HAMIRU 「地域密着型リゾート」で地域課題を解決

2023年3月、千葉県多古町に廃校を活用したグランピング施設「TACO GLAMP THE MEXICO」が開業した。施設をプロデュース・運営するHAMIRUの熊崎紗弥佳代表取締役と、親会社であるグランバー東京ラスクの大川吉美会長に、事業戦略や地域連携の取り組みを聞いた。

熊崎 紗弥佳(HAMIRU 代表取締役)

遊休施設を有効活用
過疎化を観光で食い止めたい

「TACO GLAMP THE MEXICO」は、2020年に廃校となった旧常磐小学校の校庭をグランピング場、野球場をオートキャンプ場に変えるなど、学校ならではの設備を余さず活用した千葉県内最大級のグランピングリゾートだ。

グランピング施設「TACO GLAMP THE MEXICO」

手がけたのは千葉県市川市のHAMIRU(ハミル)。「東京ラスク」などの菓子ブランドを展開するグランバー東京ラスクのグループ会社である。グループの大川吉美会長は、菓子卸売業を経て2003年に東京ラスクを創業。現在は都内のほか、箱根や軽井沢などでラスクやチョコレートなどの店舗を展開する一方、那須高原や西伊豆などで温泉・宿泊施設も運営している。

大川氏によると、菓子製造からリゾートへと事業を拡大したきっかけは、地元からの要請だった。

「伊豆市の当社工場近くの旅館が廃業したとき、市長や地元議員などから経営を依頼されたのが、リゾート事業の始まりです。やがて、グランピングの存在を知って、旅館の敷地で始めたところ大人気になりました。それが2018年にオープンした『UFUFU VILLAGE』です。こうした経験から、遊休施設を活用すれば地域の大切な財産を新しい形でよみがえらせることができ、地域の皆さんにも喜んでいただけると考えるようになりました」

東京ラスクの工場は伊豆市と釜石市の2ヵ所で、いずれも地元への企業誘致の一環として役所の跡地に建設された。遊休施設の有効活用は同社のリゾート事業の基盤といえる。

「各地で急速に過疎化が進んでいます。少しでも過疎化を食い止められるものがあるとすれば、それは観光なのではないかと思います。地域の社会・経済に貢献する上では、日帰りではなく宿泊型観光の方が重要です」

キャンプは1990年代の第1次ブーム、2010年代前半からの第2次ブームを経てアウトドアレジャーの定番となり、コロナ禍の中、密を避けつつ楽しめる恰好の手段としても注目度が高まった。さらに、2010年代後半から登場したグランピングは、キャンプ人気を追い風に、アウトドアを手軽に楽しむ新たな選択肢となった。遊休地活用によるグランピング事業は、地域課題の解決と観光ビジネスを両立できる大きな可能性を秘める。

地域と密接に連携するリゾート

「関東圏では今後、20程度の宿泊施設展開を目指しています」と大川氏。HAMIRUは関東圏でのグランピング事業会社として設立され、代表取締役を大川氏の長女の熊崎紗弥佳氏が務めている。

関東圏で今後20程度の宿泊施設展開を目指す

HAMIRUが掲げる経営理念は「地域の課題をリゾートで解決する」。自治体や地元事業者と連携しながら、地域資源の活用や雇用創出など、地域に根ざした事業を追求するのが同社の特徴だ。地域との連携に関して、熊崎氏はこう語る。

「2021年に市原市から廃小学校を借り受ける形で『高滝湖グランピングリゾート』を開業しました。市長から『市原が日帰り圏になっているのがネック』という話もありましたので、まずは市原に宿泊して、知られざる市の観光要素を知ってほしいという思いがありました。また、隣接地を自社農園として整備して、宿泊者が野菜の収穫体験をしてバーベキューで味わえる仕組みにしました」。高滝湖グランピングリゾートでは年間2万人以上の集客により、地域に新たな人流をもたらした。今では観光協会が「高滝湖プロジェクト」を立ち上げて、月1回、施設に業者さんが集まり、今後の方針などを話し合うまでになっているという。

「多古町の施設も、工事や清掃など、すべて地元業者にお願いしていますし、食材も『多古米』などの地元産にこだわり、高滝湖と同様に自社農園を整備しています。地域の皆さんにも自治体にも、喜んでいただける施設になったと思っています」

「楽しくかわいい」で若者世代をとらえる

HAMIRUが展開するリゾートには、もう一つ、熊崎氏が「コンセプト系グランピング」と呼ぶ大きな特徴がある。

「例えば高滝湖はカリフォルニア、多古はメキシコのコンセプトでそれぞれ統一しています。グランピングというとラグジュアリーなイメージがありますが、私たちは、むしろ楽しい、かわいいコンセプトで小さな世界を作り上げる。そこが差別化ポイントです」

プールはナイトプール&サウナにリノベーション

多古をメキシコのコンセプトにしたのは、「『多古』は『タコス』に通じ、タコスといえばメキシコだから」だという。そうしたコンセプトづくりから壁紙選びに至るまで、熊崎氏も含めたわずか3人の女性スタッフが決めている。そして、発想の源でもあり、重要な集客ツールにもなっているのがSNSだ。

小学校を3万平米の広大グランピングリゾートに

「私たちのメインターゲットは20代半ばまでの若い世代で、インスタグラムなどからの集客が8割に達します。料金が安い平日にも、若者に気軽に利用してほしいので、直接若者に届くツールとしてSNSを重視しています。おそらく、グランピング業界で一番SNSを活用しているのではないかと思います」

SNSで常に若い世代の感覚に触れているから、確実にターゲットに「刺さる」施設づくり、情報提供ができる。熊崎氏は今、楽しくてかわいい、次なる「コンセプト系」の計画をあたためている。茨城県大洗市や栃木県日光市、千葉県勝浦市で、廃校などの遊休施設を活用した宿泊施設のプロデュースを推進していく方針だ。