データ駆動で挑む「循環型豚肉経済圏」の再構築
長い歴史の中で人類の食と生活を支えてきた養豚は現在、コストや環境負荷の高さから持続が困難になっている。日本においては人手不足と高齢化が問題をより深刻にしている。その中で株式会社Eco-Porkは、データを武器に持続可能な「循環型豚肉経済圏」の再構築に挑んでいる。
神林 隆(株式会社Eco-Pork 創業者兼代表取締役)
「測れないものは管理できない」
40兆円産業の手法に風穴を空ける
世界全体で豚肉生産額40兆円と、世界最大の一次産業である養豚。日本でも年間6,000億円と、国内農業でも上位の生産額だが、その規模ゆえに、穀物使用、抗菌剤使用、豚の生体から排出される温室効果ガス(GHG)などによる環境負荷が指摘されている。
EUでは特に問題が先鋭化しており、オランダなどでは、養豚事業ではGHG排出削減がかなわないことから、政府主導で廃業促進に動いている。日本国内をみれば、人手不足と高齢化の文脈で、養豚業の継続が難しくなっている。一方で、世界人口の急増に伴う食糧不足とタンパク質需要の増大による「タンパク質危機」は、早ければ2027年に発生すると言われている。
こうした、「豚肉」をめぐる問題を包括的に解決し、人類の長い歴史の中にあった、豚肉の生産から消費の循環を再構築するため、株式会社Eco-Porkは平成29年11月29日、「ニクイイニクの日」に創業した。
「外資系コンサルティングファーム時代に手がけた一次産業のマーケットリサーチで、養豚の持続困難性とタンパク質危機の緊急性を認識すると同時に、食文化、食の選択肢の多様性として、養豚を残したいと思ったのです。学生時代からNPOで環境問題を考えていたころからずっと、『環境』は自身のテーマでしたから、養豚の問題を丸ごと受け止めて、環境負荷の低減と生産性向上とに同時に挑むしかないと思いました」と、創業者で代表取締役の神林隆氏は語る。
40兆円産業でありながら、従来の養豚業では、農家の「勘」や「経験」に頼り、科学的・数値的な生産管理が行われていないケースも多かった。データによる生産管理の起点になったのが、AIカメラだ。国内で初めてAIカメラによる豚の生体データ取得技術「ABC(AI Bio-sensing Camera)」を実用化した。
「養豚は、1kgで生まれた子豚に適度な筋肉と脂肪をつけさせながら育て、半年で120kgまで大きくする、いわば『筋トレ』なのです。成長フェーズに合わせて餌や環境などを最適化する中では、体重把握が必須です。 ところが、その体重測定が困難でした。体重を測ると豚にストレスがかかり、体重が減ったり、場合によっては死亡に繋がってしまうこともあり、測れない。『生き物だから仕方がない』という考え方でした。そこで、豚にストレスを与えずに体重を測ることができれば、突破口になると考えました」
養豚経営支援システム「Porker」
J-クレジット事業で導入促進
AIカメラと並ぶ主力プロダクトが、クラウド型養豚経営支援システム「Porker」だ。豚舎内モニタリングと連携して、繁殖・離乳・肥育・出荷の全行程におけるデータ取得、解析、可視化と課題解決支援までを行い、生産性向上とコスト削減を可能にする。導入の初年度で7%の生産性改善(ユーザー平均値。総産子数)、ユーザー全体で70.8億円/年の売り上げ増加効果があったと試算されている。
現在、全国の養豚農家の約14.6%が導入しており、今後も継続と新規導入を強化する。2024年に食料・農業・農村基本法が改正され、同年、スマート農業技術活用促進法も制定された。2030年までにスマート農業活用割合50%以上という政府の目標に歩調を合わせ、Eco-Porkも2030年までに導入率50%を目指す。
その切り札が、ENEOSと資本・業務提携を締結して開始した、養豚業初のプログラム型J-クレジット創出プロジェクトだ。Eco-Porkの支援する養豚の場合、アミノ酸バランス改善飼料によって、豚の排泄物処理時に発生するN2O(亜酸化窒素)排出量を抑制する方法がクレジット適用対象となり、それをENEOSが買い取る。
「『Porker』を使えば、GHG削減量を正確かつスムーズに算出でき、容易にJ-クレジット創出者になることができます。付加価値としての環境効果を可視化しながら、それを収益化することができるのです。足元の収益性と、長期的な生産性向上とコスト削減効果との両輪で訴求します」

畜産業の持続可能性と社会的評価の向上を目指すEco-Porkのソリューション
(同社インパクトレポートを一部加工)
北米進出とウクライナプロジェクト
仲間とともにチャレンジを続ける
今後はAIカメラ「PigDataStation(ピッグデータステーション)」と「Porker」を軸に、データ取得と解析、環境管理による自働化、省人化を図った「DX豚舎」の実装を目指す。2024年より農林水産省事業として、愛知県に実証農場を展開している。

実証実験を行うDX豚舎内部
「理想は、完全自働化された養豚です。養豚の環境課題の1つに、抗菌剤の使用による耐性菌の発生があります。ヒトと豚との共通感染症への対応という観点からも、人が豚舎に入らずに済むことは有効だと考えています」
DX豚舎の実証実験と並行して、これまで確立した養豚支援モデルで、北米を起点に海外進出を本格化させる。2024年にはアメリカ現地法人を設立、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)のディープテック支援事業(DTSU)として、豚画像認識技術の国際展開に向けた技術改良と事業化検証を開始した。
「養豚の課題解決を目指すならば、豚肉生産額世界2位、4兆円規模のマーケットであるアメリカに進出するのは必然です。アメリカの養豚農家は、環境課題にはあまり関心はないかもしれません。ただ、『規模に見合った生産管理ができる』とわかれば、生産性向上とコスト削減を合理的に追求するというスタンスですから、我々のシステムとの親和性が高いはずです。結果として環境負荷低減も実現します」
グローバル展開も視野に入れる中、2025年からはウクライナでの養豚DXとカーボンクレジット創出事業に取り組む。ウクライナ養豚協会と共同で国際連合工業開発機関の「日本企業からの技術移転を通じた新事業創造によるウクライナのグリーン産業復興プロジェクト」(経済産業省が資金を拠出)に参画する。
「ウクライナ政府は欧州向けの豚肉生産額を2倍にしていく方針を示しています。EUの環境配慮基準に適合したブランド豚で付加価値もつけます。当社の技術がその実現を支援します」
養豚をめぐる世界的な課題に正面から挑むEco-Pork。大きなチャレンジだからこそ、メンバーが「志」を持ち、「行動」できているかを常に問い、そして「結果」を出し続けることにこだわっていく。