Jリーグ村井チェアマンに聞く コロナ禍のスポーツと人材育成

コロナ禍を乗り越え、2021シーズンを開幕させたJリーグ。村井満チェアマンにウィズコロナ時代のスポーツの価値や「Jリーグ百年構想」の展望、持続可能なクラブ経営に向けた人材育成ビジョンなどを聞いた。

村井 満(日本プロサッカーリーグ チェアマン)

コロナ禍の分断に"結束"で対抗

――2021明治安田生命Jリーグが2月26日に開幕しました。この1年間を振り返り、Jリーグはコロナ禍にどのように対処してきたのでしょうか。

2020年はスポーツ界に限らず、世界中が困難を極めた1年でした。とりわけスポーツは、選手も観戦者も喜怒哀楽を開放させるものですから、コロナ禍で活動を制限せざるを得ないことに途方に暮れた、というのが当初の状況でした。

飛沫や接触で感染する新型コロナウイルスを予防するために、人と人、地域と地域、国と国が分断され、サッカーでも選手とクラブ、ファン・サポーターが分断されました。分断に対抗するためには、徹底的に結束を固めるしかないと私達は考えました。

2020シーズンは感染対策を実施しながら1042試合の有観客試合を開催 ©J.LEAGUE

例えば、月1回開催だったJリーグ実行委員会を10ヶ月で30回程度開催し、メディアへの会見も70回以上実施しました。クラブとリーグ、選手とクラブ、メディアとJリーグが結束して最新の状況やメッセージ、感染予防対策などを社会に伝え、ファン・サポーターと結束したのです。

こうした取り組みの結果、Jリーグは約4ヶ月の短縮という制約の中でもリーグ戦全日程を開催し、1,000試合を超える有観客試合も実施できました。

"客観"の時代だからこそ輝く、
スポーツの持つ"主観"の力

――緊急事態宣言の中で、「不要不急」という側面からスポーツが語られることも多かったと思います。

コロナ禍の中で改めて認識したのは、スポーツの必要性です。人間が限界まで努力し、挫折や困難を乗り越えるスポーツ選手の姿は、医療従事者をはじめとしたコロナ禍に挑む人々を勇気づけ、また気持ちをリフレッシュさせたと思います。スポーツは日常生活と裏表であり、切っても切り離せないものだと強く感じています。

競技による違いはありますが、スポーツのベースには、アスリート個々人の判断、あるいは意志の開放が存在します。サッカーならば、フィールド上360°どこに向かってドリブルしてもいいし、パスもシュートもすべて個人の判断ですよね。

現代社会では、こうした強い意志や信念、つまり"主観"の領域が相対的に色あせており、代わりに"客観"が重視されていると感じます。例えばAIです。AIがどんどん高度化し、客観的なデータ分析で未来予測が可能になれば、失敗がレアなものになり、これが行き過ぎると、失敗を恐れて行動が委縮していく方に流れていくのではないでしょうか。

客観が研ぎ澄まされていく社会に対峙するためにも、主観を大事する、もしくは喜怒哀楽を開放していくことが大切ですし、それを日常的に体感できる場が必要になってくるはず。ますますスポーツの価値は高まると思います。

力を発揮した"地域密着"

――Jリーグは地域密着を掲げ、地域における豊かなスポーツ文化の確立を目指す「Jリーグ百年構想」を推進してきました。

Jリーグ百年構想は、全国各地に緑の芝生に溢れたスポーツ施設をつくること、サッカーに限らず好きな競技を楽しめるスポーツクラブつくること、スポーツを通して世代を超えた触れ合いの輪を広げることを目指しています。

3月6日、東日本大震災復興メモリアルマッチの際に開かれた防災サッカー教室の模様 ©J.LEAGUE

現在、40都道府県に57クラブが存在し、Jクラブの地域活動には様々な年代の方が集い、クラブによってはサッカー以外のスポーツ競技も楽しめるようになっています。まだ道半ばですが、当初描いた姿に少しずつ近づいていると手応えを感じています。

今回のコロナ禍で、サッカーという競技や地域のクラブは、非常に多くの地域の方に支えられて存在しているということを痛感しました。試合をするならばボランティアの協力が必須ですし、公共交通機関の協力や、スタジアム等を所有する行政との連携も不可欠です。試合再開後の感染症対策でも、各セクターとの密接な連携が大変な威力を発揮しました。百年構想を謳い地域密着を推進してきたというJリーグの歩みがあったからこそ、コロナ禍にも立ち向かえたと思います。

また、クラブを支えて頂いているスポンサー企業との関係性にも変化がありました。平時ではスポンサーとクラブは、企業認知度や従業員ロイヤリティの向上などの現実的なメリットで繋がっていることが多かったです。しかしこの1年は、コロナ禍という大きな社会課題に対し、スポンサーとクラブが一緒になってアイデアを絞り、挑もうという活動が多く見られました。例えば緊急事態宣言中には、スポンサーとクラブがタイアップし、選手がSNSなどを通じて地域の子どもたちに健康づくりや食育などに関するメッセージを送るという活動が行われました。クラブと企業、選手が同じ方向を向いて活動ができたという意味で、非常に大きな1年でしたね。

価値を言語化する人材が必要

――今後、各地のクラブのさらなる発展に向けて、どのような人材育成が求められるでしょうか。

コロナ禍の中で、スポーツに携わる人間が、スポーツの価値を社会により発信していくべきフェーズにあると思います。

クラブの経営を見ると、J1クラブの売上は50億円程度、J3では10億円を下回るクラブもあり、経済的側面だけで言えばJリーグはまだ中小・零細企業の集合体です。しかし、クラブが持つ無形資産や、地域に与える効果は無二のものです。サッカークラブが存在することで、全国にその地域が認知され、人口減少の中でも交流人口が一定程度確保され、まちに賑わいや活力がもたらされているケースもあります。クラブはシビックプライドやシティセールス、ブランディングなど地域に貢献できる側面もありますが、その価値をなかなか図る物差しがありません。

ですから今後クラブの経営に携わる人たちは、自らの社会的価値を言語化し、社会に発信していく力が問われると思います。

価値が言語化され、交換され、流通していくようになれば、そこに人材や投資が集まり価値の再生産が始まります。それらが魅力的なフットボールを生み出す原資となり、ファン・サポーターの共感を呼ぶマーケティング戦略にも繋がり、さらなる地域貢献への原動力となるのです。

 

村井 満(むらい・みつる)
日本プロサッカーリーグ チェアマン