ユーピーアール──町の材木店から世界へ。社会課題と進化を重ねる物流インフラ構想

山口県宇部市で木材業として創業したユーピーアールは、 パレット製造からレンタル事業へ、さらにIoT技術を活用した物流 インフラ企業へと進化を遂げてきた。「所有から共有へ」という 哲学のもと構築した循環型モデルは、物流2024年問題に直面する 業界において、社会課題解決の具体策として注目されている。
地方発の循環型イノベーション
山口県宇部市を創業の地とし、東京と宇部に本社を構えるユーピーアール株式会社。1928年、酒田氏の祖父が創業した前身の屋号は酒田材木店。地域の炭鉱や建設需要を支える木材業から 始まり、戦後の復興期には木材加工の技術を活かしてパレット 製造へと事業を転換した。高度経済成長期の大量輸送時代の 到来とともに、「モノを運ぶ仕組み」そのものを支える企業へと 発展していった。
「つくる」から「シェアする」へ──発想の転換
レンタルパレットとは、企業が物流で使用するパレットをユーピーアールが貸与・回収し、洗浄・整備したうえで再利用する仕組みだ。モノを売るビジネスから、社会全体の効率化を支えるリカーリング型モデルへ。酒田氏は「所有から共有へ」という思想を早くから実践してきた。
中期ビジョン2030で掲げるパーパスには、「未来は自分たちが変えていく」「モノ・コト・ココロを分かち合う」という言葉がある。単なる事業方針ではなく、創業以来受け継がれてきた哲学の延長線上にある。
「物流は社会をつなぐ血流のようなもの」と酒田氏は語る。効率化やデジタル化の先にあるのは、持続可能な社会を支える"循環"の実現だ。
スマートパレット®で物流を可視化──IoT技術の実装
同社の強みは、パレットというリアルなモノにテクノロジーを融合させた点にある。IoT技術を活用し、通信機能を備えた「スマートパレット®」を開発。位置情報や温度、稼働状況をリアルタイムで把握できる仕組みを実現した。これにより、これまで"ブラックボックス"だった物流の流れを見える化し、紛失や滞留の防止、在庫最適化といった課題の解決につなげている。
同社のIoTソリューションは、医薬品のGDP(適正流通基準)対応や温度管理などにも活用され、信頼性の高いトレーサビリティを提供。大学との産学連携や通信キャリアとの協業を通じて、実証実験を重ねてきた。これらの取り組みは、単なる業務効率化ではなく、「データによる社会インフラの再設計」としての意味を持つ。
「物流2024年問題」への構想力
いま、物流業界全体が直面しているのが「物流2024年問題」だ。ドライバーの時間外労働規制が本格化し、業界全体の構造改革が不可避となっている。国土交通省は2030年までにレンタルパレット流通枚数を5,000万枚に増やす方針を掲げ、政府による「改正物流効率化法」も施行された。ドライバーの長時間労働の一因とされる手積み手下ろし作業を削減するため、輸送から保管までを同一パレットで完結させることで、荷役時間の短縮や積載効率の向上を図る「一貫パレチゼーション」の推進が注目されており、ユーピーアールはこの仕組みの普及に積極的に取り組んでいる。
その具体例が、家庭紙ナショナルブランドメーカー4社が幹事を務める「家庭紙パレット共同利用研究会」である。事務局をユーピーアールが担い、専用パレットの共同利用・共同回収を推進している。「運べなくなるリスク」という共通課題のもと競合企業間で協調し一丸となって物流改善に取り組む姿は物流の効率化と社会全体の最適化に貢献する先進的な事例として注目されている。
地域に根ざし、世界へ挑む
同社の挑戦は国内にとどまらない。すでにシンガポール、タイ、マレーシア、ベトナムの東南アジア4カ国へ進出し、レンタルパレットの普及を進めている。アジア各国ではEコマース市場の拡大に伴い物流需要が急増しており、日本で培った"シェアリング型インフラ"も拡大している。
一方で、本社のある宇部市との結びつきも強い。地元サッカークラブ「レノファ山口」への支援をはじめ、教育連携や地元雇用の創出など、地域とともに歩む姿勢を貫いている。
酒田氏は「地方にいると社会の課題が早く現れる。その意味で、地方は日本全体の縮図」と語る。地域課題の解決を出発点に、グローバル課題の解決へと発展させていく──それが、同社の"地方発イノベーション"の真価である。
「構想」は進化し続ける
ユーピーアールは2025年度に中期経営計画(ver.2)を総括し、新たに「中期ビジョン2030」を策定した。
同ビジョンでは、「構造改革フェーズ」と「成長フェーズ」を明確に分け、選択と集中による経営の強化を打ち出している。物流効率化法の施行に合わせた新サービスの開発や、一貫パレチゼーションの拡大、海外営業体制の強化が柱だ。2030年にROE10%以上、EBITDAの継続的成長を定量目標として掲げる。
さらに、環境・社会・ガバナンスを横断する非財務目標も設定。自社パレットのリサイクル率100%維持、温室効果ガス排出量30%削減(2023年度比)、男性の育児休暇取得率・育児休業からの復職率100%継続などを掲げている。
これらの取り組みは、同社が「社会インフラを共有する企業」としての使命を自覚していることの表れだ。
100年企業への道──共有の思想を未来へ
ルーツである酒田材木店の創業からおよそ1世紀。ユーピーアールの軌跡は、木材業から始まり、レンタル、そしてデジタル・グローバルへと広がってきた。
酒田氏は「どんな時代でも、やろうと思えば道は拓ける」と語る。その言葉どおり、同社は社会課題に向き合い、構想を実装し続けてきた。
町の材木店から始まった挑戦は、いまやアジアへ、そして次の100年へとつながっている。