『越境人材入門』 2度の「衝撃」で越境人材は育つ
企業におけるイノベーション創出や地方創生プロジェクトの推進では、しばしば「越境人材」の重要性が指摘される。越境人材とは組織の境界を超えて価値を創造するインタープレナーであり、その育成では「越境学習」、つまり大企業とスタートアップやNPO、本業とボランティアや副業、都会と地域など、境界を越えて学び、活動することが重要と言われる。
企業の人事・人材育成担当者にとって越境学習は注目のキーワードであり、大企業からスタートアップ等へのレンタル移籍を提供する越境学習サービスなども登場している。
ただ、越境学習によって人材に何が起こるのか、どのような学習プロセスを経れば人材や組織に大きな変化を起こせるのかといった点は、今まで明らかにされていなかった。
本書は、越境学習プログラム事業者とその参加者に対する詳細な調査・分析を通して、越境学習に共通するメカニズムの存在を突き止め、越境学習に関する体系的な知識を提供している。著者の石山恒貴氏(法政大学大学院政策創造研究科教授)はパラレルキャリア研究の第一人者。共著者の伊達洋駆氏は組織・人事コンサルティング事業を手掛けるビジネスリサーチラボの創業者兼代表で、人材育成に精通する。
本書の中で石山氏らは、越境学習のプロセスを越境前・越境中・越境後の3段階に分けて整理している。より細分化すると、越境前は「マインドセットを整える段階」、越境中は「越境先に衝撃(カルチャーショック)を受けつつもあがく段階」「越境先を理解して視座を高める段階」「越境先に慣れて戦力になる段階」、越境後は「自社に衝撃を受けつつも学びを保持して再適応する段階」「少しずつ行動を起こし周囲を巻き込む段階」に分けられる。
そして石山氏によれば、越境中と越境後に経験する2度の衝撃が学習者に大きな変化をもたらすという。衝撃を受けたのち、葛藤→行動→俯瞰→動員というプロセスを辿りながら越境学習者はアイデンティティを変容させ、越境によって身につけた力を発揮し、周囲を巻き込みながら新しいことを粘り強くやり抜くことで、組織に変革をもたらしていくのだ。
このほか本書では、越境学習の定義や効果の解説、日本で越境学習が注目されるようになった背景、企業において人材育成の一部に越境学習を取り入れる方法、越境人材を変革やイノベーション創出に活かすために必要な組織側の取り組みなどを解説している。また最終章ではケーススタディとして、ハウス食品やパナソニック、NTT西日本の越境学習者にインタビューを行っている。
越境学習のメカニズムを詳細に解説した本書は、越境学習を組織に実装する上で非常に参考になるだろう。人事・人材育成担当者はもちろん、経営者や越境学習に取り組んでみたい人にもおすすめしたい。
『越境人材入門』
組織を強くする冒険人材の育て方
- 石山 恒貴、伊達 洋駆 著
- 本体1,800円+税
- 日本能率協会マネジメントセンター
- 2022年3月
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