30年先の未来を描く思考法 『トランスフォーメーション思考』

変化の嵐が吹き荒れる現代の経営環境において、組織はもはや小さな業務改善の積み重ねや僅かな期間の中期経営計画では生き残れないことは、多くの日本企業が実感しているだろう。しかし、本格的な経営改革に踏み切れず、現行の延長線上の経営に終始している企業が多いこともまた事実だ。

本書のテーマである「トランスフォーメーション思考」とは、一言で表すならば「大きな未来を解像度高く描き、その未来への臨場感を保ち続けること」である。そして、トランスフォーメーション思考の核として位置づけられるのがMTP(Massive Transformative Purpose)だ。これは「個人や組織が最低30年以上先に実現する、現状とは全く異なるような世界観」を指し、世界有数のリーダー育成機関であるシンギュラリティ大学でも唱えられている概念である。

世界へと目を向けると、いま“覇権”を握っている企業や経営者は、トランスフォーメーション思考やMTPを実践している。例えば、イーロン・マスクが構想した、真空チューブの中を最高時速1200kmで駆け抜ける超高速輸送システム「ハイパーループ」。コロナ禍で社会実装が進んだオンライン会議システム「Zoom」も、創業者のエリック・ユアンが30年前の学生時代に生み出した構想だ。

著者の植野大輔氏は、三菱商事入社後、ローソンに出向し、新浪剛史社長(当時)のもとでシリコンバレー企業とのアライアンス強化に取り組んだのち、戦略コンサルティングファームやスタートアップで数々の事業を立ち上げてきた。第一線で活躍する起業家やフューチャリストとの交流の中でトランスフォーメーション思考に触れたことが、本書執筆のきっかけになったという。

本書では、トランスフォーメーション思考やMTPの概念についてグローバル企業を事例に解説。植野氏は新規事業改革や企業変革における豊富な実務経験をもとに、共著者で連続起業家かつAI技術者である堀田創氏は認知科学の観点から、MTP設定のメソッドやトランスフォーメーション思考の実践方法を紐解いている。

MTPの設定では、AIやIT、遺伝子工学、エネルギーなどあらゆる分野の科学技術の飛躍的な進化を前提に、過去に縛られた思考回路を徹底的に遮断し、未来だけに臨場感を抱くことが重要だ。

また、トランスフォーメーション思考の実践においては、日本企業を縛り付けているPDCAサイクルから脱却し、OODAサイクル(Observation:観察、Orient:方向付け、Decide:意思決定、Action:実行)を回すこと、トランスフォーメーションの主導を担う専門組織(XMO)を持つことの重要性を説いている。

未来志向の事業開発や経営改革を目指す経営者やリーダー層にぜひ読んで頂きたい一冊だ。

 

『トランスフォーメーション思考』

未来に没入して個人と組織を変革する

  1. 植野 大輔、堀田 創 著
  2. 本体1,800円+税
  3. 翔泳社
  4. 2022年1月

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