部門の壁を越えた共創が、モビリティ社会を支える基盤になる

富士ソフトは、30年超の自動車制御領域におけるソフトウェア開発で培った技術と信頼を武器に、受託からサービスへ、事業の変革を加速させている。その原動力は、部門の垣根を越えた「共創」にある。挑戦はモビリティを超えて、製造、社会インフラ、エネルギーへ。社会基盤を担うこれからの構想に迫る。

(左より、執行役員 組込/制御ビジネスユニット ASI事業本部 本部長 五十君 隼一氏、組込/制御ビジネスユニット ASI事業本部 モビリティ事業部長 山田 雅通氏、組込/制御ビジネスユニット インダストリー事業本部 PE事業部 副事業部長 井熊 潤氏)

車の『中』と『外』を知る、唯一無二の強み

富士ソフトは1970年創業のITソリューションベンダーだ。自動車や電子機器向けの組込系ソフトウェア開発と、金融・製造・流通など幅広い業界の業務系システム開発を主力事業とする。自動車分野には1990年代、開発に用いるツールや周辺ソフトの受託から参入した。その後、車の電子化が急速に進むと、メーターやスマートキー、エアコン制御といったボディー系の組み込み開発と、カーナビゲーションの2領域での受託が大きく伸びる。「この時期が、自動車事業として本格的に成長し始めた起点です」と、自動車制御を担う組込/制御ビジネスユニット ASI事業本部 モビリティ事業部長の山田 雅通氏は振り返る。2010年代に入ると、エアバッグやADAS(先進運転支援システム)など安全系の開発が加わり、ハイブリッド車のパワートレイン制御やコネクテッド技術へと領域は拡大した。そして現在、自動車産業はCASEやSDVをキーワードに100年に一度の変革期を迎え、ITとOT(制御技術)の両方を熟知する同社への需要がかつてなく高まっている。「車の中だけ、外だけを知る企業は多い。しかし両方を知る企業は少ない。ここが我々にとって大きなチャンスです」と山田氏は力を込める。加えて、海外メーカーの台頭で開発スピードとコストの競争が激化し、「内製にこだわらず、使えるものは外部から取り入れる意識が、ここ一、二年で急速に広がった」。こうした環境変化に適応しようとする姿勢も、富士ソフトの複合的な技術力を引き出す土壌となっている。

協働で実現する他社にはない『組み合わせ』の力

このような業界動向においても、富士ソフトが継続的に優位性を発揮できる理由には、複数の強みを重層的に組み合わせている点にある。なかでも際立つのが、様々なツールベンダーとのパートナーシップだ。その基礎を築いてきたのは、車両制御のシミュレーション技術を得意とするインダストリー事業本部だ。「シミュレーション分野において新しい製品が出れば、まず富士ソフトに声がかかる。お互いにその会社でなければできないという関係を作り上げてきた」と組込/制御ビジネスユニット 同本部PE事業部副事業部長の井熊 潤氏は胸を張る。

ASI事業本部と部門を越えて連携し、デジタルツイン・シミュレーション分野のベンダーと提携、新製品のリリース時に優先的に検証環境を共有する関係を10年以上にわたり続けてきた。新しい技術や製品にいち早く対応・習熟できるこの体制が、競争優位を生んでいる。

こうした横断連携の体制は、全社横断の自動車領域における戦略会議のはじまりに遡る。もともと富士ソフトの自動車事業は、中部圏と関東圏でそれぞれ独立に成長してきた。互いに何をしているか見えにくい縦割りの状態だったが、両地域で事業が大きくなるにつれ、全社で横串を通す戦略会議が立ち上がった。この場を通じて相互理解が進むと、「この領域はASI事業本部のほうが得意だから任せよう」と、部門を跨いで強みを持ち寄る協業文化が根づいていった。

こうして育まれた横断連携により、ASI事業本部とインダストリー事業本部、さらにはITに強みを持つ他の本部それぞれの専門組織が協働し、「車の中と外」をワンストップで提供できる体制が実現している。モデルベース開発の成果物を均一な品質でまるごと提供する「MBDプロセス委託サービス」、自動車のAI開発で培った知見を凝縮した「次元圧縮AIエンジン」、さらにデジタルツインを活用したシミュレーションサービスなどを開発・提供する。横断連携によって蓄えた技術が、顧客に届く形のサービスへと結実している。

「1つの技術だけなら他社もある。しかし複数の技術を組み合わせ、ワンストップで提供できることが、当社の強みであり、いまのお客様に求められている」と山田氏は語る。

(自動車のAI開発で培った知見を凝縮した「次元圧縮AIエンジン」)

顧客と社会に、先回りする

社内連携が強みの土台なら、その力を外へと開いていくのが、ASI事業本部に約10年前から設置された企画グループだ。この連携を戦略面で牽引する同グループの注目すべき点は、社内に閉じた企画部門ではなく、顧客のもとへ足を運び、技術的な課題を直接収集する実働部隊であることだ。「企画グループがきっかけとなり引合いや受注につながることもあります。より技術的なことが分かるので、お客様の本質的な課題を掴むこともできます」と山田氏は語る。技術を理解しているからこそ、顧客自身がまだ言語化できていない潜在的なニーズまで先回りして掴める。それが、単なる御用聞きではない富士ソフトの提案力の源泉となっている。

視線は、顧客の先にある社会全体にも向く。同グループは大学との共同研究や、業界団体への参画を主導してきた。受託開発のなかで技術力を磨くだけでは限界があるとの認識のもと、最先端の知見が集まる場に身を置き、先行技術の習得と自社プロダクト開発を並行して進めてきたのだ。自動車業界で標準化への意識が高まった時期とも重なり、外部との接点が新たな情報や人材を呼び込む好循環も生まれている。「お客様が探す前に、先回りして準備できるようにしたかった」と執行役員 組込/制御ビジネスユニット ASI事業本部 本部長の五十君 隼一氏は狙いを語る。

サプライチェーンからバリューチェーンへ、モビリティ社会の基盤をつくる

富士ソフトの自動車事業が見据える未来は「モビリティ社会」だ。受託開発で培った知見をサービスとして多くの顧客に届ける体制を確立し、AI×IT×OTとの融合で自動車に閉じないモビリティ領域全体へ広げていく構想だ。「車はもはや単なる移動手段ではない。エネルギーマネジメントや災害時の電源供給など、社会インフラの一部になっていく」と山田氏は展望を語る。事業領域は開発工程にとどまらず、OTA、トレーサビリティ、生産管理システムの構築まで広がっている。「以前は納品したら終わりだったが、いまは廃車まで管理しなければならない時代。どのソフトがどの部品に入っているかを追い続ける必要がある」と五十君氏は力を込める。サプライチェーンからバリューチェーンへの拡張が現実として進んでいる。

その実現には、社内の他部門との連携が不可欠だ。「一つの部門だけでは、もうお客様のニーズに応えられない。複合的なサービスというのは、社内連携から生まれている」と井熊氏は言う。

自動車がモビリティ社会の一部となり、エネルギー、通信、都市インフラと融合していくとき、富士ソフトの強みは、さらに大きな意味を持つ。開発の現場で30年以上かけて培った信頼と技術を、社会の基盤を支えるサービスへと昇華させる。AI×IT×OTの共創による挑戦は、まさにその最前線にある。