ダンステック企業が目指す、デジタルによるダンスの「知財化」

世界最大級のダンスイベントの企画運営などを手掛けるアノマリーは、ダンステック企業としてさらなる飛躍を目指し、メタバースやWeb3.0を活用したダンスのデジタル化・グローバル化進め、ダンス市場の発展を目指している。代表取締役社長の神田勘太朗氏に構想を聞いた。

神田 勘太朗(アノマリー 代表取締役社長)

「ダンスが世界を変える」

ストリートダンスを中心とするイベント企画、映像制作などを手掛けるアノマリー。中でも2005年から開催する1on1形式のストリートダンスバトル「マイナビDANCEALIVE」は世界最大級の規模を誇る。

アノマリーが開催する、世界最大級のストリートダンスバトル「マイナビDANCEALIVE」 ©マイナビダンスアライブ

代表取締役社長の神田勘太朗氏がアノマリーを創業したのは2004年のこと。「幼い頃からダンスが好きで『世界一のダンサーになりたい』という夢をずっと持っていましたが、色々な壁を感じて、それは難しいなと。でも何とかしてダンスで世界一になれないかと考えたとき、『ダンスのビジネス構造を創っている人は世界を見回してもいない』と気づいたのです」と神田氏は振り返る。以来、イベント事業を皮切りに、映像制作やデザイン、メディア、キャスティング、若者向けマーケティング支援などへと事業領域を広げてきた。

「僕たちのビジョンは『ダンスが世界を変える』です。ダンスは体一つで始められるハードルの低さに加えて、非言語のアートであるため、世界中に届けることができます。世界中を熱狂させるメジャースポーツのように、世界中の人々が争いを忘れて熱中するようなエンタテインメントにダンスは必ずなると思っています」

モーションのデータ化・流通で
「ダンスの知財化」を目指す

起業から19年目を迎え、ダンスを取り巻く環境は大きく変化した。2012年から中学校体育でダンスが必修化され、小学校の学習指導要領にも組み込まれるようになった。また、プロダンスリーグ「D.LEAGUE」も立ち上がり、2024年のパリオリンピックには新種目「ブレイキン」が選ばれた。そして「TikTok」などのプラットフォームが登場したことで、世界中でダンス人口が爆発的に増加している。

こうした中で、アノマリーは現在を「第二創業期」として捉え、ダンステック企業としてさらなる飛躍を目指している。「ダンスはカルチャー・コミュニティとしては大きく成長していますが、まだ産業化されていません。そのためには絵画や音楽のように何らかの価値づけが必要で、特に重要なのが権利化です。例えば音楽ならば著作権印税がアーティストに入りますよね。僕たちはダンステック企業として、最先端のテクノロジーを活用し、ダンスのアナログな部分をデジタルに転換しながら、ダンサー自身の権利獲得と還元を進めていきます」

ダンスの知財化に向けた試みのひとつが、帝人フロンティアと連携した「MOTIONBANK PROJECT」だ。帝人フロンティアが有するモーションセンシング技術とアノマリーのダンスに関する知見を融合し、人のあらゆる動きを解析して、3Dモーションデータとしてストックする仕組みであり、2021年時点で既に14,000を超えるパターンのモーションデータをストックしており、それらの合成も可能だ。

帝人フロンティアと連携した「MOTIONBANK PROJECT」ではダンスのデータ化を推進

「実はこの事業に取り組み始めたのは2016年のことです。いずれ仮想現実空間が発展し、そこでユーザーが自身のアバターを成長させていくときに、ダンスモーションを購入する時代は必ず訪れると考えていました。メタバースやNFTが登場し、時代が僕たちの取り組みにようやく噛み合ってきたと感じます」。2022年2月にはAnimoca Brandsおよびサニーサイドアップと、ダンス領域におけるWeb 3.0とNFTの合弁会社Underparkを設立し、ダンスの知財化に向けて具体的な事業の検討を開始している。

さらに2022年5月には、NTTドコモと資本業務提携し、ドコモを引受先とする第三者割当増資4.5億円を実施した。アノマリーにとって創業19年目にして初めての第三者割当増資となる。今後両社は、ドコモのXR技術を活用しながら、メタバース空間(VR)とリアル空間(AR・MR)双方のダンスコミュニティ事業を推進していく。

「メタバース上でリアルタイムにダンスする際の最大の課題は通信です。例えば東京と九州のダンサーがメタバース上で同時に踊ることは通信遅延のため不可能です。ドコモは2030年頃の実用化を目標に6Gの研究開発を進めており、NTTもIOWN構想を掲げて膨大な情報のリアルタイム伝送を目指しています。組むならば最先端技術を持つ通信会社と決めていました」

熱量あるメタバースをつくるには

神田氏は「理想を言えば、現実空間でダンスが踊れない人も、メタバースならばダンサーとして生計を立てられるような世界を作りたい」と述べ、Web3.0やメタバースに大いに期待を寄せる一方で、「理想や概念が先行しすぎていて、社会に浸透するにはまだ時間がかかるでしょう」と冷静に指摘する。

「今作られているメタバースが本当に面白いか、つまり、そこに熱量が集まるかどうかというと少々疑問です。例えば、メタバース上で誰かと会ったり会議ができると言っても、実際に会って話したほうが楽しいし熱量は伝わる。メタバース内で仮想通貨が使えると言っても、普通の人はウォレットさえ持っていません。僕たちの現実をいきなりすべてWeb3.0に移行させる必要はありません。現実とメタバースをつなぐサービスや、Web3.0へ段階的に移行するためのWeb2.1やWeb2.2と呼ぶべきサービスが、もっと必要だと思います。そうしてメタバースを皆が意識できるレベルまで下げないと、熱量ではなく投機的な資金しか集まらないでしょう」

そのためには、まずは現実のイベントとメタバースをリンクさせて、ファンが相互の空間を楽しめる仕組みを作ることが大切だと神田氏は説く。

「イベントに行ったらメタバース上で承認欲求が満たされる何かがもらえる、あるいは現実空間で利用できる何かがメタバース上でもらえる、というのがわかりやすいと思います。ダンスで言えば、有名ダンサーのモーションやファッションなどが考えられます。まだ定めきれていませんが、メタバースと現実を相互補完するものを僕たちも生み出していきたい。僕はイベントプロデューサーとして現実空間で1万人以上の熱狂を生む場をつくってきましたし、そのノウハウがメタバースでもすごく大切だと感じています」

アノマリーは今後、Web3.0領域だけでなく、オフラインの事業もより強化していく方針だ。2030年までに世界各地での拠点整備を目指し、アメリカはもちろん、リズムが最初に生まれた地域とされるアフリカや、豊かなダンスカルチャーを持つインドなどに進出する予定だという。

「ダンスコミュニティ・ダンスカルチャー・ダンススポーツなど、ダンスにまつわるすべてのハブになる会社としてアノマリーを成長させたいですね。そして、現実やメタバースを問わず、世界をつなぐ1つの手段・産業にダンスがなってほしい。ダンスがあるから面白いと言える世界をつくるために、2030年に向けて走り続けます」