなど東南アジアで事業を進める。ラストワンマイルでは、Ninja Vanから購入したパッケージに詰めた荷物を定額で送れる「Ninja Packs」などのサービスを実施。また東南アジア最大の宅配事業者として、国境を越えた荷物の配達も手掛ける。2022年1月にはマレーシアに最新のマテリアル・ハンドリング機器を備えたフルフィルメント倉庫を開設した。

 

インドXpressbees社

2015年に創業したインドの総合ロジスティクス企業。個人向け宅配、ビジネス向けの運送、国際輸送、サードパーティロジスティクスを手掛ける。広大なインドをカバーし、一日あたり300万個の小包を取り扱っている。同社のシステムでは荷物のリアルタイム追跡が可能で、返品にも対応する。ビジネス向けサービスでは、製薬企業向けの温度管理された保管・配送サービスや、製造業向けの重量物・巨大物の輸送・保管なども行う。2022年2月にシリーズFラウンドで3億ドルを資金調達している。

 

トルコGetir社

トルコ発の日用品配送プラットフォーム企業で、同国で2番目のユニコーン企業。トルコでタクシー配車アプリ企業を設立した起業家を含むチームにより2015年に設立された。イスタンブールを拠点に、欧米各国でモバイルアプリを通して食料品や日用品、レストランのテイクアウト料理などを顧客の家に配送するサービスを展開している。スペインと英国、ドイツにおいて、類似したビジネスモデルを持つスタートアップを買収、配達ハブを増やした。2022年3月のシリーズE資金調達で7億6800万ドルを調達。

 

米Fabric社

マイクロフルフィルメントセンターとロボティクス、リアルタイム在庫管理を組み合わせたシステムを提供する物流テック企業。2015年に創業した。米国とイスラエルでビジネスを展開し、顧客企業の販売する日用品や生鮮食品などを注文から短時間で顧客に届けられるようにしている。同社のシステムはフレキシブルであるため、既存店舗の一部や空きスペースを改造してマイクロフルフィルメントセンターにすることも可能だという。2021年10月にシリーズCラウンドで2億ドルを資金調達しユニコーン企業になった。

 

フランスExotec社

高さ12メートルまで移動可能な3次元立体走行ピッキングロボ「Skypod」と、ロボットが搬送してきた商品を人間の職員がピッキングするためのワークステーション、自動ピッキングシステム「Skypicker」などからなる物流倉庫向けシステムモジュールを提供している。日本企業では2022年12月にヨドバシカメラがSkypod システムの採用を決定。同社の複数の倉庫施設にSkypodシステムを設置、運用するためのパートナーシップ契約を締結したと発表している。

 

米Starship Technologies社

2014年にエストニアで設立された、ラストワンマイル配達ロボットメーカー。歩道を時速6kmで自律走行する電動ロボットで、荷物を入れない場合の重量は25㎏、9kgまでの荷物を内部に収めて配達できる。蓋にはロックがかかっており、生体認証で開く。道路の凹凸や傾斜を認識するための一連のセンサーやGISベースの3Dマッピングソリューションを備えるが、遠隔操作も可能。主に大学のキャンパスなどのコミュニティ内での配送に利用されてきた。またロンドン郊外の住宅地ミルトン・キーンズではコロナ禍で人との接触が制限される中、生活必需品の配達のために導入された。

 

米Locus Robotics社

フルフィルメント倉庫向け自律移動ロボット(AMR)メーカー。自律型モバイルロボットを組み込んだピッキングソリューションを提案している。人との協働作業で商品のピッキングや運び出し、パレット移動の生産性を2~3倍向上させるという。既存の大規模な倉庫インフラに組み込むことも可能。日本では、2023年1月にDesignFuture Japanが「Material Bank Japan運用実証事業」においてLocus Roboticsの「LocusBots」25台を物流拠点に導入した。LocusBotsは高度なメンテナンスとリサイクル技術により長い期間使用可能で環境負荷低減にも貢献する。

 

インドEggoz社

卵の流通に特化したインドのアグリテック・ロジステック・スタートアップ。ネット通販と、管理された小売流通経路で、新鮮で栄養価の高い卵をインドの家庭に供給する。温度・湿度管理された契約養鶏場で生産した、オメガ3脂肪酸を多く含む衛生的な卵を、産卵から1日以内に届ける。2017年にインド工科大学カーンプル校(IIT Kanpur)の卒業生が起業した。2022年12月、インドのベンチャーキャピタルであるIvyCap VenturesなどからシリーズBラウンドで880万ドルを資金調達した。

 

インドNinjacart社

インド最大の生鮮食品サプライチェーン企業に成長した2015年創業のスタートアップ。農業生産者は生産物を高く売れず、消費者は新鮮な農産物を入手できないというインドの生鮮食品流通の課題を解決しようとしている。そのため、インドの農業生産者と小売店やレストランを直接つなぐシステムを立ち上げた。自社ITシステム・アプリでトラックドライバーや物流拠点を一元化。農家から出荷された農産物は集配倉庫に集められ、注文に応じて振り分けられて各地へトラックで出荷される。毎日1400トンの生鮮食品を農場から各地の企業に、12時間以内に輸送できるように設計されている。

 

米Saltbox社

ネット通販事業のスタートアップ向けに、執務スペース付きの物流倉庫を提供する企業。米国内に10以上の共同倉庫を運営している。創業は2019年。物流の知識がない入居企業に対するアドバイスやフルフィルメントサービスも提供する。従来のシェアオフィスに物流の要素を取り入れることで、現物商品を扱う新興企業のビジネスを支援する。2022年11月には3500万ドルのシリーズB資金調達を実施、さらに「シェア倉庫」を増やす考えだ。