シスコシステムズに学ぶ、イノベーションが生まれる大組織の秘訣

大企業やレガシー企業において、絶えることなくイノベーションを生むためにはどのような制度や組織が必要なのか。世界的IT企業であるシスコシステムズのイノベーションラボ長と人事担当役員に、イノベーション戦略や人材戦略を聞いた。

シスコシステムズのイノベーション戦略

創業から長年を経過したレガシー企業の多くは、イノベーションへの活力が削がれる傾向がある。だがその一方で、継続してイノベーションを起こし続けている企業もある。IT業界を代表する企業のひとつ、シスコシステムズがそうだ。

日本法人であるシスコシステムズ合同会社のイノベーションラボ長の今井俊宏氏は、「当社は1984年の創業以来、自社開発、買収、戦略的提携、投資をバランスよく行い共創するというイノベーション戦略をとってきました。また、イノベーションラボが所属するEmerging Technologies & Incubationが中心となり、イントレプレナー(社内起業家)を醸成する取り組みも行っています」と話す。

図1 イノベーションラボの主な取組み内容

出典:シスコシステムズ

 

今井 俊宏 シスコシステムズ イノベーションラボ長

1年で300件超のアイデア収集した
イントレプレナー醸成プログラム

イントレプレナー醸成への取り組みを始めたのは2015年頃。まず、どのようにすれば社員のアイデアを活かすことができるのか、社員に対してヒアリングを実施したという。その結果、新しいアイデアを閃いてもどこに提案してよいかわからない、声を吸い上げる仕組みが欲しいというフィードバックが多数集まった。

そこでシスコは、アイデアをうまく汲み上げる全社的な仕組みづくりに取り掛かった。

そのひとつが、2015年から2020年にかけて実施した社内プログラムIEC(Innovate Everywhere Challenge)だ。年に1度、全社員を対象に社内イノベーションコンテストを開催して、イノベーションにつながるアイデアを社員から積極的に収集し、社員同士の共創を促し、そのアイデアを具現化する取り組みである。受賞チームには賞金2万5000ドルが与えられ、3カ月間現業から離れて自分たちのアイデアの具現化に専念する特例が認められる。IECのサイトには全社員の約7割強がアクセス。全社員のうち約半数の社員が参加して、これまでに約4000人の社内ファウンダーが生まれた。

社内プログラムIEC(Innovate Everywhere Challenge)の模様(シスコシステムズニュースリリースより)

「IECは社内のエグゼクティブが評価するので、社員にとって上層部からアドバイスをもらう貴重な機会にもなりました。ただ、年1回開催ということで、お祭りのような要素が強かったので、2020年からIECをアップデートしたBold Betsプログラムを新たにスタートしました」

Bold Betsプログラムではポータルサイトに申請されたアイデアや解決すべき課題を毎週検証する。シスコにフィットすると判断されたものは社内ベンチャーとなり、その商品やサービスを市場に届ける戦略をまとめ、技術検証や初期モデルの開発などを行う。その後、既存のビジネスユニットへ移管されたり、新規ビジネスユニットを立ち上げたりして製品化して市場へ投入となる。アイデアを毎週高速で検証して、失敗か成功かを迅速に判定し、より精度の高いアイデアを選別できるようになった。

「2020年から1年間で300件を超えるアイデアが集まり、2021年12月の段階で6つのベンチャーが走っています。近々の目標は、年間1000件を超えるアイデアが集まるようにすることです」

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