広島県・横田美香知事 「人を惹きつける地域づくり」を柱に広島を活性化

「人を惹きつける地域づくり」「県民の安全・安心な暮らしの基盤づくり」「被爆を経験した広島の使命」の3つを柱に、若者の挑戦を支える環境整備やAI・DXによる新産業育成、観光産業振興などに注力している広島県。2025年に同県初の女性知事に就任した横田美香知事に、現在のビジョンを聞いた。

横田 美香 広島県知事

人口減少を乗り越えるための
3つのテーマに注力

――知事就任から約半年が経ちましたが、2026年度に注力されていく重要施策についてお聞かせください。

2月に発表した令和8年度予算案は、2025年11月の知事着任後、県庁の皆さんの協力のもと議論を重ねて編成しました。湯﨑英彦前知事のさまざまな施策を引き継ぎつつ、人口減少や若者の転出超過などの問題が大きくなるなかで、私自身がやりたいと思うことをしっかりと盛り込んでいただきました。基本的な施策の方向性として、「人を惹きつける地域づくり」「県民の安全・安心な暮らしの基盤づくり」「被爆を経験した広島の使命」の3つを柱としています。

私は「人を惹きつける地域づくり」を選挙の中でも訴えてきました。今、人口が東京に一極集中する一方で、地方では少子化や人口減少が加速しています。そうしたなか、これからどのように地方を維持していくのかということが大きな課題となっています。

私が考える「人を惹きつける地域」とは、まず魅力的な職場がたくさんあり、しっかりと仕事ができる地域、そしていろいろなチャレンジができる地域であることです。そうした環境をつくることで、若い人々に自分が成長していく場として広島県を選んでもらえるようにすることが第一だと思っています。

また、仕事同様、楽しみも重要です。さまざまなスポーツや文化芸術などが豊かで、教育面も充実した広島にしていく。そうしたことも含めて、若い人たちが広島で家庭を持ち、子どもを産み育てたいという希望が叶えられる環境を作っていきたいと思っています。こうしたことを実現するため、「人を惹きつける地域づくり」をコンセプトにさまざまな施策に取り組んでいこうとしているところです。

最終目標はもちろん広島に住んでもらうことですが、まずは交流人口や関係人口として広島に来ていただくことを考えています。いろいろな考え方や知恵が集まり、そこから新しい創造性やイノベーションが生まれるように、関係人口や交流人口の拡大を目指しています。

広島の魅力を再整備しPR
交流人口の拡大目指す

――観光産業の振興では、どのような戦略・施策をお考えですか。

交流人口の拡大においては、観光が中心になるかと思います。今は海外の方々を含め、多くの方に平和の象徴の地として広島を訪れていただいています。

ただ、現状では観光客は本県にある2つの世界遺産、原爆ドームと嚴島神社に観光客が集中していて、これが本県の観光産業の課題です。例えば、広島は食に関する歴史のある地域です。牡蠣やお好み焼、レモンはよく知られていますが、その他にも新鮮な魚や比婆牛など美味しい食べ物はたくさんあるので、そういった食もぜひ味わっていただきたいです。また、瀬戸内海の多島美や中山間地域に広がる日本の原風景などもぜひ周遊して堪能していただきたいです。

左/生産量日本一を誇る広島の牡蠣 右/広島のブランド和牛「比婆牛」のステーキ

そのためには観光資源を磨き、整備していかねばなりません。本県ではこの4月1日から宿泊税がスタートしました。こうした財源も活用して、市町とともに受入環境の整備に取り組んでいきたいと思います。

農地や農業生産を維持・拡大して
次世代に引き継ぐ

――重要施策の中の「県民の安全・安心な暮らしの基盤づくり」では、どのような施策に注力されているのでしょうか。

食料自給率は暮らしの基盤でありながら、我が国では低い水準が続いています。さらに今、団塊世代がリタイアするタイミングに来ています。次の世代である団塊ジュニアは50代になり、その下の世代になると就農人口は急激に減少します。こうしたなかで、農地などの生産資源をどのように守っていくのか。これは非常に重要な課題です。

かつて集約化・整備した農地や水路は老朽化しています。これらを再整備し農地の大区画化を進め、少ない人手でも効率よく農業ができる環境をつくる。農地や農業生産を維持・拡大して次世代に引き継いでいけるようにする。こうしたことに喫緊の課題として取り組んでいます。

特に中山間地域では、人口減少が進んでいます。これをプラスに転じるのは難しいでしょう。そこで都市の住民と中山間地域の住民の交流を図り、都市の方々に地域課題に目を向けていただき、一緒に解決していただく。そういうプラットフォームの構築にも取り組む必要があると思っています。中山間地域が多い広島県では、本県ならではの農業のあり方を追求していかねばなりません。大規模化した農地をどのように使っていくのかや、将来を見据えた作物の選定も必要です。

もう1つ、大きな課題があります。それは気候変動です。2025年は、広島名物の牡蠣が多く斃死しました。気候変動だけが原因ではなく、夏以降の高水温や少雨による高塩分、酸素不足といった複合的要因によるものだと考えられています。広島県水産海洋技術センターでは原因分析を進め、海洋環境の変化に対応した養殖方法の検討と実証に取り組んでいます。

農業もしかりです。農地の気象を精密に予測する農業気象データプラットフォーム構築や、高温耐性品種の育成、農業用ハウスの環境制御技術の研究など、気候変動に対応した技術開発に取り組んでいます。これまで進めてきた大規模化による企業経営体を参考に、それぞれの地域の特性に合った農業を継承する仕組みづくりも考えていきたいです。

中山間地域には、里山の四季の自然が美しい日本の原風景が広がる

仕事も楽しみも「広島で」
スポーツ・文化情報を積極的発信

――広島県は転出超過の状況が継続していますが、そのうち8割は10~30代の若年層でした。この課題にはどのように取り組んでいかれますか。

若い方々が広い世界に出ていくことは良いことですし、いろいろなことにチャレンジすることも良いことです。ですから「広島から出ていかないでほしい」というメッセージは違うと思っています。私は、広島の外に出ていろいろな経験をした人が、広島でもいろいろなチャレンジができるのだと戻ってきてもらいたいと思っています。

自分がやりたい仕事やチャレンジができる場所を広島に作っていく。さらに、生まれ育った場所でそれができるということを知っていただく必要があります。そういう思いを「それ、広島で。」というメッセージに込めて発信しています。

一方、企業には、成長を促し、働く場としての魅力を向上させていただきたいと考えています。そのために研究開発機能の誘致などによる先端・成長産業の育成と集積や、業界単位でのDXの推進などによる生産性向上支援などに取り組んでいます。

また、若い世代と話をすると、「広島でコンサートなどのイベントをもっと開催してほしい」「子どもを連れて遊びに行く場所がほしい」という声が多く聞こえてきます。実際に広島にはコンサートや子どもを連れて遊びに行ける場所がないのかと言えば、決してそうではなく、そういう情報が伝わっていないというところもあるのではないかと思っています。どのようにすればいろいろな情報を伝えられるのか、今そういった研究も進めています。

また、全国ツアーのコンサート等も行われている「広島グリーンアリーナ」では、昨年10月に、アマチュアスポーツの利用を確保するためにコンサート等有料興行の実施を制限していた運用を見直しました。

さらに、現在、県では、ライブやコンサートに係る若者のニーズ把握や関係者へのヒアリングを行い、現状を丁寧に把握しているところです。

音楽だけでなく、本県ではスポーツが非常に盛んです。プロ野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、ラグビーなど、24ほどチームがあります。それに加えて、それぞれの市町が中心となり、地域住民とともに地域のスポーツを磨き上げる地域密着型「わがまち スポーツ」も非常に盛り上がっています。こうした情報もしっかり発信していくことが大事だと思っています。

広島市中心部に位置する広島県立総合体育館(広島グリーンアリーナ)

DXとAI利活用を推進

――行政・産業のDX推進、AI活用への取組についてお聞かせください。

生成AIをはじめとするデジタル技術は今、目覚ましい進化を遂げています。県では、広島県にAIを活用した新ビジネスにチャレンジする企業や人材を呼び込み、新たなイノベーション・エコシステムの形成を目指すプロジェクト「ひろしまAIサンドボックス」に取り組んでいます。

「ひろしまAIサンドボックス」の第1期成果発表会の様子

このプロジェクトでは、全国のAI開発者と課題を抱える県内企業や県内自治体をマッチングし、AIを活用したソリューションの開発を支援しています。AIを活用して新ビジネスに挑戦しようとする企業・人材を広島に集め、広島でのAIの取組を加速させるのが狙いです。

また、人材育成の面では、高校生がAIを学び、企業と連携して実践的な取組を行う「ひろしまAI部」の活動も進めています。

県庁では2024年9月に「広島AIラボ」を設置し、県職員と外部人材が自らテーマを設定し、新しい価値を生み出すようなAIの利活用に向けた探索・研究を行っています。この1月には、東京都及び一般社団法人GovTech東京(ガブテック東京)と「AI利活用の推進における連携・協力に関する基本協定」を結びました。今後は先進的な知見を共有し、安全・安心な生成AIの利活用環境を整え、県庁業務の効率化や新サービスの創出を目指します。

DXやAI利活用の取組は、1つの自治体だけ、1つの企業だけがやるのではなく、業界全体、あるいは市町県が連携して、もっと言えば県外の自治体も含め、みんなでいろいろな知恵を集めて取り組み、それを共有し横展開していくことが重要だと思っています。

DXの推進のためには、デジタル人材の確保が必須ですが、市町単独で確保・育成するのは難しいのが現状です。そこで県と市町で協働してDXを推進し、デジタル人材を共同で採用・育成・活用する枠組みとして、令和5年度から「DXShip(デジシップ)ひろしま」を構築しています。こうした取組は先進的な事例として紹介され、現在、全国の自治体に広がっています。

デジタル技術が目まぐるしく進化するなか、素早くDXやAI利活用を進めるには、自由な発想で、失敗を恐れず、失敗から学び、試行錯誤を繰り返し、何度でも挑戦できる環境が大事だと思っています。

「もっと美しく、楽しく」
夢を構想し実現する知事の決意

――知事として目指す、今後の広島県の姿についてお聞かせください。

広島は美しい県ですし、良いところがたくさんあります。それをもっと美しく、もっと楽しく、魅力あふれる県にしていきたいと強く思っています。

どんどん進む人口減少をどのように乗り越えるのか。どのように地域を活性化させていくか。いかに投資を集め、広島の美しさに磨きをかけ、成長を実現していくのか。これらはかなり難しい課題です。

現実を見据えた上で、「こうだったらいいよね」という広島の将来像を県民の皆さんと共有していくことが大事だと思います。たとえ人口が減少しても、経済活動が盛んで、とても過ごしやすい地域となるようにいろいろな取組をしていきたいです。女性活用という面でも、まだまだやらなければならないことがあります。その細部まで一つひとつ紐解き、対応していきます。

今、新しい発想を得るために、県庁内の異なる分野の人たちが一緒に課題の解決策を考えるような取組もしています。芸術やスポーツなどの楽しみの創出でも、知恵を集めて新しいことにチャレンジしていきたいです。「それ、広島で。」というチャレンジ精神をみんなで発揮しながら、広島県をさらによいところにしていきたいです。

夢すなわち構想は、それを持たないことには実現はありません。「こんな風にしたい」と思ったことはいろいろなところで発信し、皆さんと共有していきます。そしてみんなで「よし、がんばろう!」と気持ちを奮い立たせて挑戦していこうと思います。

2025年12月、広島県は若者の就職・転職・起業・Uターン・Iターンを支援する新キャンペーン「それ、広島で。」を開始した

 

横田 美香(よこた・みか)
広島県知事