スポーツと地域を結ぶ架け橋 「中間支援組織」の挑戦と可能性
(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2025年3月13日付付、3月26日付に掲載された2記事を、許可を得て掲載しています)

こんにちは、関東経済産業局流通・サービス産業課です。
当課では、スポーツの持つ力に着目し、スポーツ産業自身の競争力強化とスポーツ産業を核とした地域サービス業の競争力強化に取り組んでいます。
本シリーズ『スポーツと地域を繋ぐ「中間支援組織」とは?』では、スポーツと地域を繋ぐオーガナイザーとしての役割を担う「中間支援組織」にクローズアップし、様々な中間支援組織の取組をご紹介します!
スポーツの価値とは?
地域のサービス事業者の産業競争力強化(稼ぐ力向上・生産性向上)に向けた重要な手法として「企業間連携」が挙げられます。複数のサービス事業者が連携することで、スケールメリットを生かした、データの利活用による新サービスの創出、共同プロモーション、ブランド力の強化など様々な効果が期待できます。
企業間連携には、中心的な役割を担う企業の存在が欠かせません。そこで期待されるのが『スポーツ』です。スポーツは競技であるとともにサービス産業でもあります。野球やサッカー、バスケットボールなどは地域密着型のスポーツとして人気です。 試合日には域外からも多くの人が会場に訪れ、周囲の飲食店が盛り上がり、観光需要も高まります。
スポーツ産業には、ブランド力を活かした需要の取り込み、ファン・サポーターとのエンゲージメント力、地域に競合他社が少なく公共性が高いという特徴があり、企業間連携のハブとなるポテンシャルがあります。
中間支援組織の役割
日々の試合運営、スポンサー営業、イベント開催等で多忙なスポーツクラブでは、企業間連携に関心があっても人手やノウハウが不足しており、具体的な連携策が見えにくいという課題があります。
一方、地域企業側もスポーツクラブとの接点が少なく、どのようにスポーツを活用すれば良いかわからないという課題を抱えています。そのため、双方に関心があってもスムーズに連携が進みにくいのが現状です。
地域におけるスポーツを活用した企業間連携を促進するには、地域内の課題を共有し、解決策を検討する場を設けることが重要です。また、そのプロセスを支え、必要な関係者(ステークホルダー)を巻き込む役割を担う存在が求められています。
そこで重要となるのが企業間連携のオーガナイザー役(牽引役)です。こうした役割を担う組織が「中間支援組織」であると考えています。
「中間支援組織」という言葉に明確な定義はありませんが、「スポーツを活用した地域課題解決の意義を理解し、スポーツクラブ、地方公共団体、地域金融機関、企業等の多様な関係者とお互いの強みを生かし、有機的な連携の実現や収益化を支援する組織」を私たちは中間支援組織と呼んでいます。
組織形態にも決まりはないため、自治体、スポーツコミッション、民間企業など、地域に合わせた様々な形態があると思います。

関東局発!スポーツ×地域を繋ぐ中間支援組織プロジェクト
中間支援組織のオーガナイズ機能の強化に向けて、令和6年度、私たちは中間支援組織として活動している、もしくは、今後活動したいと思っている管内(※)の11団体とともに、スポーツクラブをハブとした地域のサービス事業者の競争力強化について課題共有と交流機会の創出を行うプロジェクトを立ち上げました。
※1都10県=茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県

計3回の座談会を開催し、各団体からの取組紹介、組織運営、人材の確保・育成、スポーツツーリズム等をテーマに意見交換を行いました。
各団体の抱える課題を含めて様々な意見が活発に議論され、改めてスポーツが地域社会にもたらす価値や、その価値を地域社会に還元する上で中間支援組織に求められる役割等について、メンバー間で認識を共有しました。
また、必要な人材スキル等について深掘り、しっかり言語化していく必要があるのではないかという示唆を得られました。
今後は、本プロジェクトの認知度を向上させて仲間を増やしていくとともに、県域を跨いだ連携事例の組成などにも取り組んでいきたいと考えています。
最終的には、各地域において、中間支援組織がオーガナイザーとなり、スポーツクラブをハブとした新たな繋がりを生み出し、サービス産業を中心とした地域の産業競争力を強化していくことを目指しています。


今回は、一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)をご紹介します。NICOLLAPは、長野県でITの力を活用して、様々な事業者とのコラボレーションにより新規事業を生み出すことを目的に活動しています。
2024年11月には、「スポーツ×〇〇」のコラボレーションプラットフォーム「SpoCoN(スポコン)」をローンチしました。SpoCoNの中心メンバーとして活躍されているNICOLLAPの高畠さんにお話を伺いました。
オープンイノベーションのカギはスポーツにあり
—— 高畠さんのご経歴と、NICOLLAPについて教えてください。
私は、元々スポーツ業界に長く関わっており、B.LEAGUEの秋田ノーザンハピネッツの設立・運営に、約10年間携わってきました。その後、長野県に移住し、2021年にNICOLLAPへジョインしました。
NICOLLAPは2019年に設立された、長野県が掲げる「信州ITバレー構想」の実現を目指す団体です。企業同士の共創を伴走支援し、長野の企業やプレイヤーを結びつけるイベントの企画・運営などをしています。
—— NICOLLAPがスポーツに着目したきっかけは何ですか。
NICOLLAPの活動は、「オープンイノベーション」がキーワードの1つです。そもそもNICOLLAPはスポーツ関係団体ではなく、オープンイノベーションの手法で、長野の新しい産業創出を先導することが目的の団体です。
ただ、活動を進める中で、オープンイノベーションは、関わる人や、興味・関心を持つ人が多い分野でないと広まらないと感じました。その点、健康促進やコミュニティ造成などまちづくりに広く関係するスポーツ分野を活用することで、関われるプレイヤーが増えるのではないかと思っていました。
その時まさにスポーツ庁の地域版SOIP(※)という事業を知り、長野で取り組むことで新しいイノベーションが生まれるのではないか、と考えたことが、スポーツでの事業に取り組むきっかけとなりました。
※スポーツ庁は、スポーツ分野と他産業との融合による新事業創出と社会課題の解決を目的とする「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」の構築を推進。スポーツを核とした地域活性化の実現に向け、地域におけるSOIPの構築を目指す事業が「地域版SOIP」。

信州の未来を切り開くNICOLLAPの活動
—— NICOLLAPは2022年にスポーツ庁の地域版SOIPを受託されていますね。地域版SOIPの実施から、SpoCoN設立までの経緯を教えてください。
地域版SOIPでは、長野県スキー連盟、信州ブレイブウォリアーズ(バスケットボール) 、松本山雅FC(サッカー)と共に、新規事業開発に取り組みました。
例えば、松本山雅FCは、DATAFLUCTというスタートアップと共創して、「松本山雅FCゼロカーボンチャレンジ」に取り組みました。日々の生活やスタジアムでのエコな行動をポイント化して限定グッズ等を獲得できる取組で、2023年3月から行われた実証では、3か月で約250名が参加し、750kgものCO2が削減されました。


地域版SOIPを通じて、スポーツクラブには新たなビジネスの可能性を感じていただけたと思いますし、これからのスポーツクラブ運営には地域版SOIPのような座組やオープンイノベーションが必要不可欠になるだろうと実感しました。
その後、長野県内のスポーツクラブに集まっていただき、我々の想いや事業構想について意見交換を行いました。各クラブの代表の方々から「実は長野県内の各クラブが集まってこうしたコミュニケーションを取ったことがないんですよ」とお聞きし、クラブ同士の連携が図れていないと気付くとともに、NICOLLAPがハブとなった方が良いのではないかと感じました。
そうした経緯から、「スポーツ×〇〇」のコラボレーションを目的とするプラットフォーム「Sports Collaboration Platform Nagano(SpoCoN)」を2024年11月に立ち上げました。オープンイノベーションを進める手法の1つとして、スポーツを軸に進めていく考えです。

—— SpoCoNは現在どのような活動をしているのですか。
SpoCoNはスポーツツーリズム活性化や、スポーツ×企業共創支援など、5つのテーマで活動しています。その中でも大きな動きとして、長野県庁とともに、県内スポーツクラブと連携した観光周遊促進モデルの構築に取り組んでいます。観光とスポーツ振興の好循環により交流人口の拡大や地域活性化をさらに推進していくため、スポーツを活用した周遊促進の取組を検討しており、今後具体的に動き出す予定です。
—— 長野県庁とはどのように良好な関係を構築されたのでしょうか。
まず、NICOLLAPの今までの取組の積み重ねの中で、県庁との信頼関係が構築されていたことは大きいです。
加えて、教育委員会に設置されていることが多いスポーツ振興を扱う部署が移管されたことも関係しています。各自治体では、ここ数年で、スポーツは教育だけではなく、産業振興や観光促進などいろいろなことに活用できるという意識が広まってきています。長野県庁でも2024年4月から、スポーツ行政が教育委員会から知事部局へ移管され、観光スポーツ部が発足されました。県庁としてはこの組織改編は大きな節目であり、これに伴いNICOLLAPは、県のスポーツ政策に関する意見交換や、スポーツ振興に関する勉強会など、できる限りのサポートをしてきました。県庁の方との対話を通して、我々が少しはお役に立てたのではないかと思っています。
他の地域でも、自治体を巻き込んでスポーツを活用した地域経済活性化に取り組みたい場合、その自治体のスポーツ担当部署と対話を行い、役に立てることに1つずつ取り組んでいくことが大事だと思います。

NICOLLAPが目指す中間支援組織の役割
—— 今後中間支援組織としてどのような役割を担っていきたいですか。
秋田ノーザンハピネッツを経営していたころから、対話は「三角形の対話」が良いと思っています。昔の結婚における仲人のように、コミュニケーションの中に仲介者がいることで、話がスムーズに進むことが多いです。あるクラブが行政との関係を深めたいと考えていた時に、我々のような中間支援組織がクラブの強みを分析し、クラブの価値や具体的連携策を行政に伝えることで、両者の連携がスムーズに進みます。我々は「三角形の対話」のハブになれるのではないかと考えています。
また、各クラブに所属していない、色がないというのが中間支援組織の特徴なので、その強みを活かしクラブや地域がより良い方向に進むように支援することが役割かなと思っています。
スポーツで困ったときに、一番に相談いただける場所になりたいと思っています。「長野 スポーツ」と検索したら最初にSpoCoNが出てくることを目指しています!
コミュニティ形成に寄与するスポーツの力
—— 最後に、スポーツの可能性やスポーツを活用した地域活性化への熱い思いを聞かせてください!
自分が長年スポーツ業界で仕事をしてきて行き着いた解は、スポーツが、国も老若男女も問わず繋がることができるコミュニケーションツールであるということです。スポーツは、地域の魅力を高める要素であり、観光、教育、健康、サービス産業振興など、さまざまな分野と掛け合わせることができるコンテンツだと思います!

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