JR東海高島屋 二館一体戦略で快進撃 「新しき良き百貨店」へ
JRセントラルタワーズの中核施設として2000年に開業した「ジェイアール名古屋タカシマヤ」。隣接するJRゲートタワーの「タカシマヤ ゲートタワーモール」との二館一体で特徴ある催事を次々に打ち出し、業績は依然好調だ。運営会社ジェイアール東海高島屋の中山顧問に経営の秘訣を聞いた。
全国的に百貨店の経営不振が続く中、昨年で開業20周年を迎えたJR名古屋タカシマヤが快進撃を続けている。
「多くの人が行き交う駅立地、JRセントラルタワーズという器で出店できたことが大きかったですね。まずは、フルターゲット・フルラインの待ち受け型で順調に滑り出し、開業2年目という早い段階から、CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)担当の専門部局を新設し、お客様との関係づくりを仕掛ける体制を整えたことが大きく奏功しました。一社一店舗の経営なので、市場のニーズに応えて利潤を再投資し、どんどん変化できたと思います」と、経営母体であるジェイアール東海高島屋の中山理顧問(前代表取締役会長)は振り返る。
かつて、名古屋の中心地は栄周辺であったが、タワーズ開業に始まる再開発で名駅地区全体のにぎわいに弾みがついた。もちろん、自動車産業を中心とする地域経済の底堅さも、エリア活力の下支えとなっただろう。
外商・カード会員ゼロからスタートして20年間で約100万人(外商・カード・友の会の合計)の顧客にアクセスできるようになったのは、CRM部局の開設とともに掲げたスローガン「エバーリニューアル」の実践によるところが大きい。
「実は、開業当初に入っていただいたブランドの多くは入れ替わっています。この間に多くの海外の特選ブランドに来ていただいたり、化粧品売り場が拡張されたりしています。また、3フロアを占めていた婦人アパレルも3割が削減され、アクセサリー・靴・バッグなど雑貨を充実させる構成になるなど、お客様のご要望に耳を傾け、マーケットに合わせてアイテムを見直すことで、常に新しい商品をご提供しています。初代社長からは、当時所属していたロータリークラブのご婦人たちとの会話をヒントに、女性トイレの充実や休憩スペース『ローズパティオ』の設置を決めたと聞いています」
モールとの相乗効果とリアル催事で大きく飛躍
そして2017年にJRゲートタワー内に開業した「タカシマヤ ゲートタワーモール」は、百貨店ではカバーしにくい20~30代の若年層がメインターゲット。百貨店が20年近く加齢したのだから、開業時に20歳代だった顧客もアラフォーになっているはず――次の20年後を見据えた布石になっているというわけだ。
「駅再開発といえばショッピングセンター(SC)が定番ですが、名駅の2館は同じ『SC』でもショッピングコンプレックス(複合商業施設)であると定義し、両者が競合するのではなく、2つの商業施設を合わせて愛用してくださる『50年顧客』を増やしていこうと考えました」
「エバーリニューアル」の思想はそのままに、小売業にとって厳しいと言われる2・8月にチャレンジングな催事を打ち出すことに。その一例が、2月の「アムール デュ ショコラ」だ。バレンタイン商品をデパ地下や1階ではなく催事場で売るというのは当時としては冒険だったが、初年度から5,000万円を売り上げ、翌年からは、冷蔵ケースの確保からショコラティエの招致まで本腰を入れて取り組んだ。
「おかげさまで、有名ショコラティエとの関係性も年を追って深まっています。作り手のトークが聞ける、新作や限定品を購入できるということがお客様にとって魅力的だっただけでなく、パブリシティ効果も抜群でした。いまでは愛知・岐阜・三重エリアの女性たちにとって春の風物詩となっています」と言い、2020年は過去最高の32億円を叩き出した。
企画力を培った若い力が新しき良き百貨店を作る
一方で、派手さはないが、着実に固定客に支持されている催事もある。JR東海の運転手や車掌、駅員らも参加する「わくわくレールランド」(8月)は、夏休み中の子どもたちに人気の高い恒例イベント。また、約10年前から始まった「ナチュラルビューティースタイル展」は、自然由来の化粧品やオーガニック食品などをカウンセリングしながら販売。年2~3回の頻度で開催されおり、リピート率が高い。
「企画を担当することで、社員の力がぐっと伸びるのがわかります。昔の百貨店は『仕入れて売る』のがビジネスモデルのせいか、ともすればお取引先より優位にあるというような風潮があったように思います。が、今は委託仕入れの割合が増え、お取引先の力をいかに引き出すかが百貨店の役割であると、若い社員たちは勘違いすることなく心得ているように見えますね」
開業2年目から「能力開発グループ」を発足して人材育成に力を入れており、約300人いた新人たちは、いまも100人以上が在籍し、人材の成長力ボーナスを発揮しつつあるという。彼ら、彼女らが日頃から「日本一の百貨店であり続ける」と迷いなく口にできるのは、社員の成長と会社の経営施策が合致している証だろう。
「コロナ禍によるマーケットの棄損もありましたが、ECショップを含めた新業態の現出を販売の多様化につなげていければと思います。ITによる効率アップも重要ですが、手書きのサンキューレターのような手間のかかることや、ショコラティエのサイン会のような触れ合いは是非とも残したいですね。そして、売っておしまいではなく、買って満足して頂いたお客様にまた来ていただけることに喜びを感じるという、商売としてのオーソドックスなところを守りたいです。脱百貨店を謳う会社もあるでしょうが、私たちは百貨店という形態を維持したままで『新しき良き百貨店』へ進化し、リニア開業後の人流に応じたフルパフォーマンスを発揮したいと思っています」
- 中山 理(なかやま・おさむ)
- ジェイアール東海高島屋 顧問
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