茨城県・大井川和彦知事 茨城の潜在力を最大限に引き出し、差別化を図る

総合計画で4つのチャレンジを掲げ、困難な政策課題に果敢に挑戦してきた大井川知事。製造業・農業の競争力強化や、地域資源を活かした観光地域づくり、新産業育成や人財育成などにより、大きな成果と着実な経済成長を生んできた。茨城県の現在と今後のビジョンについて、大井川知事に聞いた。

大井川 和彦(茨城県知事)

県外企業立地件数全国1位など
着実な経済成長を実現

――2025年度は、2022年に開始した「第2次茨城県総合計画」の最終年度です。この4年間の取組の成果はいかがですか。

知事就任以降、「新しい豊かさ」「新しい安心安全」「新しい人財育成」「新しい夢・希望」の4つを掲げてチャレンジし、多くの分野で確かな成果を上げることができました。

「新しい豊かさ」では、県外企業立地件数が8年連続で全国1位、観光消費額が3年連続で過去最高額を更新したほか、農林水産物のブランド化を進め、市場からも高い評価を獲得しています。こうした成果を背景に、2022年度の1人当たりの県民所得も3年連続で全国3位となるなど、本県経済は着実な成長を遂げています。

「新しい安心安全」では、県央・県北地域の医療提供体制の確保に向けて水戸保健医療圏における県立中央病院と県立こども病院の統合を含む病院再編の検討に着手するとともに、最重度の障害がある方が入所する障害者支援施設「あすなろの郷」の再編整備が完了しました。また、救急医療の逼迫緩和に向けた「選定療養費」の徴収開始や、栃木県内を含む21市町村との基本協定締結による水道事業の「経営の一体化」など、安心・安全な生活基盤の確保に向けても大きな一歩を踏み出しました。

「新しい人財育成」では、県立中高一貫教育校10校の設置に加え、つくばサイエンス高校や公立として全国初のIT専科高校であるIT未来高校の開校など、魅力ある学校づくりを推進しています。

「新しい夢・希望」では、戦略的なグローバル展開が奏功し、農産物輸出額はこの8年間で24倍へと急拡大し、過去最高額を更新しました。加えて、メディア掲載による広告換算額も8年間で4倍以上に増加するなど、その潜在能力の高さが改めて証明されたと考えています。

――次期総合計画ではどのような施策に注力しますか。

加速する人口減少や超高齢化に加え、厳しさを増す国際情勢や気候変動、大規模災害リスクなど、本県を取り巻く環境は予断を許さない状況です。この激動の時代を乗り越えるためには、本県経済の成長を加速させ、豊かで経済力のある社会を構築し、安心・安全な生活基盤を確保するとともに、多様な「人財」の活躍を促進することが重要です。これからの4年間も、引き続き「挑戦」「スピード感」「選択と集中」の3つの基本姿勢を貫くとともに、特に次の3点に注力していきます。

1つ目は、「他地域にはない特長をつくるための差別化」です。国内外から人や投資を惹きつけるには、本県の潜在能力を最大限に引き出す「差別化」が不可欠です。2025年にリニューアルした日本初の泊まれる体験型植物園「THE BOTANICAL RESORT 林音(ザ ボタニカルリゾート リンネ)」のように、常識にとらわれない発想で、本県ならではの魅力と価値を創出していきます。

日本初の泊まれる植物園「THE BOTANICAL RESORT 林音」(茨城県那珂市)

2つ目は、「将来の発展を見据えたインフラへの投資」です。東関道水戸線の全線開通や圏央道の4車線化を好機と捉え、さらなる成長基盤を整えていきます。特につくばエクスプレスの土浦延伸を推進し、その活力を、県北を含む常磐線沿線へと波及させるとともに、茨城空港の機能強化を図り、首都圏の発展を牽引する活力ある地域を目指します。

首都圏第3の空港を目指し、茨城空港の機能を強化

3つ目は、「多様な人財が活躍できる社会」の実現です。全ての礎は「人」であり、教育改革やリスキリング、ダイバーシティの推進に加え、深刻な人手不足を踏まえて優秀な外国人財の確保・育成に注力します。一方で、外国人などのルール違反への、厳格・包括的な対応に力を入れ、就労・生活環境の双方を充実させ、外国人財と共に成長する秩序ある共生社会を築いていきます。

インドのアミティ大学で開催した日本語講座の様子

これらの取組を通じ、誰もが能力と意欲に応じて輝ける「新しい茨城」の実現に全力を尽くしたいと思います。

製造業の新事業開発や
「儲かる農業」の実現を支援

――茨城県は電機・機械産業や鉄鋼、石油化学産業などの製造業が盛んです。製造業の競争力強化のための施策についてお聞かせください。

物価高騰や人口減少が進む中、中小企業が生き残っていくためには、生産性向上の取組に加え、企業自らが新たなビジネスの創出に挑戦することで、競争力を強化していく必要があります。このため、新製品や新技術の開発、デジタル技術等を活用した経営環境改善など、専門的知識や経験を有する各分野の専門家(エキスパート)を派遣し、中小企業・小規模企業の課題解決を支援しています。

また、県産業技術イノベーションセンターにおいて、新ビジネスの創出に意欲のある中小企業に対し、専門家の助言を通じた付加価値の高いビジネスプランの構築や、その実現に向けた支援を実施しているところです。加えて、今後も成長が見込まれる医療関連分野において、中小企業・小規模企業の進出を促進するため、医療関連事業者との連携強化や、展示会への出展を支援しています。

――茨城県の農業産出額は全国3位です。農業ではどのような施策に力を入れていますか。

本県農業の競争力強化のため、「儲かる農業」の実現を目指し、各種施策を展開してきました。2023年には、中長期的な課題や政策の方向性を示す「茨城農業の将来ビジョン」を策定し、収益性を高めるための構造改革を進めているところです。

特に、付加価値の向上のため、梨の「幻の恵水(けいすい)」や「常陸牛 煌(きらめき)」をはじめ県独自の高い品質基準を設けて差別化を図るとともに、米やメロンなどでコンテストを開催し、外観や食味に優れたプレミアム商品を創出するなど、県産農産物のブランド化に力を入れています。

茨城県オリジナル品種の梨「恵水」

また、生産性を向上するため、スマート技術の導入や農地の集積・集約化などを推進しているほか、夏季の高温などの気候変動についても、農林水産部内に専門部署を設置し、対策を強化しています。

さらに、人口減少により国内市場が減少していく中、本県農業が持続的に発展していくためには、海外市場の獲得が重要であることから、農産物の輸出拡大にも積極的に取り組んでいます。

茨城の強みと地域資源を活かした
観光地域づくりで差別化

――茨城県の観光産業の現状と、観光振興戦略についてお聞かせください。

本県は、東京圏近接のロケーションに、豊かな自然、歴史・文化・食などの多様な観光資源を有しています。コロナ禍で観光産業が影響を受けた中でも、本県の強みである「アウトドア」や「食」をテーマに他地域との差別化を図るとともに、JRグループと連携で実施した国内最大規模の観光キャンペーン「デスティネーションキャンペーン」(茨城DC、2022年秋~2024年秋)も活かし、観光コンテンツの造成と磨き上げ、話題性のあるプロモーションの展開を進めてきました。その結果、本県の2024年の観光消費額は前年比24.4%増の4,447億円と過去最高となったほか、外国人延べ宿泊者数についても前年比16.6%増の約27.8万人と、観光需要は急速に回復しました。

茨城デスティネーションキャンペーンでは、県内の宿泊施設で実際に働く若旦那たちが結成した昭和歌謡ユニット「いばらき若旦那」も活躍

2025年度は、茨城DCのレガシーを活かし、国営ひたち海浜公園のネモフィラやコキア等といった「花絶景」や笠間焼・結城紬をはじめとする「伝統的文化体験」など、本県ならではの観光コンテンツを「珠玉の企画」として商品造成・販売するとともに、人気アニメ「薬屋のひとりごと」とコラボしたプロモーションの展開など、本県観光イメージの形成及びブランディングの推進に取り組んでいます。

本県観光を持続的に発展させていくためには、新たなニーズやトレンドを的確に捉え、地域資源を活かした「稼げる観光地域づくり」を推進していくことが重要です。そのため、観光コンテンツの差別化や販売強化、外国人観光客の受入環境整備などを支援するとともに、中長期的取組として、本県観光イメージの向上に資する宿泊施設等を誘致して集客力を高め、観光消費の拡大を推進します。また、台湾や韓国などからのインバウンド需要の一層の取り込みに向け、茨城ならではのコンテンツを活用した誘客にも戦略的に取り組みます。

カーボンニュートラルへの取組と
成長産業・ベンチャー企業支援

――茨城県は近年、「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を推進されています。

臨海部にCO2を排出する産業が集積した本県においては、エネルギー構造の転換を図るため、大規模な投資を呼び込み、カーボンニュートラルと経済成長を共に実現していくことが重要です。このため、私が先頭に立って「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を立ち上げ、全国でも類を見ない200億円の基金を含むモデル構築から設備投資までの一貫した支援体制を整備してきました。最近では、戦略的パートナーシップ協定を締結した三菱ケミカルによるケミカルリサイクルプラントの建設など、新たな投資の動きも出ています。

今後も、本県の強みである茨城港・鹿島港という2つの重要港湾を最大限に活かしたクリーンエネルギー拠点の形成を目指し、関係者間の連携強化や民間主導による実行可能性調査への支援により企業の取組を後押しするとともに、クリーンエネルギーのサプライチェーン構築に向けた議論の加速化や需要の創出に取り組んでいきます。

――成長産業として育成に力を入れているのはどの領域ですか。また、起業家育成やベンチャー企業支援の取組についてお聞かせください。

宇宙分野では、関係省庁やJAXA等との連携、2024年に発足した共同受注体制「IBARAKIスペースサプライネットワーク」による受注拡大の取組強化など、県内企業の宇宙ビジネスへの参入促進や、宇宙ベンチャーの創出・誘致に取り組んでいるところです。

また、新産業の創出に向けてJ-PARCなど先進研究施設の産業利用を促進し、企業の製品・技術開発を支援していくほか、本県に準国産のカーボンフリー水素の製造・供給拠点を形成することで、GXに向けたさらなる民間投資を呼び込むため、高温ガス炉実証炉の県内への誘致に取り組んでいきます。加えて、次世代のエネルギーとして期待されるフュージョンエネルギーについて、イノベーション拠点化に向けて取組を進めていきます。このほか、創造性のある新産業を創出・育成するため、アニメやeスポーツなどのコンテンツ産業について、産官学が連携した特色ある教育の展開と働く場の確保等に取り組みます。

ベンチャー企業支援においては、大学や研究機関が集積している強みを活かし、研究成果の事業化に精通した専門家による伴走支援や、投資家とのマッチング機会などの提供を行っています。また、海外展開を目指し、米国の企業支援機関の協力を得ながら、必要な情報やスキルを習得し、海外投資家へプレゼンテーションを行うプログラムを実施しています。さらに、全国に先駆けてベンチャー企業に特化した事業者認定制度を設置し、認定事業者から、積極的な製品・サービスの調達を図るとともに、産業界とのマッチングを進めるなど、市場への普及拡大を後押ししています。

茨城県が宇宙ビジネスの展示会に出展した際の様子

生成AI利用ガイドラインを
いち早く策定し、AI利用に挑戦

――行政・産業のDXにおける取り組みについてお聞かせください。

人口減少が進展する中、限られた人員で多様化する県民ニーズに応えていくには、「業務の部分的な自動化」から「一連の業務の自律化」へと段階を進める必要があります。本県では、2023年5月にいち早く生成AI利用ガイドラインを策定し、セキュリティの高い環境下での生成AI活用を進めてきました。また、県独自の規定やマニュアルを学習させた生成AIシステムを導入することで、ベテラン職員の経験則に頼りがちだった業務においても判断のばらつきをなくし、業務水準の平準化と底上げができると考えています。さらに現在、「読む・考える・実行する」などの一連のプロセスを自律的に行い、業務を自動で完遂できる「AIエージェント」の実用化にも挑戦しています。

産業のDXにおいては、製造業等における自動化・省力化を後押しするため、県産業技術イノベーションセンターにおいてデジタル技術活用の伴走支援や、模擬スマート工場を活用した自動化システム導入支援などを行っています。

また、デジタル人材の確保・育成に向けては、「意識啓発・機運醸成」と「スキル習得支援」の2本柱で県内企業のリスキリング推進を支援しており、こうした取組が評価され、「日経リスキリングアワード2025」(日本経済新聞社)において公共団体部門最優秀賞を受賞しました。加えて、2026年4月に県立産業技術短期大学校を「情報テクノロジー大学校」として新たに開校するほか、2028年4月には、県内5箇所の産業技術専門学院を2箇所に再編し、デジタル時代に対応した技能者の育成を図っていきます。

県では今後も、これらの取組を通して、製造業等におけるDXの推進を後押ししていきます。

 

大井川 和彦(おおいがわ・かずひこ)
茨城県知事