群馬県長野原町 「デジタル×共創・協創×人間力」で情報格差を解消
住民の情報格差の解消と、地域のデジタル化推進に力を入れている群馬県長野原町。「長野原町公式アプリ」の普及に取り組むほか、新たな情報伝達手段の導入など計画している。さらに、NTTドコモグループとの連携を通じ、住民が安心して暮らせる町づくりを目指している。
萩原 睦男(長野原町 町長)
住民に情報を確実に届けるため
アプリ普及率100%を目指す
長野原町は、北軽井沢の別荘地を有する人口約5000人の小規模自治体だ。他の地方自治体同様、高齢化と過疎化が進むなか、住民の利便性向上や地域の持続可能性を模索する上で、デジタル技術の活用が不可欠となっている。
現在3期目を務める萩原睦男町長は、令和6年度の施政方針で8つの目標を掲げ、「情報格差の解消」と「デジタル化の推進」に取り組んでいる。その柱となるのが、同町の「長野原町公式アプリ」だ。このアプリは、町の世帯数を上回る約5700件のダウンロード数を記録し、人口を超える普及率を達成している。その要素の一つは、「利用者視点」に立った施策展開にある。

長野原町公式アプリの画面イメージ。町内のイベント情報や、災害・建設・生活情報のほか、地域の45の事業者からクーポンやコンテンツが配信されている
「単に『便利だから』と伝えるだけでは広まりません。住民にとって具体的なメリットやインセンティブがあることが重要で、それを意識したことが普及の鍵になりました」と萩原氏は語る。この取り組みは他の自治体の関心も集め、問い合わせが相次いでいるという。しかし、萩原氏は「自治体として本当に成功したと言えるのは、町民の100%がアプリをダウンロードし、情報が確実に行き届く状態になったとき」だと述べ、全ての住民が必要な情報を確実に受け取ることができる環境の実現を目指すと強調する。
同アプリでは、行政から町内のイベント情報や、災害・建設・生活情報などを発信するだけでなく、地域の事業者からも住民の日常生活で利用できるコンテンツが配信されている。同町未来ビジョン推進課企画推進係の佐藤博史係長は、「アプリに掲載された情報を見た住民から電話で問い合わせをいただくなど、一定の効果を感じています。また、アプリでは現在、45もの地元の事業者にご参加いただき、クーポン配信や関連記事の投稿を行っています。地域の関係者と共に創り上げ育てられているからこそ、多くの住民の方に認知・利用されるアプリになっており、長野原町の規模を考えると、これは大きな成果だと思います」と語る。

長野原町 未来ビジョン推進課
企画推進係 係長 佐藤 博史氏
デジタルとアナログの融合で
地域のつながりを強化
情報格差解消の重要性が判明した出来事としては、2024年に長野原町で発生した漏水事故による断水が挙げられる。同町は防災無線やアプリで情報発信を行ったが、住民から「情報が届かない」という声が多く寄せられた。
「防災無線は自宅にいるときでなければ聞こえませんし、アプリも全ての住民がダウンロードしているわけではありません。情報は“伝える”のではなく、“伝わる”ことが重要だと改めて認識しました」と萩原氏は振り返る。
この課題に対応するため、新たな情報伝達手段として、同町はNTTドコモグループが販売する専用端末「ささえi コミュニティ®」の実証実験を計画している。端末は高齢者でも簡単に操作できる設計となっているため、スマートフォンを使えない高齢者にも情報を漏れなく届けることができる。しかし、デジタル技術を導入するだけでは、情報格差が完全に解消されるわけではない。
「情報を確実に届けるには、アプリや専用端末の活用だけでなく、人と人とのつながりが欠かせません。デジタルが人とデジタルをつなぐのではなく、そこにはアナログの力、つまり人間力が必要だと感じています」(萩原氏)
デジタル化を進める一方で、住民との信頼関係を築きながら、地域全体で情報を共有する仕組みを作ることが何よりも重要だという考え方だ。この方針のもと、長野原町では住民同士の交流やサポートの機会を増やす取り組みを進めている。例えば、スマホ教室を開催し、デジタルに不慣れな住民を支援する活動もその一つだ。
「10区の事務所に出向いて実施し、遠方まで来られない方の支援を行っています。必要に応じて自宅に訪問することもあり、住民に寄り添った支援を心がけています」
一方で、同町は民間企業との共創にも積極的に取り組んでいる。その一環として、NTTドコモグループと「ICTの活用による地域課題解決に向けた連携協定」を締結し、長野原町公式アプリを包括した独自のプラットフォームの提供を始めた。当初、萩原氏はデジタル技術を提供する企業に対して、「技術偏重の印象」を持っていたという。しかし、NTTドコモグループの掲げる「協創」という理念に触れ、その価値観に共鳴した。
「『デジタルによって人と人をつなぐ』という価値観を軸に実践を積み重ねている点が、私が重視する人間力と親和性があると確信したのです」(萩原氏)
今後の施策としては、同町の住民票や戸籍謄本などの証明書を全国のコンビニエンスストアにおいて1通10円で取得できる仕組みを導入する予定だ。現在、通常の取得費用は1通300円かかるが、290円の差額を考慮しても、人口規模や取得頻度を踏まえればメリットの方が大きい。住民にとっては廉価でどこでも取得できることがインセンティブとなる一方、自治体側にとっても工数削減につながる。役場の業務負担が軽減されることで、他の住民サービスへリソースを振り分けることが可能になる。長野原町が一貫しているのは常に「利用者視点」に立った施策を展開していることであり、これが行政の住民サービスを検討する柱となっている点が長野原町の強みだ。
役場内DXの成果を住民に還元
「生きる力を育む町」へ
同町の今後の計画としては、町役場内のDXも推進し、住民サービスのさらなる充実を図る予定だ。DXによる業務効率化によって、新たに発生する工数に対応しやすくすることはもちろん、「日本一働きたくなる役場」を実現し、最終的にはその成果を住民に還元することを目指している。萩原氏は「デジタルとアナログのバランスを取りながら、『生きる力を育む町』づくりを進めていきたい」と展望を語る。
こうした方針に基づき、現場ではさらなる広域連携を模索している。佐藤氏も「周辺自治体との広域連携や共同利用も検討したいと考えています。現状では、長野原町の事業者からの発信に限られていますが、より広範囲の事業者や自治体と連携し、より多くの住民に情報が届く仕組みを作っていきたいです」と力強く語った。
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