幕張PLAY 人とスキルを繋ぎ、社会的価値を創出

千葉市を拠点とする幕張PLAYは、建築設計事務所を運営しながら、地域コミュニティの創出と社会起業家の育成に力を注ぐ。一級建築士であり「連続起業家」の肩書も持つ代表取締役の神長尊士氏に、循環型社会に向けた取り組みと今後の構想を聞いた。

神長 尊士(幕張PLAY 代表取締役)

幕張新都心エリアで地域コミュニティを創出

千葉市美浜区に広がる幕張新都心は、JR京葉線「海浜幕張」駅を中心に大型の商業施設やスタジアムなどが立ち並ぶ、美しく賑わいのある街だ。西欧風デザインに統一された住宅地区「幕張ベイタウン」に加え、現在は2029年春の完成に向けて街づくりプロジェクト「幕張ベイパーク」が進行している。同地にほど近い場所に本社を置く幕張PLAYは、『起業家と共に「ゼロ→1」を創出する』をミッションに掲げ、地域コミュニティの創出と社会起業家の育成を事業の柱に据える。

代表取締役の神長尊士氏は千葉市中央区の出身。大学では建築を専攻したが、当時はバブル崩壊後の就職氷河期だったため、施工の職人などを経て、25歳で1級建築士の資格を取得した。念願の建築士として住宅などの設計に携わる一方で、人口減少時代にも関わらず、新たな住宅が建設されていく状況に疑問を感じ、「目に見える箱よりも、目に見えないコミュニティの創出が求められている」との考えから2013年10月に起業した。

現在、幕張PLAYでは大きく6つの事業を展開しているが、創業4年目に地域コミュニティ創出事業が大きく前進した。三井不動産レジデンシャルの委託を受けて、幕張ベイパークの地域コミュニティ拠点「MAKUHARI NEIGHBORHOOD POD」「幕張BASE(防音スタジオ)」の運営・管理を担うことになったのだ。ここでのミッションは「住⺠が住む前から地域コミュニティ拠点を作り、様々なイベントを軸に賑わいを⽣み出し、地域コミュニティを育てていく」こと。

地域コミュニティ拠点「MAKUHARI NEIGHBORHOOD POD」。運営の主体となるのは地域で活動するキーパーソンたち

運営の主体となるのは地域で活動するキーパーソンたちだ。ヴァイオリニストが子ども向けにレッスンを行ったり、ネイリストが高齢者や障害のある方向けに「福祉ネイル」を出展するなど、各々の特技を活かした活動で地域コミュニティの創出を実現している。

起案者同士をつなげて
地域に新たな価値を生み出す

同社の中核を成す2つ目の事業が起業家支援事業だ。

「就職難や起業で苦労したからこそ、経験から学んだことを伝えたい」との想いで、創業1年目から起業家支援事業を始めたと語る神長氏。目指してきたのは、「起業家の1つ上の先輩が同じ目線で一緒に走る」という伴走型の起業支援だという。

なかでも、クラウドファンディング(CF)プラットフォームを運営する「CAMPFIRE」のキュレーションパートナーとして、千葉の地方創生に貢献するプロジェクトを支援するのが「ちばクラウドファンディング」だ。SNS運営やイラスト、動画などの得意分野を持つアドバイザーが参画し、プロジェクトの立ち上げから起案後のプロモーションまで、中長期的な視野に立って起案者をサポートする。

「我々はCFの目的を資金調達ではなくファンづくりだと捉えています。それゆえ、広告宣伝はほとんど行わず、起案者の活動にフォーカスしPRすることに力を入れてきました」

運営において特長的なのは、起案経験がある地域のプレーヤーをアドバイザーとして採用し育成している点だ。各地域で活動するアドバイザーには同社の知見を提供する代わりに、地域の情報をシェアしてもらうことで、昨今は、アドバイザーを通じて地域の起案者同士がつながり、新たな事業創出の可能性を広げているという。

「この2年間で、県内に3つのワイナリーが相次いで新設されました。いずれも当社がCFを支援したのですが、個々のプロジェクトをサポートするだけでなく、ワイナリーオーナーが互いの施設を見学し合う交流イベントを企画し、大いに刺激し合っていただきました。今後は関係⼈⼝を増やしていくため、体験型ツーリズムを企画する予定です」

クラウドファンディング支援先のワイナリー3社をつなぐオーナー交流会の模様

さらには、飼育動物の⽣活の質の向上と害獣問題への理解促進のため、ライオンなどに県内で有害駆除されたイノシシの屠体⾁を与えるという千葉市動物公園の「屠体給餌(とたいきゅうじ)。⽇本⼈⼥性で唯⼀、南アフリカ共和国政府公認のサファリガイドの資格を持つ太⽥ゆか⽒による「南アフリカでのサイの保護活動」。この2つのプロジェクトは単体でCFを達成しただけでなく、昨年6月にコラボ企画として南アフリカと千葉市動物公園をリアルタイムでつなぐ「バーチャルサファリ」を7回開催し、300組の参加があった。

「太田氏のガイド付きで野生動物保護の現状を知ることで、社会課題を自分事として捉える探究型プログラムとして実施しました。事業性は高くありませんが、お金以上の社会的価値を生む活動として実績を残すことができたと思います」

今年4月からは千葉市産業振興財団からの受託で、起業家支援施設「CHIBA-LABO(チバラボ)」を運営する。

「コワーキングスペースとして利用されている状況から、インキュベーション施設として原点回帰させたい」と神長氏は意気込む。

千葉市産業振興財団から運営受託する起業家支援施設「CHIBA-LABO(チバラボ)」

スキルシェアで循環型社会を加速

昨年は新たな組織として、一般社団法人Co-Design CHIBAを設立した。個人の持つ知識や技能などのスキルをシェアすることで循環型社会を加速させたい考えだ。県内でパン店を展開する川島屋と、クラフトビール醸造所を営む幕張ブルワリーを引き合わせ、フードロスが見込まれる食パンを原料とした発泡酒「パンビール」と発酵過程で出た澱(おり)を活用したパン「ビアフルーツブレッド」を製造し、CF支援者から好評を博したことがきっかけとなった。

パン店とクラフトビール醸造所がコラボした、廃棄食パン原料の発泡酒「パンビール」

「SDGsに関⼼はありながらも事業活動に落とし込むことができていない事業者が存在しています。今後は様々な事業者と共創し、⾷品に限らず⾷品に限らず様々な分野で新たな価値を創造していきたいと思います。また、海外市場の開拓も⾒据え、同様の課題を抱える千葉県以外の地域にも取り組みを広げながら、海外に地元のすぐれた商品を伝えていく考えです」と神長氏は力強く語った。

 

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