大村秀章・愛知県知事 類例のない「国際イノベーション都市」へ

産業集積日本一、製造品出荷額等(2019年)43年連続日本一、輸出額(2020年)日本一と、日本経済を支える愛知県。大村秀章知事は、愛知県と日本の産業・経済のさらなる発展のため、世界の潮流であるデジタル化とグローバル化の波に乗った「国際イノベーション都市」を目指している。

大村 秀章(愛知県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた
(2021年10月27日)

――「あいち経済労働ビジョン 2021-2025」で目標とされている「国際イノベーション都市」とは、具体的にどのような姿の都市でしょうか。

愛知県の製造品出荷額等は48兆円(2019年)で、43年連続日本1位です。2位の神奈川県は18兆円で、3位の静岡県が17兆円ですから、当県が圧倒的です。県別GDP(2018年度)も東京に次いで第2位ですから、愛知県の付加価値の高い製造業が当県の経済のみならず、日本の経済を支えていると言って間違いないでしょう。

今後は世界の潮流であるグローバル化とデジタル化がさらに進展します。我々はその波をサーフィンのように乗りこなしていかなければいけません。乗りこなしてこそ、当県の産業を、新しいビジネスモデルや生活様式に対応した強靭な構造へと転換し、未来を拓くことができるのです。

世界は立ち止まりません。実際に1995年を起点にGDPの推移を見てみると、今アメリカは2.8倍、中国は20倍ぐらいになっていますが、日本は横ばいです。愛知県の製造業もデジタル化を乗りこなしてやっていかなければ、どんどん置いていかれます。そういう思いから、「国際イノベーション都市」実現のための6つの柱を立て、特に重点をおく施策を先導プロジェクトとして位置付け、推進しています。

国際イノベーション都市を実現する
ための6つの先導プロジェクト

プロジェクト1では、「STATION Ai(エーアイ)」を中核とした国際的イノベーション創出拠点の形成を目指します。プロジェクト2では、自動運転・ロボット・ドローンといった革新的技術の社会実装を推進し、中部国際空港(セントレア)を中心とする地域でのスーパーシティ化に向けた取組に生かしていきます。プロジェクト3では、中部国際空港(セントレア)島内に2019年8月に開業した国際展示場「Aichi Sky Expo」を活用したMICEの誘致・開催を進めます。プロジェクト4では、感染症により対応が急務となった中小企業におけるデジタル技術の導入を支援します。プロジェクト5では、誰もが安心して活躍できる環境を整えるために、テレワークをはじめとする多様で柔軟な働き方を推進していきます。プロジェクト6では、愛知の産業を担う人財力を強化するため、県立高等技術専門校の再編・整備により、人材育成機能を強化します。

「Aichi-Startup戦略」の核となる「STATION Ai」


愛知県では独自のスタートアップ・エコシステム形成に向け、2018年10月に「Aichi-Startup戦略」を策定。スタートアップの創出・育成・展開・世界進出への流れと、有力スタートアップを世界から誘引する流れの両面から展開する。政策の中核となるのは2024年10月オープン予定の「STATION Ai」で、それに先駆けて2020年1月より「PRE-STATION Ai」を運営中。 上/「STATION Ai」の外観イメージ

画像提供:愛知県

この6つの先導プロジェクトを進め、イノベーションが次々と生まれ育ち、我が国の成長をリードし続ける地域を目指します。また、愛知県では、2022年秋のジブリパークのオープン、2026年のアジア競技大会の開催、2027年のリニア中央新幹線の東京-名古屋間の開通など、世界中から人が集まるビッグプロジェクトが続きます。そのインパクトを最大限に活かして国内外からヒト、モノ、情報を呼び込み、地域のグローバル展開を図り、世界的な交流・連携の拠点としての存在感を高めていきたいと考えています。

STATION Aiで世界最高峰の
スタートアップコミュニティ形成

――先導プロジェクト「STATION Aiを中核とした国際的なイノベーションの創出拠点の形成」とは、具体的にどのようなプロジェクトですか。

愛知の産業はもちろん、日本の産業や経済がこれから生きていくためには、常にイノベーションを起こして進化・発展をしていかなければなりません。それも国内に閉じていたのでは発展はありません。国際的なイノベーションを起こすことが重要です。

その流れの中で、スタートアップをどう起こしていくかがカギになります。当県ではスタートアップ・エコシステム形成に向け、2018年10月に「Aichi-Startup戦略」を策定し、アメリカのテキサス大学、中国の清華大学、シンガポール国立大学、フランスのSTATION Fなど、海外のスタートアップ支援機関や大学と連携を強化しています。中でもSTATION Fは、千数百社ものスタートアップが集積している、世界で最も成功したスタートアップのインキュベーション施設だと言われています。当県はSTATION Fと連携体制を構築し、今年度から、共同事業をスタートしました。

STATION Ai の整備・運営事業はAichi-Startup戦略の中核となる施策です。PFIのBTコンセッション方式で行うこととし、ソフトバンク株式会社が落札しました。約143億円の建設費で、延べ床面積2万3千平米という大規模なインキュベーション施設を名古屋市内の鶴舞公園に隣接する県有地に建設します。この施設の10年間の運営権対価は、約2億5千万円となりました。2021年9月に同社はSTATION Aiの整備・運営を担う特別目的会社STATION Ai株式会社を設立し、翌10月に愛知県と事業契約を締結しました。

今後はこの施設で、県と連携している先進的なスタートアップ支援機関や大学などのグローバルネットワークと、ソフトバンクの世界的なネットワークを融合して、スタートアップを1,000社集め、グローバルなスタートアップに育てる、世界に類例のないスタートアップコミュニティの形成を目指します。ソフトバンクがこれを機にスタートアップ向けファンドをつくる予定だと聞いています。彼らの目利きも含めて、どのようなスタートアップが集まるのか非常に楽しみです。

都心の一般利用者を対象に
自動運転車両の実証実験を実施

――モビリティサービスや航空宇宙産業、ロボット産業などの次世代産業への取り組みの現状と、今後の展望についてお聞かせください。

自動車産業については、県が11本のテストコースを持つトヨタ自動車の大規模研究開発拠点用地を造成しました。一部はすでに運用を開始しており、2023年度には次世代モビリティの研究開発拠点として本格稼働する予定です。さらに、自動運転やハイブリッド、電動技術といった次世代自動車のコア技術の開発・設計・評価の拠点整備から生産拠点設置まで、企業の新たな取組には、工業用地の造成や投資に対する財政支援を行っています。

次世代自動車のキーテクノロジーである自動運転分野については、自動車産業の振興のみならず、高齢者の移動支援を始めとする各種の地域課題の解決に資することから、これまで先導的な取組を推進してきました。今年度は、「中部国際空港島」「愛・地球博記念公園」および「名古屋市鶴舞周辺」の3地域で、自動運転の実証実験を実施しています。とりわけ名古屋市鶴舞周辺では、シンガポールですでに実装されている自動運転車両を用いて、都心の幹線道路において、夜間運転も含めた一般利用者を対象とした全国初の実証実験を行いました

航空機産業については、今はコロナ禍によって苦しい状況にありますが、今後20年で1.6倍という大幅な市場拡大が予想されていますので、引き続き関連産業の振興を図ります。

直近では、航空宇宙産業に関する日本最大規模の国際商談会「エアロマート名古屋2021」への出展を支援しました。今後もこのような取組を通じて販路の新規開拓や経営基盤の強化を支援していきます。

ロボット産業については、「新しい生活様式」により高まったロボットへの期待を一過性のものとせず、医療・介護をはじめ、飲食や警備、施設管理など、さまざまな場面でのサービスロボットの導入促進に向けた実証実験やマッチング支援を進めています。

リニア中央新幹線が
愛知県製造業の価値を向上

――リニア中央新幹線の全線開業は、愛知県の産業にどのような発展の可能性をもたらすと思われますか。

リニア中央新幹線が開業すると、東京-名古屋間は最速40分で結ばれます。これは東京で言えば地下鉄の時間距離なので、完全に首都圏と中京圏の経済域が一体化すると言っていいでしょう。このインパクトは計り知れません。

リニア中央新幹線のL0系改良型試験車。現在、山梨リニア実験線で走行試験を行っている。営業最高速度は500km/h 画像提供:東海旅客鉄道株式会社

よく東京と一体化するとストロー現象で愛知の人や産業が東京に吸い上げられてしまうと言われます。確かにそういう面もあるでしょうが、愛知県の産業の得意分野は付加価値の高いモノづくりです。むしろ首都圏のソフト人材が活用できるメリットの方がはるかに大きいと思っています。製造業もデジタル化していかなければいけない今、首都圏のIT人材を活用することで、付加価値の高いモノづくりという我々の強みがグッと強化されるでしょう。 また、モノづくり産業の集積地としての強みを基盤としながら、首都圏に集積する高度なサービス業との連携や融合によって、新たなビジネスモデルや製品・サービスの開発といったイノベーションの創出を図るとともに、世界に対する玄関口としてのプレゼンスの向上につなげたいと考えています。

そのために、名古屋駅のスーパーターミナル化、中部国際空港や港湾の機能強化、広域幹線道路ネットワークの整備といった、国内外とのアクセスの向上に努めていきます。

ジブリパーク開業や大河ドラマを
観光関連産業活性化のチャンスに

――愛知ならではの観光戦略、魅力的な地域づくりについて、お考えをお聞かせください。

2020年12月に「あいち観光戦略2021-2023」を策定し、愛知ならではの地域資源を、誰でも何度でも楽しめる奥深い「ツウ」な魅力として磨き上げ、観光コンテンツとしての付加価値を高める「あいち『ツウ』リズム」を推進しています。

なんと言っても愛知県は、信長・秀吉・家康の三英傑を始め多くの武将を輩出した武将のふるさとです。加えて、戦国時代は大河ドラマのテーマとなることが多く、2023年には家康の青年期にも焦点が当たる「どうする家康」が放映される予定です。家康は嵐の松本潤さんが演じられるので、松本さんのファンが全国から来てくれるのではないかと期待しています。

また、スタジオジブリと組んで、日本最大のグローバルコンテンツであるスタジオジブリ作品の世界観を表現したジブリパークが2022年秋にⅠ期オープン、2023年にはⅡ期オープンします。これは国内外から多くの人を惹きつける強力な観光コンテンツになるでしょう。この開業効果を最大限に活用して、国内外からの誘客や県内周遊観光を促進し、「ジブリパークのある愛知」としてのブランド力を強化していくことで、本県を観光の目的地とする、新たな顧客の開拓やリピーターの拡大を図ります。

さらに、2025年には、アジア最大級の新体育館が完成します。最大収容人数は17000席で、2026年にはそこでアジア競技大会が開催されます。

このように来年度から、観光関連産業を牽引するプロジェクトが目白押しです。これらの機会を観光の追い風として最大限に活かし、コロナ禍で深刻な影響を受けた愛知県の観光を、回復から成長へと導いていきたいと考えます。

――最後に、知事が目指す愛知県の姿についてお聞かせください。

愛知県ならびに日本の経済・産業の発展のためには、世界の潮流であるグローバル化とデジタル化の波を乗りこなしていかねばなりません。そこに向けて、「あいち経済労働ビジョン」のそれぞれのプロジェクトに、まずはしっかりと取り組み、世界に輝く国際イノベーション都市を目指していきたいと思います。

「STATION Ai」の内観イメージ。後ろの陶壁は瀬戸市出身の陶芸家・鈴木青々氏の作品で、愛知県花のかきつばたがモチーフになっている

 

大村 秀章(おおむら・ひであき)
愛知県知事