ホットランド 多角化する事業で桐生市の地域活性にも寄与
たこ焼が焼かれる様子がガラス窓越しに見えるスタイルでおなじみの「築地銀だこ」。路面店のほか、ショッピングモール等のテナントとしてもよく見かける店だ。運営は群馬県桐生市発祥のホットランド。2015年に東証一部に上場し、2024年にはLAドジャースとパートナー契約を結ぶなど、その勢いは止まらない。
佐瀬 守男(ホットランド 代表取締役)
焼きそば店からのスタート
今では国内外に700店舗超
「築地銀だこ」第一号店は、1997年、現在の群馬県みどり市にあるスーパー内に誕生した。創業したのは、桐生市出身の佐瀬守男氏。現在、代表取締役としてホットランドを率いている。
「私の飲食業の原点は25歳で始めた焼きそば屋です。そのサブメニューとしてたこ焼に出会い、魅力に取りつかれて食べ歩き、勉強。失敗も重ね紆余曲折を経てたこ焼店を始めました。それ以降は焼きそばやアイスクリームはすべてやめ、たこ焼一本に絞ってお店を拡げてきました」
現在、ホットランドとその連結子会社で、「築地銀だこ」のほか、「銀だこハイボール酒場」などアルコールも提供する店舗、バーやカフェなど、直営とフランチャイズを含め国内に約630店舗、海外に約80店舗を展開。2014年に東京証券取引所マザーズに株式上場を、2015年には東京証券取引所市場第一部上場を果たしている。

日本全国に展開する「築地銀だこ」

銀だこハイボール酒場など、様々な飲食店を展開
事業の柱であるたこ焼について、佐瀬氏は「新しい食べ物ではなく、もともとあった、誰もが好きな食べ物。これをおいしくデフォルメしたことがよかったのかな、と思います。たこ焼はタコが命ですが、当時はタコの目利きが不十分だったこともあり、硬くて噛み切れないようなものもあったんです。それで築地でタコの仕入れを学び、鮮度が良く食感の良いタコに仕上げようと、そこに一番気を使いました。創業当時、関東にはたこ焼の専門店はなかったのでブルーオーシャンとも言えましたし、パフォーマンスにもこだわりました」と成功の背景を語った。
まん丸に焼き上げるには熟練の腕が必要
海外展開の強化を支えるべく
桐生市の工場に大型冷凍庫新設
2024年5月に締結した、ロサンゼルス・ドジャースとの複数年パートナーシップ契約も話題を呼んだ。ホットランドではすでに同年3月からドジャー・スタジアムでたこ焼を販売しており、1日2000舟販売する日もあるほど、売上は好調だったという。
3月の店舗オープンが決まったのは2024年の1月。開店まで2カ月もない慌ただしさの中で、佐瀬氏は「スタッフが目の前で焼いて売る」という築地銀だこのスタイルをそのまま持ち込むのは難しいと判断。そこで編み出したのが、日本国内で焼いたたこ焼を冷凍して空輸し、スタジアムの店で、フライヤーで揚げて販売するというやり方だった。
冷凍たこ焼は桐生市にある自社工場で製造する。工場であっても焼くのは、あくまでも人。人の手でたこ焼を焼くことにこだわるのは築地銀だこの矜持だ。約100人のスタッフがラインにずらりと並び、たこ焼を焼く工場の様子は圧巻である。「もちろんトレーニングは受けてもらっていますが、数をこなしていることもあって、皆さん本当に焼くのがうまい。まん丸に焼くのは結構難しいんですよ」と佐瀬氏。

桐生市の自社工場では輸出用たこ焼などを製造
ドジャー・スタジアムの築地銀だこは瞬く間に話題を集め、アメリカ中から引き合いが増加。スタジアムだけでなく、アメリカの日本食レストランやスーパーへの卸売りも始めた。昨今の円安で仕入れは厳しいが、輸出には追い風であり、これをチャンスと捉えていると佐瀬氏。アメリカを含む海外展開拡大に向け、桐生市の工場では現在、約100坪の冷凍倉庫を新設中だ。2025年5月に稼働開始すれば、6個入りが約25万パック冷凍保管可能となる。さらに、現工場だけでは生産が追い付かなくなることも見込み、桐生市では第2工場の計画もスタートしている。

海外展開にも注力。写真はインドネシアの店舗
水沼を鉄道とともに活性化
サウナとグルメを楽しむ新施設
日本国内においては、2023年9月に、桐生市黒保根町水沼にリゾート施設「SUMI TERRACE 森のヴィレッジ」を開業した。運営するのは連結子会社のホットランドネクステージだ。第1期目としてまずは全天候型BBQ施設とカフェテラスを稼働。2024年には2期目として、コテージやグランピング施設に宿泊できる滞在型サウナ施設をオープンし、リゾート全体を「サウナの森 水沼ヴィレッジ」と改称した。敷地全体の広さは約5万坪。1期目にBBQ施設とカフェテラスをオープンさせてからは、社員自身で森を整備しサウナやコテージをつくり始めたというから驚きだ。「大自然の中で、寒さや暑さも楽しむサウナです。季節を大自然と共有できるサウナであり、本場フィンランドのサウナの醍醐味が味わえると思います」と佐瀬氏は胸を張る。
現在は3期目。計画されているのが、ヴィレッジから渡良瀬川を渡った川向うにある、わたらせ渓谷鉄道水沼駅のリニューアルオープンだ。
「水沼駅には温泉施設があるのですが、休業しています。これを、桐生市とわたらせ渓谷鉄道と一緒になんとか再開させようと考えました。温泉は桐生市が管理、人気のトロッコ列車なども走らせているわたらせ渓谷鉄道にお客様を運んでもらい、私たちが駅を運営します」
「サウナの森 水沼ヴィレッジ」の現在の集客数は年間約5万人。水沼駅の温泉施設がオープンすれば高齢者もターゲットにできるため、目標を年間30万人に引き上げる。さらに水沼駅まで電車でアクセスでき、BBQや宿泊も可能なヴィレッジのコンテンツに水沼駅の温泉が加わることを踏まえ、将来は企業の研修施設としての活用も見込んでいる。
水沼駅リニューアルも含めて、一帯を整備している背景には、出身地である桐生市への思いがある。佐瀬氏は「特に山間エリアは人口が減っていて、過疎化と高齢化が進んでいます。駅、そして鉄道自体なくなってしまうのではないかという懸念も生まれていて、これをなんとかしたい。桐生全体で観光に力を入れていくために、水沼駅も含め全体感を持って進めていく」と語った。
わたらせ渓谷鉄道には美しい風景があり、魅力的な電車も走っているが、多くの地方鉄道と同じく赤字を抱えている。わたらせ渓谷鉄道が走っているのは、群馬県桐生市の桐生駅と栃木県日光市足尾町の間藤駅の間だ。
「国内外から多数の観光客が集まる東武鉄道日光線の終点、東武日光駅と間藤駅の間は約18km。これはまだ提案の段階ですが、両駅の間にトンネルが貫通すれば、毎年1千万人という日光の観光客を群馬県側に呼び込むことができます。特にインバウンドは1週間以上の連泊が多いので、水沼まで足を延ばしてもらえば、群馬県側にも美しい場所がたくさんある。私たちは勝手に赤城リゾートとエリア名をつけて呼んでいて、いつか、日光ともつなげてこのエリアを売っていきたいと考えています」

桐生市黒保根町水沼のリゾート施設「SUMI TERRACE森のヴィレッジ」。現在は3期目の準備を進める(上) 「森と水」 をテーマに、2024年に開業した「サウナの森 水沼ヴィレッジ」(左下) 四季折々の風景を眺めながらゆっくりと楽しむ「十割そば囲炉裏」(右下)
笑顔で囲むのが「たこ焼」
被災地にも寄り添い続けたい
ホットランド本社は現在、東京で登記しているが、2011年の東日本大震災後、本社を宮城県石巻市に移転させたことがある。震災直後にキッチンカーで駆け付け、被災者が待ち望んでいた温かい食べ物、たこ焼を提供した。ホットランドでは以前から「築地銀だこ全国横断 銀だこカーが行く!!」という活動で、災害の被災地や施設等にたこ焼を提供してきたが「東北で目にしたものがあまりにも悲惨でむごくて、これは一過性で炊き出しをやるだけではだめだ」と感じ、復興の兆しが見えるまで、最低1000日は現地にいようと考えた。
たこ焼は、家族や仲間と食べて温かい気持ちになるような食べ物だと佐瀬氏は言う。「家族や仲間と笑顔で食べるもの。そういう気持ちで私たちはやり続けてきました。その『ホット』が社名の由来なんです。私たちが必要とされるのは、少しでも誰かを温かい気持ちにさせたい場面。そう思って当たり前のように石巻に行きました」。
2025年1月、ドジャースの本拠地であるアメリカLAで、山火事が住宅地に延焼するという災害が発生。こういった災害時でも、店舗が無事で従業員の安全が確保できるならば店は開けたいというのが佐瀬氏の考えだ。
「店というものは、ただ売り買いをするだけの場所ではないと思うんです。災害などの非常時に、お店が開いているとホッとするじゃないですか。大変な時だからこそ営業するという考え方を大切にしています」
創業から34年、ホットランドは大きな企業に成長したが、「私は中小企業の感覚が抜けていなくて、かつ、それを持ち続けることが大事だと思っています」。理想は社長がスタッフ全員の顔や名前はもちろん、性格や悩みも分かっていることだが、今の企業規模で全員の悩みを聞くのはさすがに難しく、佐瀬氏は事業の数だけ会社をつくりたいと考えている。「そうすると、例えば社員が自分の故郷にある小さな会社で、本人が希望する限り働き続けることができる。大企業ではそうはいきませんから、今後は子会社化や分社化、エリア分けを進めたい」と佐瀬氏。そのためにも「若い社長をたくさん育成し、それぞれの会社で雇用された人たちが年をとっても働き続けられるような環境を創出していくことが必要だと思っています。水沼でリーダーになれる若手を育てていきたいですね」。
「サウナの森 水沼ヴィレッジ」と水沼駅のリニューアルについては「電車に乗れないくらいお客様があふれる。そんな鉄道を復活させたい」と抱負を語り、ほかにもお世話になっている日本の各地に恩返しできるような事業に取り組みたいと語る佐瀬氏の歩みはまだまだ止まることがなさそうだ。
- 佐瀬 守男(させ・もりお)
- ホットランド 代表取締役