AIで日本の未来を切り拓く — JAPAN AI 代表取締役社長 工藤智昭氏が描く、世界に挑む経営戦略

「なぜ日本から世界的テクノロジー企業が生まれないのか」─JAPAN AI株式会社 代表取締役社長・工藤智昭氏の挑戦は、その問いから始まった。2010年にジーニーを創業し、SSP(広告収益最大化プラットフォーム)事業で国内最大級にまで成長させた実績を持つ工藤氏は、2023年にAI専業の新会社としてJAPAN AIを設立。ジーニーの経営とJAPAN AIの経営を同時に行うなかで、経営の核に据えるのは「Day 1精神」だ。日本発のグローバルテクノロジー企業を目指す工藤氏の戦略と覚悟に迫る。

(JAPAN AI株式会社 代表取締役社長 工藤 智昭 氏)

ームチェンジの波を読む ── AI時代の「構造転換」決断

高校時代からコンピュータやAIに強い関心を持ち、大学ではコンピュータサイエンスを専攻した工藤氏。当時の日本には優秀な技術者が数多くおり、「論文を見ていても世界に負けていなかった」と振り返る。それでも世界的な企業は日本から生まれない。ならば自分で作る──その志を胸に、2010年にジーニーを創業。IT領域で約20年のキャリアを積んできた。

転機は2022年末、ChatGPTの登場だった。産業界に衝撃が走ったが、工藤氏にとっては長年待ち望んでいた瞬間だった。AIがもたらすインパクトの本質を「ゲームチェンジ」と見定めた。
「AIは今までとビジネスの考え方が全く違う。既存のやり方に引っ張られずに、ゼロからあらゆるものを生み出す必要があると考えました」と工藤氏は語る。

今回のAI市場が従来と決定的に異なるのは、最初から大手企業が本気だったことだ。通常、新しいテクノロジーが産業に浸透するには5〜8年かかる。中小企業やスタートアップが実証し、大手が追随するという段階的な流れが一般的だが、ChatGPTの登場直後から大手企業が予算を確保し、導入に動き始めた。つまり、信用力とセキュリティ水準を初日から満たせるかどうかが、AI市場参入の前提条件となったのである。

この構造転換を見逃さなかった工藤氏は、2023年にJAPAN AIを設立。あえて親会社ジーニーの一部門ではなく、独立した別会社として立ち上げた。「既存事業に引っ張られる可能性がある。AIはゲームチェンジであり、別会社として立ち上げるべきだと考えました」と語り、独自の意思決定ラインで動ける体制を一気に整えた。

「プロダクトで勝つ」─ 構想と実装を一体化する開発思想

数多くのプレイヤーがひしめくAI市場で、工藤氏が競争優位の源泉として繰り返し口にするのがプロダクトの力だ。日本だけでなく世界中からエンジニアを集め、海外のテクノロジー企業と比較しても十分に戦える水準のAI基盤を構築してきた。「それを日本企業向けに使いやすくカスタマイズして提供している。ここが大きな強みです」と工藤氏は力をこめる。グローバル水準の技術力と、日本市場の商習慣やニーズへの深い理解。その掛け合わせこそが、JAPAN AIの競争力の核だ。

そのプロダクトを支えているのが、構想と実装を一体化させた開発思想である。「企画する人が自分でAIを使ってプロダクトを実装してしまう。いきなり実装から走って、大量に試作して、いいものを出す。ドキュメントを書くという作業がほとんどなくなっています」と工藤氏は明かす。従来のIT企業が膨大な仕様書を積み上げてから開発に入るのに対し、JAPAN AIはいきなり実装から走り、大量に試作する。このスピードが通常の数倍の開発サイクルを生み、優れたプロダクトを圧倒的な速度で市場に届ける循環をつくっている。

「AIの会社として、新しい時代の開発のやり方を実践しています」と工藤氏は語る。プロダクトの質とスピードの両立──それは単なる効率化ではなく、AI時代のものづくりそのものを体現する経営判断だと工藤氏は考えている。
 

「Day 1精神」が駆動する組織 ──ステークホルダーに向き合う姿勢

工藤氏の経営には一本の軸がある。「Day 1精神」だ。「創業1日目は、顧客をものすごく大事にするし、節約や工夫もものすごくする。でも会社が大きく強くなってくると、みんなそれを忘れていく。企業が衰退していくのは、経営者も働く人もその精神を失っていくからです」と工藤氏は力をこめる。この精神をValueの一つに据え、組織が大きくなっても創業時の熱量を保ち続ける仕組みにしている。

Day 1精神は、ステークホルダーとの向き合い方にも表れている。「顧客、社員、株主、すべてを満足させ続けなければいけない」と工藤氏は語る。経営者に求められるハードルは年々上がっている。「大切なのは、常にいろんなところから学んで、結果を出し続けること。これに尽きます」と断言する。創業初日のように貪欲に学び、結果で応える。それが工藤氏の考えるステークホルダーへの責任の果たし方だ。

この姿勢は組織づくりにも貫かれている。「裁量とチャンスがある環境で人は大きく成長します」。リクルート時代に得た確信だ。若いうちから簡単な仕事ではなく、困難な仕事に向き合うほど人は伸びる。工藤氏はその信念を自社で実践し、30歳前後の若手を執行役員や事業責任者に抜擢して100人規模の組織を任せている。同時に「上の人ほど頑張る」文化を自ら体現する。トップが最も汗をかく姿を見せることで、全員が挑戦を当たり前とする風土が生まれる。

難しい仕事を若手に託し、上がその背中を支える──Day 1精神が組織の隅々まで行き渡ることで、JAPAN AIの実行力は生まれている。

テクノロジーで「持続可能な未来」をつくる

「JAPAN AIという名前ですが、日本にとどまらず世界に打って出たい。世界に名だたるような会社にしていきたい」。工藤氏の言葉には、創業以来の志が凝縮されている。海外では時価総額の上位をテクノロジー企業が占める一方、日本ではまだ伝統的な大企業が強い。その構図を変え、テクノロジー企業としてランキングに名を連ねることが、工藤氏の描く未来図だ。

その根底にあるのは、「AIで持続可能な未来の社会をつくる」というパーパスである。人手不足に苦しむ地方の企業や自治体を救う鍵の一つがAIになる──長年にわたり海外で事業を展開し、改めて日本の可能性を実感してきた工藤氏だからこそ、その言葉には実感がこもる。

「AIに関しては、本当にチャンスがいっぱいあります。ただし、ただ使うだけではなく、会社そのものを変革していかなければならないタイミングでもある。変化を待っていたり、自分が変わらないでいるとピンチになります」。工藤氏のこの言葉は、すべての経営者への問いかけでもある。

「日本から世界的なテクノロジー企業を」という志。その原点を、創業初日の情熱とともに持ち続けながら、工藤智昭氏は日本の未来に貢献する道を切り拓いていく。