チョウシ・チアーズ 地域に愛される100年ブランドをつくる

千葉県銚子を舞台に、クラフトビール造りで地域活性化に挑むビール会社がある。「あるモノつないで、ないコトつくる!」をキャッチフレーズに掲げる、チョウシ・チアーズだ。2023年3月に新醸造所をオープンし、ビールの製造量増加とともに国内外のさらなる販路開拓を目指す同社の戦略に迫った。

佐久間 快枝(チョウシ・チアーズ株式会社 代表取締役)

銚子の人々が誇りに思える
新たなコンテンツづくりを

チョウシ・チアーズは、2016年に銚子に帰郷した佐久間快枝氏が、2018年に立ち上げたクラフトビールの製造会社だ。

「高校まで銚子市で育ち、大学からアメリカに行きました。外資系企業などに勤務した後、娘2人を出産したのを機に、故郷の銚子に帰ってきました。ところが、十数年ぶりに銚子に帰ってみると、子どもの頃と全く違い、まちが大きく衰退していたのです」と佐久間氏は語る。

「昔の銚子は活気ある賑やかな港町でしたが、高齢化が進み、商店街はシャッター街になっているし、地域に愛されていた老舗の店もなくなっていて、ショックを受けました。それを見て沸き上がった『銚子のまちを元気にしたい』という想いが、チョウシ・チアーズを立ち上げたきっかけです。1つの会社ではいろいろなことができるわけではないですが、できることを何かやっていきたいというのがベースになっています」

クラフトビールに注目したのは、仕事で行ったアメリカで、クラフトビール市場が非常に伸びていていることを知ったからだ。また、アメリカの人口1万人程度の小さな町に行った時に、地域住民みんなが地元のビール醸造所を誇りに思い、他国や全米からその醸造所を目指して観光客が集まってくるのを目の当たりにしたという。

「銚子にも、まちのみんなが誇りに思えて、さらに遠くの人もそこを目指してやって来るようなコンテンツがほしいと思い、銚子ビールの発想に繋がりました。私の両親はもともと銚子で飲食店と酒屋を経営していたため、実家に酒類販売業免許があったことも気持ちを後押ししました」

左より、バリスタ監修の本格派コーヒースタウトの「Black Eye Stout」、銚子の魚に合うアンバーエールスタイルの「銚子エール」、犬吠埼灯台に捧げるホワイトビール「犬吠ホワイトIPA」、ペールエールスタイルのスマッシュビール「One for All SMaSH」 

灯台がロゴマークの
銚子の青魚に合うビールを開発

佐久間氏が最初に開発したビールは、会社設立の約1年前に、石川県のわくわくブルワリーに醸造を委託して造った「銚子の魚に合う銚子エール」だ。銚子はサンマやイワシ、サバなどの青魚で有名なため、それらに合う辛口なテイストに仕上げた。現在、定番商品では一番人気になっている。その次にできたのが、銚子に建てた小さな醸造所で初めて造ったビール、「One for All SMaSH」だ。

「One for All SMaSHは銚子で最初に造る象徴的なビールなので、『地域とそこに住む人々を1つにする』というコンセプトにしました。SMaSHというのは、1種類のモルトと1種類のホップを使ったシングルモルト&シングルホップの略です。将来的には、銚子で栽培した麦とホップを使って、ビールを造りたいと思っています」

犬吠埼灯台近くの地域情報発信施設「犬吠テラステラス」内には、2020年にできた同社の醸造所がある。併設のレストランは春から秋の期間の営業で、銚子ビールに合う地元産の魚や肉、野菜を使用したさまざまなメニューを提供している。

「犬吠テラステラスには、施設のオーナーさんから『ぜひ銚子を象徴するようなテナントに入ってほしい』とお声がけいただき、入居させてもらいました。当社のビールは、銚子のシンボルでもある灯台をロゴマークにしているので、灯台の近くにこんな醸造所をつくれたらと、実は以前から勝手にイメージを描いていたのです。すると、まさにその通りの場所に醸造所をオープンできたので、驚きました。夢を見ること、思い続けることは本当に大事なんだと実感しました」

犬吠埼灯台近くの犬吠醸造所&Tapsでは、できたてのビールが味わえる

同社は2020年、日本財団「海と日本プロジェクト」とのコラボにより、犬吠埼灯台の重要文化財登録を記念したビール、「犬吠ホワイトIPA」と「犬吠ブラックIPA」も開発。これらの売上の一部は灯台を守る活動に寄付されているという。

ブラックビール「犬吠ブラックIPA」は、「WORLD BEER AWARDS 2022」の「IPA Black部門」で金賞受賞

清涼飲料水やウイスキーの
領域にも事業を拡大

起業から約4年経ち、事業は軌道に乗りつつあるが、「会社設立当時には苦労も多かった」と佐久間氏は語る。

「東京から帰ってきたよくわからない女性が、いきなり銚子ビールをつくると言い出して事業を始めたわけで、当初は地域からの反発や厳しいご意見もありました。しかし、1つの事業についていろいろな見方をする人がいることを知ってすごく勉強になりましたし、必死にやっていれば、その姿を見て応援してくださる人も増えました。今は、県外での認知度も上がってきたと感じています」

現在、同社の商品は銚子市や千葉県を中心に流通しているが、他県や海外からの問い合わせも多い。ビールの製造量を増やすため、2023年3月には佐久間氏の実家があった料理店をリノベーションし、従来の6倍のビールが製造できる新醸造所をオープンした。犬吠埼灯台の隣にある従来の醸造所では、今後ビールではなくクラフトコーラなどの清涼飲料水を製造していく予定だ。

「これからはビールの製造量を増やして海外市場へ販路を拡大させたいですし、新たに蒸留酒事業を始めることも構想しています。ビール醸造の過程は、途中までウイスキーと全く同じで、親和性が非常に高いのです。当社は『地域に愛される100年ブランドをつくる』というのが最終目標なので、ビールから蒸留酒の分野にも足を踏み入れ、銚子ならではのクラフトウイスキー造りに挑戦したいと思っています」

チョウシ・チアーズは、「地球にやさしい醸造所」というコンセプトも掲げており、持続可能な経営にも力を注いでいる。

「将来的には、醸造所の電気は全て再生可能エネルギーにしたいと考えています。また、ビール醸造の際に出るモルト粕の100%リサイクルを目指しています。モルト粕は、実はお米の20倍の食物繊維があるスーパーフードです。栄養価が高いので、畜産家に牛の餌として利用してもらったり、地元の発酵料理研究家にモルト粕を使った『モルトエナジーバー』というお菓子を開発してもらい、販売もしています」

銚子のブランド力を高めるさまざまな商品の開発を通して、地域の人々や生産者を繋げる新たなハブとして成長しつつあるチョウシ・チアーズ。次々に新事業、新商品開発に挑み続ける同社の今後に期待したい。

 

佐久間 快枝(さくま・よしえ)
チョウシ・チアーズ株式会社 代表取締役

 

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