国内投資の新たな可能性 アイリスオーヤマが体現する「成長型経済」
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2024年9月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
国内投資・イノベーション・所得向上――。「経済産業政策の新機軸」では、こうした好循環をつくり出すべく政策の強化を打ち出している。
その“一丁目一番地”となるのが「国内投資」。過去30年、多くの日本企業が安価な労働力や成長する市場を国外に求め、海外投資を拡大した。結果、海外投資収益の約半分は現地で再投資され、国内に戻ってくることはなかった。
ただ、ここに来て「潮目の変化」が現れている。
コロナ禍のマスク生産がきっかけ。サプライチェーンの混乱で一気に舵を切る
2023年度、国内投資はバブル期以来30年ぶりに約100兆円に達した。新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱、米中対立、ロシアのウクライナ侵略に代表される地政学リスクなどを受けて、企業が積極的に国内投資に転換する動きが出始めているのだ。
家電・生活用品大手のアイリスオーヤマもその一つ。グループ総売上高7540億円、国内外に31のグループ会社と37の工場を有するグローバル企業だ。
「コロナ禍が大きなきっかけでした。当時、マスクを中国の工場で生産していましたが、日本に運べない事態が起きました。中国国内でもマスク不足が起きていたためです。グローバルサプライチェーンが乱れたことが、国内シフトに舵を切らせました」
社長室長兼広報室長の中嶋宏昭さんは、国内シフトに舵を切った経緯を、こう振り返る。
「それまでは海外と国内を同じくらいの比率で投資してきましたが、コロナ禍を機に一気に国内投資に軸足を移しました」
実際、2021年には投資総額255億円のうち国内135億円、海外120億円だったのが、2023年には総額200億円のうち国内投資が195億円を占めた。2024年は総額235億円を全て国内投資に向ける計画だ。
ちなみに国内シフトのきっかけとなったマスク生産は、宮城県の角田工場に70台のマスクのラインを入れて、供給したという。
省力化、食品輸出…。物流2024年問題への対応など戦略的に投資を進める
投資の内容には、社会課題を見据えたアイリスオーヤマの戦略性が見て取れる。「物流2024年問題」に対応するため、自動倉庫から製品をトラックに積み込む際、人の手での仕分けをし、トラックへ搬送するという作業を省き、自動倉庫からトラックにダイレクトに搬送できる新しいコンベヤーシステムの導入を進めている。人口減社会の中で省力化を進める目的だ。
中嶋さんは、「これにより、トラックの待機時間を大幅に減らすことができ、出荷量も2~3倍に増やすことができました。生産性を向上できたという手応えを感じており、今後も順次、新しいコンベヤーシステムを導入していきたいと考えています」と話す。
和食の世界化などを背景に、食品輸出への投資も積極的だ。力を入れているのは「パックご飯」と「飲料水」だ。2022年には台湾、2024年には米国、タイに「パックご飯」の輸出を開始した。農林水産省の「産地生産基盤パワーアップ事業」を活用し、宮城県角田市や佐賀県鳥栖市の工場に「パックご飯」用の設備を導入。地方での雇用拡大にも一役買っている。
飲料水については、静岡県の工場敷地内にあった井戸からミネラルを豊富に含んだ天然水が湧き出ていたことが、商品化につながった。他の飲料メーカーと異なり、容器となるペットボトルを自社で内製化することができ、全国に物流拠点を持っていることが強みとなった。「販売量は倍々に近い形で増えており、会社を牽引する事業の一つとなっている」(中嶋さん)という。
震災を機に「ジャパン・ソリューション」目指す。課題解決を原動力にビジネス拡大
そもそも、アイリスオーヤマが食品事業に参入するきっかけとなったのは、2011年に発生した東日本大震災だった。アイリスオーヤマは本社を仙台に置いており、自ら被災した経験を持っている。
「それまで生活における不満、不足を解決する『ホームソリューション』を中心に事業を考えていたのが、『ジャパン・ソリューション』と私たちは言っていますが、日本の社会課題を解決していくような事業を展開していこうとなったのです」
農業の復活を後押ししようと、自前の販路を活かしてスタートさせたのが精米事業だった。さらに、家電にも参入を本格化させる。計画停電が実施される中で、力を入れたのが白熱灯や蛍光灯に比べて消費電力の小さいLED照明事業だった。
震災、コロナ禍と社会が大きな課題に直面した時、いかにして解決するかを追求しながら、アイリスオーヤマはビジネスを広げてきた。
大手家電メーカーから早期退職した技術者の海外流出が伝えられていた時期には、「『日の丸家電』を背負ってきた技術者の海外流出を我々としても問題視し、可能な範囲で雇用していった」という。結果、参入したての家電事業を軌道に乗せることができた。
「ピンチの時にこそ、大きなチャンスがあります。変化に対応できることが企業として存続していくためには必要だと思います。その時々の情勢や出来事に対応する準備は常にしています」
中嶋さんはこう強調する。
5年連続ベースアップ、初任給引き上げ。社員への還元が好循環生み出す
アイリスオーヤマは2020年度以降、5年連続で賃上げと初任給の引き上げを実施している。
「物価が高騰する中で消費マインドを改善したいという思いが一つ。もう一つは事業が多角化する中で高度人材を確保するために採用を強化するという意味合いがあります。今の日本経済を考えると、一時金やインフレ手当という方法もありますが、ベースアップしていくことに意味があると考えています」
未来を見据えて投資し、イノベーションを図り、社員に還元する。それが更に新しいアイデア・商品につながる。この好循環こそが、現在2万5000アイテムを扱い、年間1000アイテムの新商品を市場に送り出しているアイリスオーヤマの原動力だ。
「コストカット型経済」から「成長型経済」への転換を確かなものにする、一つの答えがそこにある。
元記事へのリンクはこちら
- METI Journal オンライン