さわかみ投信 長期的な顧客との関係構築を目指し、個人の夢を共に応援
さわかみ投信は、同社の顧客である個人投資家とともに個人の夢を育む「#かなえたい夢プロジェクト」を2023年から始めた。顧客と共に活動を応援し、協働して未来を創造する。かなえたい夢の投稿は2年連続で1万件を超え、人気プロジェクトに育っている。

熊谷 幹樹(さわかみ投信 取締役副社長)
個人投資家との関係を強固に
先が見えない社会で夢を語る意義
事業会社において、社員がアイデアを考え、発表できる機会を持つことにはメリットがある。そこから新しい商品やサービス、事業が生まれるかもしれないからだ。機関投資家が一般の人の夢を公募し、実現を支援することにはどのような意味があるのだろうか。
さわかみ投信は1996年7月に設立された日本初の独立系直販投信会社。個人投資家向け投資信託の運用・販売などを行い、「一般生活者の財産づくり」として長期投資を実践してきた。運用を行うに当たっては、「企業が成し遂げたいビジョンが社会にとって不可欠なものであれば、資本提供を通じて応援することが投資家の役目。その延長によりよい未来が築かれていくという考え方を大事にしてきました」と同社取締役副社長の熊谷幹樹氏は説明する。
同社は約13万人の個人投資家を顧客として抱えている。「投資に対するリターンを提供するだけでなく、運用会社と投資家という立場を超えた関係性を築いていきたい」との想いから、顧客と一緒に取り組むことができるプロジェクトを模索していた。そして、毎月最終営業日に、社員が社内のカフェスペースに集まってアイデアを自由に話し合う「月末会」での役員と社員の雑談を通じて「#かなえたい夢プロジェクト」が着想されたという。
人々の夢を募り、その中から最終的に選ばれたものを、機会の提供や金銭的な支援を通じて応援する「#かなえたい夢プロジェクト」が誕生した背景について、熊谷氏は「すべての企業の過去の偉業も誰かの夢から生まれています。となれば、個人の夢を応援することもまた投資の1つの形ではないかと考えました。もう1つの側面として、国としての多額の借金や、高齢化など、多くの課題を抱える日本社会の中で夢が広がる機会をつくることも長期投資家である当社の企業姿勢として示したかった」と語る。
一般から広く夢の投稿を募集するにあたり、文章・画像・動画などの投稿サイト「note」の670万人の利用者に向けて夢の投稿を募った。第1回目の2023年度は1カ月で1万件を超える投稿があり、note社の企業協賛企画の投稿数としては、2021年4月以降最多であった。「夢は言語化して初めて具体化し、形になっていく。それぞれの夢を後押しできたのでは」と熊谷氏。約1万1000件の投稿の中から、夢の実現への本気度や、実現可能性を加味して、最終的に3名を選び、応援することに決めた。
さわかみ投信内での審査の様子。応募者は老若男女多岐にわたり、様々な夢が寄せられた
目標の実現に向けた
支援のしくみをつくる
選ばれた3人の夢は三者三様だ。まず1人目は、データサイエンスの分野で日本を牽引し、世界一を目指す大学生。独学でデータサイエンスを学び、高校生の全国大会で3度の入賞経験を持つ。テーマとしては「データサイエンスを用いて地域社会ひいては世界をより良くすること」を目標に掲げている。さわかみ投信の応援実績としては、シンガポールで開催されたデータサイエンス世界大会に出場するための渡航費を支援したほか、研究顧問契約を結び、委託業務として投資家動向や企業評価の分析プロジェクトに携わってもらっている。
2人目は、高知県を起点にノマド事業を展開し、日本と世界を繋ぐ架け橋となることを目指す国際起業家。高知県須崎市でノマド事業を展開し、世界中から滞在者が集まっている。同市の政策アドバイザーも兼任し、「日本の地方から世界へ」をテーマに掲げ活動している。さわかみ投信の応援実績としては、世界へ日本文化を発信するためのエジプト、サウジアラビア訪問のための渡航費を支援した。
3人目が、文筆業を志す小学校教師。noteにてエッセーの投稿を続け、2023年度のnote公式コンテストにおいて3度の受賞歴を持つ。「言葉の力で他者に安らぎや勇気を与え、行動喚起を促すこと」を目標に掲げている。さわかみ投信の応援実績としては、顧客向けレポート(読者数約13万人)にてエッセーを連載してもらった。3人に対しては、2カ月に1回程度面談し、数年は応援を続けていく考えだ。
熊谷氏は「プロジェクトに採択されなくても、ここまで多くの人が夢を言語化する機会を作ることができたことは、社会にとってもプラスだと考えています」と語る。また、顧客に対しては、さわかみ投信が毎月発信している前述の顧客向けレポートなどでプロジェクトの進捗を発信しているほか、昨年度は1年に1回実施している顧客向けの運用報告会の場で採択された人がプレゼンテーションする機会も設けた。
「いわゆる『推し活』のように応援したいというファンが増えているのを実感しています。今後は、プロジェクトなどを行う時に直接資金で応援できるクラウドファンディングのような仕組みも作っていきたい」と語る。
また、これら多数の応募の審査については、社内から有志を募り、分担して行ったという。「様々な夢を大量に読み、知ることで、社員がそこから情熱を感じるとともに、視野が広がり、多くの学びが得られたとの声を聞きました。長期で顧客と関係性を築いていくという会社の考えを改めて感じてもらう機会にもなりました」と、組織としての意義もあったという。
プロジェクトに採択された応募者。個人投資家の前で自分の夢をプレゼンテーションした
夢の熱量が倍増した2回目
顧客との大事な接点
2回目となる2024年度の投稿総数は1回目に続き1万件を超えた。「1回目の夢の投稿の平均文字数は約1000文字だったのですが、2年目は倍の2000文字に増え、熱量も倍増しています。1回目に応募された方の夢がロールモデルになり、そこからヒントをもらい、刺激を受けた方も多かったようで、夢の分かち合いが生まれてきたのかなとも感じています」。現在は最終審査に向け8人まで絞り込んだところで、今後、顧客からの投票と候補者との面談結果をふまえて6~7月にかけて応援者を決める予定だ。
「『#かなえたい夢プロジェクト』を通じて、それぞれの人の未来にとって大事な物語づくりに貢献できる。また、一緒に応援することによって、さわかみ投信のお客さまとの関係を深めていくことができました。NISAがスタートし、日本においても貯蓄から投資への流れができつつある中で、顧客との関係性を築く大事な接点と考えています。プロジェクトを通じてたくさんの夢が生まれ、育っていくことを楽しみにしています」。

- 熊谷 幹樹(くまがい・もとき)
- さわかみ投信 取締役副社長