熊谷俊人・千葉県知事 県政150年を機に、新たな千葉の時代へ
2023年6月に誕生から150周年を迎える千葉県は、新成田空港構想が現実的になり、間もなく圏央道が全線開通するなど、大きな節目にある。2021年4月に知事に就任した熊谷俊人氏は、2022年に新総合計画を策定。その中で10年後に目指す新しい千葉の姿を設定し、さまざまな施策を展開している。
――昨年度から取り組まれている新総合計画「千葉県総合計画 ~新しい千葉の時代を切り開く~」のポイントをお聞かせください。
千葉県は今、大きな節目にあります。成田空港では第三滑走路の新設など、第二の開港とも言われるタイミングを迎えています。また、令和6年度には圏央道の全線開通が控えています。こうしたことにより、県内には大きなチャンスが生まれます。それらを、いかに千葉県の発展につなげていくかが重要です。さらに、本県は日本を代表するコンビナート地域を抱えています。これをカーボンニュートラルの社会的な動きに適応させていかなければいけません。「千葉県総合計画」は、こうした考えの中でつくりました。
図 「千葉県総合計画 ~新しい千葉の時代を切り開く~」において千葉県が目指す姿
総合計画では、「『まち』『海・緑』『ひと』がきらめく千葉の実現」を基本理念に掲げ、「危機管理」「産業・社会資本」「医療・福祉」など6つの基本目標を設けて、10年後に目指す姿を示しています。また、未来の千葉県を築いていく上で欠かせないデジタル技術の効果的な活用やSDGsの推進などを、「施策横断的な視点」として位置付けています。
さらに、県内各地域を、人口や産業構造、地理的条件などによって6つのゾーンに分け、それぞれの特性や強みを踏まえ、地域の活性化に向けた取り組みの方向性を示しました。特に東京に近い地域の戦略と、成田のように東京から離れているけれど本県にしかないような拠点性があるものをどのように活用するか、かなり議論を重ねました。この3月に記者発表しましたが、成田空港周辺に国際物流拠点をつくるため、全国で初めて、例外的に農地を含む土地を事業用地として選定することができるという土地利用規制の緩和を政府から勝ち取りました。
一方で、九十九里浜や南房総などの自然が豊かなエリアは、2拠点生活や移住・定住、観光、農業や漁業といった分野の戦略を明示しています。
新産業は医療やバイオに注力
農業・水産業は世界市場を視野に
――県の基幹産業の競争力強化や、新産業創出の取り組みについてお聞かせください。
素材・エネルギー産業の一大集積地である京葉臨海コンビナートは、日本の産業や国民生活を支える上で、重要な役割を果たしています。しかしその一方で、生産活動により多くのCO2を排出しています。世界的な脱炭素の潮流の中で、京葉臨海コンビナートのカーボンニュートラルは極めて重要かつ困難な問題です。
しかし、私たちはこれをピンチではなくチャンスだと捉えています。カーボンニュートラルに果敢にチャレンジすることが、結果的に本県のコンビナートの国際競争力の強化につながるからです。多業種が集積するコンビナートの強みを最大限に活かし、業種を超えた企業間連携を促すため、県では、国・県・市・立地企業・有識者で構成する新たな協議会を立ち上げました。実際に京葉臨海コンビナートに立地している住友化学、丸善石油、三井化学の3社が、カーボンニュートラルの実現に向け、3社で連携して検討する動きも出始めています。今後は、官民挙げて英知を結集し、京葉臨海コンビナートが日本のカーボンニュートラルを牽引する先進的なカーボンニュートラルコンビナートに生まれ変わるように取り組んでいきます。
新産業振興への取り組みとしては、健康・医療、バイオ、エネルギー分野の振興に取り組んでいます。特に健康・医療分野では、国立がん研究センター東病院や千葉大学医学部附属病院など、高度な機能を持つ医療機関が立地しています。こうした機関にコーディネーターを専属で配置して、革新的な医療機器の開発強化に取り組んでいます。バイオ・ライフサイエンス関連では、DNAの専門研究機関であるかずさDNA研究所が、実用植物のゲノム解析や先端的な疾病遺伝子研究などを大学や研究機関と連携して進めています。
これらの拠点を活かし、より成長力を発揮できるようにしっかりと新産業の振興と地域経済の活性化を図っていきたいと思います。
――農業や水産業の活性化ではどのような取り組みをされていますか。
本県の強みの1つは、東京の隣県でありながらトップレベルの農業水産県であることです。
農業では、農業を牽引する農業者の育成や、生産性向上のための施設・機械の導入、スマート農業の推進などに取り組んできました。実際に企業的経営を行う農業者は増えており、経営体の法人化も進んでいます。加えて、千葉県の多彩な農林水産物を楽しめる新たな「千葉料理」として、「黒アヒージョ」を提案しています。これは県の若手職員で検討を重ねたもので、県の特産である醤油を隠し味として使用しています。今後は観光分野とも連携して普及に努め、千葉の魅力をさらに発信していきたいと考えています。
水産業については、本県は水揚げ量が10年以上連続1位の銚子港を抱えています。国とも連携して漁港の整備や製氷関係など周辺設備の更新を行い、銚子漁港を中心とする競争力強化に努めています。また、後継者や新規参入者が事業に取り組みやすくなるように、漁船をリースする支援も行っています。まだこれからですが、陸上養殖の取り組みも始めています。サーモンなどは、これから相当な生産量になるのではないかと期待しています。
さらに、本県の農産物や水産物を一大消費地に届けるだけでなく、成田空港を活かして積極的に輸出する取り組みも進めています。
中小企業のニーズに応じた
伴走型DX支援を実施
――2023年3月に「千葉県デジタル・トランスフォーメーション推進戦略」を公表されましたが、産業と行政のDXを今後どのように進めていかれますか。
新設した専門組織のデジタル改革推進局を中心に、県庁内DXを推進するとともに、県内にデジタルの恩恵を広げていく取り組みを行っています。
産業分野では、デジタル化やDXの実現に取り組む中小企業に対して、デジタル技術の導入事例を紹介するセミナーや、人材育成を目的とした研修、専門家による個別相談など、企業のニーズに応じた伴走的な支援を行っています。特に令和4年度から、中小企業などが行う先進的なデジタル技術を活用した実証プロジェクトの支援など、デジタル技術を活用した意欲的な取り組みを支援しています。
行政分野では、手続きのオンライン化やキャッシュレス化を推進し、行政サービスの向上を図るとともに、民間のデジタル専門人材を活用した市町村DXの支援を行っています。また、県の分野横断的なデータ連携を推進し、さまざまなデータの利活用も進めます。
自然エネルギーが豊富な千葉県
脱炭素は大きなビジネスチャンス
――カーボンニュートラルに向けた県の取り組みについてお聞かせください。
カーボンニュートラルの推進は、地域の経済成長の絶好の機会と捉えています。県内ではそれぞれの企業が革新的な技術開発に取り組まれています。そうした挑戦が社会実装されることで、カーボンニュートラルが加速度的に進むと考えています。県として、そうした取り組みを後押しするとともに、県民や事業者などのあらゆる関係者がカーボンニュートラルという目的を共有し、主体的に考えて実践するように意識改革や行動変容につながる取り組みを推進していきたいと思います。
本県は太陽光の発電能力が全国2位で、銚子市沖をはじめとした太平洋沿岸は洋上風力発電の適地でもあります。さらに、地域資源を活用したバイオマス発電もあります。このように、千葉県には脱炭素によるビジネスチャンスが他県とは比べ物にならないほど眠っています。こうした分野に県内企業にぜひ参画していただき、分散型エネルギーや脱炭素への取り組みによって、大企業と地元企業の間に好循環が生まれることを期待しています。
インバウンド誘客を本格始動
地域性活かすコンテンツ開発を支援
――千葉県の観光戦略についてお聞かせください。
観光においては、成田空港が、非常に多くのインバウンドの方々に利用されています。そういう方々に県内を巡っていただき、宿泊していただくようにするため、市町村や観光事業者と協力しながらインバウンドの誘客を図っていきたいと思います。さらに、台湾・タイ・ベトナムなど、海外現地での観光展や商談会への参加、県内事業者と連携した旅行会社へのセールス活動などを再開して、本県の観光地のPRに取り組んでいきます。
本県は首都圏にありながら、風光明媚な大自然を保有しています。こうした魅力を活かし、2拠点生活やワーケーションといった新しい観光スタイルにも力を入れています。ワーケーション施策としては、首都圏企業のニーズと県内における受入環境を把握し、企業と受入地域のマッチング機会の提供や情報発信を行うとともに、ワークスペース環境の整備など、地域の受入体制の整備も支援しています。
さらに、宿泊客の増加や観光消費額の拡大に向けて、海や水辺の魅力や食文化、サーフィンなどのスポーツといった地域の特色を生かし、「わざわざ行きたくなる」高付加価値な観光コンテンツの開発も支援しています。
豊かな自然とアートが融合した
千葉県150周年記念事業
――2023年6月15日に、千葉県は誕生150周年を迎えられます。記念事業としてどのような計画がありますか。また、県民に何を伝えたいですか。
150周年記念事業では、総合プロデューサーに小林武史さん、総合ディレクターに北川フラムさんを迎えました。小林さんは木更津市で、SDGsを意識した自然豊かな環境の中で農と食、アートと自然などを楽しむことができる施設「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」を運営されています。
フラムさんは市原市の歴史や文化、自然・人の暮らしなど、地域の持つさまざまな資源を現代アートと融合し、より魅力的な「いちはら」を再発見する新しい形の芸術祭「いちはらアート×ミックス」の総合ディレクターとして、市原の里山の活力を引き出していただいています。
このように、千葉県の自然豊かな環境とアートとの親和性や可能性を最もよく知るお2人が、県内各地で行われる150周年記念事業をプロデュースします。これからいろいろなプログラムを発表できると思います。
千葉県は東京の隣にありながら、豊かな自然環境の中で人間らしい生活ができるところです。我々日本人が大切にしてきたさまざまな魅力が手の届く範囲にあり、多様な経験ができます。世界に近く、東京にも近いけれど、日本の田舎にも近い。居住する場所としては大変よいところだと思っています。今後もこうした魅力をしっかり磨き上げていきたいです。
- 熊谷 俊人(くまがい・としひと)
- 千葉県知事