福井県・杉本達治知事 誰もが自分らしさを発揮できる福井県へ

県立大学に創設した恐竜学部の受験倍率の高さが話題となった福井県。「福井と言えば恐竜」は全国的に定着している。杉本達治知事は、「福井と言えば○○」をたくさんつくり、福井県の認知度をさらに上げたいと考えている。2025年度から始まる第2期の長期ビジョンを軸に、今後の構想を聞いた。

杉本 達治(福井県知事)

「幸福度ランキング」で
12年連続日本一の福井県

――「福井県長期ビジョン」(2020年度~2024年度)の成果と、2025年度からの新計画についてお聞かせください。

2020年度にスタートした「福井県長期ビジョン」では、2040年の将来像を目指し、5年ごとの実行プランと地域プランを定めて、「『安心のふくい』を未来につなぎ、もっと挑戦!もっとおもしろく!」を基本理念に、「しあわせ先進モデル 活力人口100万人ふくい」の実現に取り組んできました。

「安心のふくい」の前提としては、12年連続で達成している「幸福度日本一」の福井を次の時代につなぐことです。それは、ミニ東京のような都市をつくるとか、金沢のようになりたいとか、そういうことではありません。福井らしさをどう残すのかが重要だと考えています。結果としては、幸福度ランキング日本一を維持していますので、「安心のふくいを未来につなぐ」というのは成功していると思います。

2024年3月の北陸新幹線開業も相まって、新しい投資、起業、企業誘致といったチャレンジの輪が広がっています。例えば、賑わいを増やすチャレンジとして、恐竜博物館のリニューアルや一乗谷朝倉氏遺跡博物館の開館により、たくさんのお客様においでいただいています。「もっとおもしろく!」という意味では、2019年に福井市の中心にある福井市中央公園で本県初の音楽フェス、ワンパークフェスティバルを開催しました。今では毎年1万人以上が集まる大きなフェスティバルです。2024年には、道路と新幹線が並行して走る新九頭竜橋や現存する天守の1つで重要文化財の丸岡城をコースとしたフルマラソン「ふくい桜マラソン」を開催し、大変好評をいただいています。

この5年間の取り組みはとても成功したと思っていますので、2025年度からの5年間では、これまで少し足りないかなという点で、福井県はおもしろい、ここにずっと住み続けたいと思ってもらえるよう、「とんがろう、楽しもう、ふくい」を合言葉に一人ひとりのチャレンジを応援し、誰もが自分らしさを発揮できる「安心の居場所」と「活躍の舞台」のある日本一の幸せ実感社会の実現を目指します。これが実現すればさらにおもしろい福井になっていくでしょう。

「恐竜」だけではない
福井の魅力を発信

――2024年3月に策定された「福井県ブランド戦略」のポイントについてお聞かせください。

福井県は恐竜が有名です。国内で確認された新種の恐竜13種類のうち6種類が福井県で発見されています。2023年7月にリニューアルした福井県立恐竜博物館には全国から多くの人々が訪れています。福井駅周辺には多くの恐竜と出会えるスポットを整備しており、中には鳴きながら動く巨大な恐竜もいます。恐竜をコンセプトにした客室や共有スペースを備えた恐竜ホテルも多数あります。特に今回の新幹線開業に伴い、「福井と言えば恐竜」ということがより浸透したという手応えを感じています。

福井駅西口広場に設置された高さ5m、全長12mの巨大なティラノサウルス

 

福井県立恐竜博物館の全景。2023年7月にリニューアルオープンした

このように、本県のブランド戦略で注力しているのは、「福井と言えば○○」と、全国の人が思い浮かべるものをつくることです。また福井にはこれまで県民が大切に守ってきた歴史、自然、文化があります。その中には1000年以上の歴史を持つ、全国的に見ても非常に価値の高いものがあります。

例えば2024年の大河ドラマでスポットを浴びた越前和紙には1500年以上の歴史がありますし、越前漆器にも約1500年の歴史があります。日本六古窯の1つである越前焼には約850年の歴史があり、世界のシェフがわざわざ注文しに来る越前打刃物には約700年の歴史があります。他にも越前箪笥や若狭塗など、福井は伝統工芸の宝庫なのです。こうした福井の本質の層の厚さに気づいていただくため、「『千年文化』を未来へ」をコンセプトに、新たな地域イメージを形成し、全国に発信しつつ、県民が誇りを感じて、ふるさと愛を育てる取り組みを進めています。

2024年3月、北陸新幹線金沢・敦賀間が開業。敦賀駅出発式の様子

恐竜学部の入試は倍率7倍
県立大学をコアに県を活性化

――2025年4月に福井県立大学に新設した恐竜学部は入試倍率の高さが話題になりました。県外から若者を集める力として期待できそうですね。

恐竜学部はインパクトがあるので、福井県立大学と聞けば、恐竜だと思い浮かべてもらえるでしょう。恐竜学部のキャンパスは福井県立恐竜博物館の隣に設置します。ここを恐竜研究の拠点として、学術的な研究も進めていこうと考えています。恐竜学部は恐竜のことだけを研究するのではありません。地質学、気候学、植生などを学ぶ必要があります。こうした学問から得た知識は、就職先などの職業分野でも活かすことができるでしょう。

私は知事に就任して以降、「実学」をコンセプトに、創造農学科、先端増養殖科学科をつくり、恐竜学部をつくりました。2026年4月には地域政策学部(仮称)を創設します。キャンパスは、福井駅の隣に「福井まちなかキャンパス」を設置する予定です。これにより福井県立大学は6学部10学科、6キャンパスを持つ総合大学となります。福井県立大学では、アカデミックな基礎研究はもとより、学んだ知識が就職先で即戦力になる、あるいは自分で起業する力になるような学びができる大学にしたいと思っています。また、街中にキャンパスを設置することで、都市部から地方へという新しい学生の流れをつくりたいと思っています。

県民衛星「すいせん」打ち上げ
福井に芽吹く宇宙産業

――既存産業の振興や新産業育成ではどのような取組をされていますか。

福井県は日本で生産されるメガネの約95%のシェアを占めており、メガネの聖地として知られています。そのクオリティの高さから、特に技術力を重視するヨーロッパの国々からリスペクトされるなど、本県のメガネは世界的に注目されています。また、本県は繊維王国としても知られています。特に合成繊維の織物は日本一を誇ります。

こうした産業を基礎として、ヘルスケアやロボット、AI・IoT、脱炭素など、時代の変化と共に栄える産業の集積や育成にも力を入れています。特に注力しているのは、炭素繊維と宇宙産業です。炭素繊維は30年以上前から福井県工業技術センターで炭素繊維等を用いた複合材料関連技術の研究を行っており、製品化が進んでいます。

宇宙産業は、産業界から声がかかり、2015年に県民衛星を打ち上げるプロジェクトが立ち上がりました。そして2021年3月、ついに県民衛星「すいせん」を打ち上げました。今では、人工衛星を活用した新しい産業の芽が出ています。また、本県の中小企業の強みでもある微細なものづくりの技術力を活用し、超小型衛星をつくる企業が続々と参入しています。本県の宇宙産業の今後の発展が楽しみです。

社長輩出率42年連続日本一
若い感性持つ跡継ぎベンチャー

――起業家の育成や支援についてお聞かせください。

福井県は社長の輩出率が42年連続日本一で、スタートアップもたくさん出ています。人口あたりのIPOを行った企業数は全国5位という高い水準で、本県では2017年から、県内の成長意欲の高いベンチャーや経営者が、県内外の金融機関やベンチャーキャピタル(VC)の前で事業プレゼン(ピッチ)を行う機会を提供する福井ベンチャーピッチを実施しています。ここからIPOを目指す起業家も多数参加しています。

2024年3月に実施した「福井ベンチャーピッチ in 東京」。10社の福井発ベンチャーが参加

また、本県は跡継ぎベンチャーが非常に多いのですが、単に家業を引き継ぐのではなく、若い考え方や感性で子会社を作ったり起業したりして、新しいことを始めて大きく成長するのが特徴で、福井ベンチャーピッチにも多数登壇しています。なお、県では、こうした若者たちを応援する、チャレンジ応援ディレクターをリーダーとするチャレンジ応援チームを2021年5月に立ち上げました。この応援チームは、ビジネスチャレンジプランコンテストなどを開催して、若者のワクワクやドキドキを広げてくれています。

一方で本県の課題は、大学発ベンチャーが少ないことです。2025年度は県内の大学と連携しながら、学生向け起業家育成にも取り組んでいきます。

市町と足並み揃えたDXで
資金・人材・時間を節約

――DXへの取組においては、どのような施策を進めていらっしゃいますか。

DXについては、生活のDX、産業のDX、行政のDXという3つの柱を立てています。まず、行政のDXを徹底して進めようと取り組んできました。テレワーク環境の整備と並行して、2024年度末までに90%、2025年度末には100%フリーアドレス化を実現します。テレワークもフリーアドレスも場所を問わない働き方となりますので、自然と紙が電子データに変わっています。また、今春から選択的週休3日制を可能にします。例えば、朝から6時間だけ働き、用事を済ませた後で2時間仕事をするというような働き方が可能になります。

行政のDXを進めるにあたり最も気をつけていることは、県と市町が足並みを揃えて共同で進めることです。県と市町が一元的にDXを進めれば、県民の皆さんのさまざまな手続きなどが効率化できます。また、DXに必要な人材や資金、時間を節約できます。

生活のDXとしては、県民一人ひとりに必要な情報が届く環境の整備に取り組んでいます。今年1月には、引越しや結婚、死亡届などの手続きを一括で案内できるナビゲーションシステムの利用を開始しています。また、家族状況など県民お一人ひとりに応じた情報がプッシュ型でスマホに届く仕組みを、今市町と共に構築しているところです。

地域デジタル通貨「ふくいはぴコイン」は、チャージ機能があるため、一般的な電子マネーと同じような使い方ができます。現在17万ダウンロードされており、県民の4人に1人が活用しています。運動をしたり、地域のボランティア活動に参加したりすると報酬がもらえるなど、「ふくいはぴコイン」は、社会を変えるツールにもなると思っています。

産業のDXについては、特に中小企業のDXがなかなか進まないという課題がありました。そこで、「ふくいDXオープンラボ」を設置し、DX推進体制を整備して、DX人材の育成・確保・資金の支援などを行っています。

まだたくさんある
観光の穴場スポット

――今注目の福井県の観光地としては、どのようなところが挙げられますか。

本県の観光のイチオシは恐竜博物館です。また、福井駅で電車を降りていただくだけで、25体の恐竜に会えます。しかし、福井の魅力は他にもたくさんあります。例えば日本最大の中世の遺跡である一乗谷朝倉氏遺跡は、「日本のポンペイ」と言われています。朝倉氏は織田信長による焼き討ちで一夜のうちに滅ぼされたため、当時のままの姿で遺跡が残っているからです。一乗谷朝倉氏遺跡博物館には、たくさんの方々に訪れていただいています。地面の下にはまだ9割の遺跡が眠っているため、発掘が進めば大発見があるかもしれません。

穴場スポットとしておすすめしたいのは、三方五湖レインボーライン山頂公園です。そこから三方五湖と日本海を一望することができます。三方五湖はそれぞれ塩分濃度が異なるため、湖の水の色も異なります。湖の先には日本海が広がっており、夏は夕日が沈む景色を、冬は荒波が押し寄せる景色を見ることができます。それはまさしく絶景で、感動すること間違いなしです。

三方五湖と日本海を一望する三方五湖レインボーライン山頂公園

年縞博物館にもぜひ行っていただきたいです。年縞とは、長い年月の間に湖沼などに堆積した層が描く特徴的な縞模様の湖底堆積物のことで、1年に1層形成されます。水月湖には毎年平均0.7ミリずつ堆積した7万年分の年縞が綺麗に残っており、これほど長い期間の連続した縞が見られるのは世界で水月湖だけです。それぞれの層に含まれる花粉などを調べることで当時の気候や自然環境がわかるほか、遺跡で発掘される出土物などの年代を特定する世界標準の「ものさし」に採用されています。

北陸新幹線も昨年開業しましたので、ぜひ多くの皆さんに福井県を訪れていただきたいです。

 

杉本 達治(すぎもと・たつじ)
福井県知事