ホリタ 業界の常識に囚われず、文具を軸にした新たな体験価値を提供
約75年にわたって地域に密着して事業を展開する「ホリタ文具」。同店を運営するホリタは、2022年に新業態店舗「HORITA LIFE CANVAS」を開店し、文具を軸に新たな価値を生み出そうとしている。同社の今後の事業構想について、代表取締役の堀田敏史氏に話を聞いた。

堀田 敏史(株式会社ホリタ 代表取締役)
ネット通販の興隆を機に
BtoBからBtoCへ転換
1950年の創業以来、地域に密着して事業を展開し、福井県内で圧倒的知名度を誇る文具店「ホリタ文具」。同店を運営する株式会社ホリタは、現在福井県内で6店舗を展開しており、年間の総来店者数は福井県の人口とほぼ同じ約70万人に上る。
「1948年に福井地震が起き、福井県は大変な被害を受けたのですが、その中で生きていくために、祖母が商店街にあった自宅の1階で文具店を始めたのが当社の始まりです。文教地区で学校が近くにあったため、学校への納品を中心にしたBtoB事業が半世紀ほど売上の中心でした」と3代目社長の堀田敏史氏は語る。
同社の事業の転機が来たのは、2000年頃。アクスルなどの文具通販サービスの急速な台頭により、文具業界が大きな危機を迎えた時期だ。
「2000年頃は文具業界にとって最大の転機でした。価格競争に巻き込まれて、入札も非常に厳しくなり、外商を主とする町の文具店はいつ潰れてもおかしくない状況に陥りました。私は当時高校生だったので経営には関わっていませんでしたが、その頃から当社はBtoBからBtoCに軸足を徐々に移していきました。郊外のロードサイドで大型文具店を展開するという戦略を取り、2000年に現在の本社がある大願寺店をオープンしたのが、今生き残っている一番の大きな要因です。そこでチャレンジしなかったら、当社は多分潰れていましたね」
堀田氏は大学卒業後、東京の証券会社で営業として4年ほど働き、2008年に福井県に戻りホリタに入社。ホリタはその後店舗の出店を加速させ、2014年には約300坪という北陸最大の売場面積を誇る旗艦店・春江店をオープンした。2008年時点の同社の売上はBtoB事業が7割だったが、4号店を出店した2019年頃に逆転し、現在は約9割がBtoC事業だという。
新たな体験価値を提供する
新業態店舗「LIFE CANVAS」
「私は31歳で社長を継ぎましたが、入社当時の当社はPCが1台しかなく、伝票も全部手書きで、会社というより家業でした。証券会社時代のスピード感との落差が半端なく、このままでは存続できないと考え、作業のデジタル化や様々なマニュアル作りに力を入れました。また、多店舗展開して認知度を上げていかないと生き残れないという危機感からコンスタントに出店を続け、2022年4月には6店舗目として、新業態店舗『HORITA LIFE CANVAS』をオープンしました」
「HORITA LIFE CANVAS」の外観
「HORITA LIFE CANVAS」のコンセプトは、「自分をあらわす、出会い。」これまでの文具店の概念から脱却し、文具を軸にしつつ、人生に新たな価値を提唱できる店舗を目指している。文具の他に雑貨や食べ物を売るほか、毎週のように様々なイベントを開催。従来の文具の品揃えで勝負するのではなく、「モノ」だけではない「コト」や「トキ」を提供することにこだわる新業態として出店した。
「文具を目的として来店する方だけではなく、隣接した公園やカフェを利用する人が、ふらっと立ち寄り、新しいモノやコトに出会う。ということを想定しており、それが他の文具店との差別化になっています。それまでの5店舗は他の文具店の成功事例を参考にしてやってきましたが、LIFE CANVASは答えがないので模索しながらやっています」
オープンから3年が経った「HORITA LIFE CANVAS」は、戦略的な事業の見直しにより、2025年秋に店舗リニューアルを予定している。
「様々な価値のあり方を模索する中で、もう一度文具に軸足を移した売場に変えていきたいと考えています。そこを1つの転機とし、もう一つレベルの高いブランドへと変えていこうと今準備を進めています」
「HORITA LIFE CANVAS」の店内(左)。売場の中心にあるシンボルツリー「えんぴつの木」の内側には、短くなった鉛筆数万本を回収して供養している「えんぴつ神社」がある(右)
多様なチャネル展開を見据え
オリジナル商品開発に挑む
今後の同社の戦略としては、オリジナル商品やオリジナルコンテンツの開発が1つの大きな柱になると堀田氏は語る。
「今の当社のボトルネックは、オリジナルの商品やサービス、コンテンツが少ないため、他のチャネルに出て行きにくいことです。例えばECで売ろうとしても、ナショナルブランドの商品ばかりではAmazonに勝てないし、価格勝負になってしまう。そのため、やはりオリジナル商品をどう作るかが非常に重要になります。また、オリジナル商品が増えれば、わざわざ遠くから行く価値のある店になりますし、そこからBtoBに転換すれば、例えば企業のノベルティやお土産、ふるさと納税、県外のワークショップなど、様々な販売チャネルの模索ができます。福井はものづくり企業が多いので、地域企業とも組みながらオリジナル商品を開発していきたいですし、バックアップいただける文具メーカーとの独自性の強いコラボ企画も増やしていけるように今力を注いでいます」
また近年、ECサイトの運営会社はブランドストーリーを構築するため、逆にリアル店舗を持ちたがる傾向にある。ホリタでは、リアル店舗であることを強みに「HORITA LIFE CANVAS」を文具の聖地としてブランディングし、そのブランド力を他のチャネルでも活用することを構想しているという。
一方、堀田氏は福井に密着した文具店として、「自分たちのブランドや本業のレベルを上げ続け、日々お客様に喜んでいただくことで地域社会に貢献していきたい」とも語る。
「当社の事業は日々の暮らしに直結する商売なので、日々のわくわくをどれだけ積み上げられるかで、地域の幸福度が変わってくると考えています。年に1回のディズニーランドではなく、毎週うちの店舗に行くことを小さくても積み重ねていただくことが、福井の人の幸福につながる。そういう意味では、今私たちホリタがやれることの中で、いかにお客様や消費者が本当に求めている価値を生み出すかを考え抜くことが重要です。結局、自分たちの事業でお客様に徹底的に喜んでもらうことこそが、私たちにとっての福井への最大の貢献になると信じています」
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