jinjer第二創業 日本型組織力×グローバル経営の融合戦略 新CEO冨永健氏が描くHR Tech革新への道筋
クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjer株式会社が、2024年9月に投資ファンドのJ-STARとオーストラリアのポテンシア・キャピタル傘下に入り、新たな成長フェーズに突入した。2025年5月に就任した新CEO冨永健氏は、外資系IT企業で25年以上培った経営ノウハウと、日本企業特有の組織力を融合させる「第二創業」を掲げる。約2万社の導入実績を基盤に、AIを活用した次世代人事労務システムの開発と、HR SaaS市場でのトップポジション獲得を目指す同社の事業構想を聞いた。

グローバル経営との融合で第二創業へ
── 2024年9月の株主変更を経て「第二創業」を掲げられていますが、その戦略的意図についてお聞かせください。
jinjerは元々、大手人材系企業の一事業部門として立ち上がり、その後独立しました。新卒採用を中心とした組織文化で急成長を遂げ、先輩が後輩を面倒見る文化が根付いています。ただ、ここ数年の中途採用で、現在では新卒・中途が約半数の割合になっています。新卒中心の文化と、中途人材が作る新しい文化の融合で、これまで以上に社内が活気づいています。また、平均年齢も若く、組織のエネルギーと突破力は他社にない強みです。2024年9月にJ-STARとオーストラリアのポテンシア・キャピタルの傘下に入り、新たな経営体制での成長戦略が求められています。
私は1998年のシスコシステムズ入社以来、AWS、Zendeskと米国IT企業で23年間、グローバル経営を実践してきました。その過程で、米国企業の合理的な経営手法と、日本企業の緻密な組織運営、両者の強みを融合させる経営モデルの可能性を確信しました。
私たちが掲げる第二創業とは、jinjerが培ってきた組織の推進力を維持しながら、投資ファンドが求めるより透明性の高い経営と、グローバル標準の経営手法を融合させる挑戦です。これによって、次なる成長ステージへの飛躍を実現します。
統合型データベースが実現する人事革新
── 製品の競争優位性である「統合型データベース」の革新性と将来展望をお教えください。
日本企業発の人事系システムは、勤怠、給与、労務、タレントマネジメントが個別に運用され、データの不整合が常態化しています。従業員数が数百人規模になると、適切な人事戦略の立案が困難になります。
ジンジャーの強みは、全機能を単一データベースで管理する統合型システムです。これにより「過去2年間でB評価以上、MVP選出実績あり、東京在住、特定資格保有の女性管理職候補」といった複雑な条件での人材検索も速やかに実現できます。
今後はAIを活用し、人事労務業務をより質的に転換します。経営者の戦略的要請に対し、AIが評価履歴、スキル、家族状況まで考慮した最適な人材を提案。人事部門は定型業務から解放され、従業員エンゲージメント向上など、より人事部門が担うべき戦略的な業務に注力できるようになります。
HR SaaS市場でトップポジションへ
── 今後5-10年の市場戦略、特に業界再編が進む中での競争戦略についてお聞かせください。
HR SaaS市場は転換期を迎えています。創業期の競争から、規模の経済を活かした統合・再編のフェーズへ移行しつつあります。SaaSビジネスの特性上、顧客基盤の拡大が製品改良と投資余力を生み、さらなる成長を促進する好循環の構築が不可欠です。
ジンジャーは現在約2万社の導入実績を持ちますが、市場でトップ1-2のポジション確保が必須です。中小企業中心から中堅・大企業へと顧客層を拡大し、今後M&Aをする場合においてもプラットフォームとして、企業理念を守りながら成長を加速させます。
人事労務領域は各国固有の法制度や雇用慣行に深く根ざしており、グローバル製品の参入障壁が高い。日本市場を深く理解する我々には、明確な競争優位性があります。
組織力を活かした自律型経営へ
── 新卒・中途文化を掛け合わせた強みを活かしながら、どのような組織変革を進められますか。
着任3ヶ月で実感したのは、jinjerが持つ組織の一体感と実行力です。経営方針に対する組織全体の推進力は、他社では見られないレベルです。
一方で、各部門が自律的に戦略を立案・実行する能力の強化が課題です。「売上拡大」という目標も、営業なら新規開拓、マーケティングなら認知向上、カスタマーサクセスなら継続率向上と、部門ごとに最適解は異なります。
組織改革では、この推進力を維持しながら、戦略立案力を強化します。マネージャー研修の充実、外部人材の戦略的配置を進めますが、新卒・中途文化の融合が生む組織の結束力こそが最大の競争力であることを忘れてはいけません。
持続的成長を支える経営理念
── 経営者として大切にされている理念についてお聞かせください。
経営の基本は、従業員への安定的な雇用の確保と成長機会の提供です。強固な収益基盤を構築し、市場水準以上の処遇を実現することが、CEOとしての第一の責務です。
その上で、500名以上の従業員が各々の価値観に基づき自己実現できる環境を整備したい。キャリア志向、スキル向上、社会貢献、ワークライフバランス。多様な目標を持つ人材が、jinjerを舞台に成長できる組織を目指します。
第二創業の根底にあるのは、日本企業の強みとグローバル企業の知見を融合し、全てのステークホルダーが幸せになれる「良い会社」を創るという信念です。
- 冨永 健(とみなが・けん)氏
- jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO