ICT利活用教育の最新動向 普及のカギは技術よりも「人」

世界的にICTを活用した教育の重要性が認識され、アメリカ、北欧、アジアのデジタル先進国では導入が拡大している。では、日本の現状はどうなのか。ICTを活用した教育に詳しい早稲田大学大学院の三友仁志教授に話を聞いた。

生まれた時、あるいは物心ついたときから身の回りにデジタル機器があり、インターネットが当たり前の環境で育つ子どもたち――デジタルネイティブ。日本では、商用インターネットが普及し始めた1990年代半ば以降に生まれた子どもたちを指す。

デジタルネイティブが誕生して既に20年以上経つが、彼らに対する教育環境は、これまでほとんど変化してこなかった。教師は黒板にチョーク、子どもたちはノートに鉛筆と消しゴムという昔ながらの勉強のスタイルが、いまも多くの学校で受け継がれている。

果たして、このアナログの教育手法、環境が現代に適しているのかという疑問は、多くの人が抱くことだろう。世界的には、デジタル先進国のアメリカ、北欧、韓国、シンガポールなどで教育にICTを用いる「スマート教育」の導入が進む。日本でも2011年に「教育の情報化ビジョン」がまとめられ、全国の学校で実証研究が行われてきた。第二次安倍内閣の「世界最先端IT国家創造宣言」の中では『2010年代中にはすべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で教育環境のIT化を実現する』という目標が掲げられている。

電子黒板や教育用パソコン、タブレットを授業で活用し、生徒の意欲や理解を高めるICT利活用教育は、世界的な潮流だ

授業と校務の両輪でICT利活用を

では、日本の現状はどうなっているのか。ICT利活用教育に詳しい早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の三友仁志氏はまず、教育のICT化について、ふたつのアプローチがあると説明する。

「ひとつは授業のなかで、パソコンやタブレット、インタラクティブホワイトボード(電子黒板)といったデジタル機器、ネットワークを活用するもの。もうひとつは校務と呼ばれる授業以外の教員の業務、例えば成績の管理など事務作業のデジタル化です」

授業のICT化に比べると校務のデジタル化はほとんど注目されていないが、重要な課題になっているそうだ。

「日本の教員の勤務時間は、OECD諸国の中でもっとも長いほうなのですが、多くの時間が校務に使われているというデータがあります。もちろんPCを使う教員は多くなっていますが、まだまだアナログの煩雑な作業も多く、それに多くの時間を取られている。デジタル化によって、こういった校務の効率化を進めることが教育についやす時間増につながると考えられており、授業のICT化と校務のICT化は車の両輪の関係にあります」

三友 仁志(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授、デジタル・ソサエティ研究所長)

導入の障壁となる2つの課題

授業と校務のICT化、どちらも導入のネックになってきたのは財源だ。例えば、校務の管理は市町村単位になるが、規模の小さな自治体は、管理システムを自前で調達するのが難しい。さまざまな機器の導入に関しても、同様だ。

授業での活用にしても、PCやタブレットを生徒に購入させるパターンもあるが、費用を負担できない家庭が出ることを想定すると、やはり一斉導入は簡単ではない。ひとつの市町村のなかで、あるいはひとつの学校のなかで、経済力によって教育環境に差がつくことに対する懸念が大きかった。

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