将来も繁栄する地域づくりの基盤 決済デジタル化の利点を広める

キャッシュレス化により、訪日客の消費拡大、データ活用による施策立案など、自治体・企業に新たな成長機会が生まれた。一方で、制度整備や人材不足など課題も多い。「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」(主催:事業構想大学院大学)の議論から、進むべき方向性を探る。

左から、福田好郎 一般社団法人キャッシュレス推進協議会 事務局長・常務理事、関孝則 事業構想大学院大学 特任教授、若目田光生 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト、渡辺壮一 ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 政策渉外部長、片山さつき 元国務大臣(地方創生・規制改革・女性活躍)・参議院決算委員長・自民党金融調査会長・税制調査会副会長・参議院議員、上田恵陶奈 ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 政府渉外部 ディレクター、飯田修章 観光庁 国際観光課 課長、谷本龍哉 事業構想大学院大学 事業構想研究所 客員教授、北村慎也 株式会社QUICKデータソリューション事業本部 データ分析G・ナレッジコンテンツ本部 シニアマネジャー
※肩書は研究会当時

キャッシュレス普及を
地域経済活性化につなげる

2024年度の「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」では、キャッシュレス決済データの活用による訪日外国人旅行者の消費拡大や、データの共有で生まれるエコシステム、産業・行政におけるデータ利用の課題などについて議論した。事業構想大学院大学 特任教授の関孝則氏は、昨年度の研究会を振り返り、「利便性を体感できる顧客体験によりキャッシュレスが普及し、そこから得られるデータをもとに顧客体験を改善することで消費行動を促せるようになってきています」と話した。自治体のデータや外部データ、域内企業のデータを統合、分析するためのダッシュボードの活用も進んでいる。これは、精度の高い意思決定や施策効果の最大化につながる。

これを地域経済の活性化につなげることが目標になるが、「地域データの共有は、経済活性化と、より効率の良い地域経営を実現する」ことにも関氏は言及した。同時に、社会で共有すべきデータと、企業が囲い込むべきデータの「協調」と「競争」領域を分けてデータが活用できる基盤整備は必要になる。また、個人情報を匿名化した上で特定の目的のために活用できる分野を整理し、ホワイトリスト化などの制度整備の重要性も強調した。

関氏は、「日本のキャッシュレス化は世界に遅れを取っているが、経験や体験を経済価値として提供し、ビジネスを行う経験経済に移行することで世界をリードできる可能性がある。そのためには、経験経済化をリードする主体が必要だ」と述べた。

データ利活用の拡大には
そのメリットの説明が重要

続いて、元国務大臣(地方創生・規制改革・女性活躍)で自民党参議院議員の片山さつき氏が特別講演を実施した。米国では第2次トランプ政権誕生後、データセンターへの投資を拡大している。社会のデジタル化を推進することによって、場所を問わず最先端の治療や手術が受けられるようになったり、自動車の完全自動運転の実現などの未来像を米国では国民に提示しているという。

片山さつき 元国務大臣(地方創生・規制改革・女性活躍)・参議院決算委員長・自民党金融調査会長・税制調査会副会長・参議院議員

翻って、日本のデジタル庁では、協調領域にあたるエリアデータ連携基盤の⾃治体間・広域での共同利⽤が進まない。その原因として片山氏は「メリットの説明ができていないことに加え、データ連携に従事する人の不足というボトルネックがある」と指摘した。

日本でも、クレジットカードやスマホアプリなどで納税できるようになっている。クレジットカード支払いの場合、手数料が高いことや支払いまでの期間が長いことが課題になっており、片山氏はその改善の必要性を説いた。また、キャッシュレス決済手段としての暗号資産への期待も話した。暗号資産口座を持つ人の数は増えている。例えば、フリマアプリ「メルカリ」では、ビットコイン決済口座数が300万に達している。

一方で片山氏は、キャッシュレス決済の普及が地域での取引の増加や大幅なコスト削減につながっていない、という懸念も口にした。「米国は、端末同士でやり取りするピア・トゥ・ピアのデジタル決済を可能にしてコストを下げ、デジタル通貨の世界での覇権を握ろうとしています」と、日本としても戦略的に決済のデジタル化を進めていく必要性を語っている。

観光のキャッシュレス化は必須
地方誘客とリピーターの確保を

続いて、観光庁国際観光課課長の飯田修章氏が「インバウンドの拡大に向けて」をテーマに講演。2024年の訪日者数は3687万人、消費額は8.1兆円といずれも過去最高となった。しかし、訪日外国人旅行者の宿泊先の約7割は3大都市圏に集中している。「コロナ前よりも3大都市圏に集中している傾向にあるため、地方誘客の取組が重要」と飯田氏は指摘する。

地方への誘客促進については受入体制の整備の必要性を強調した。クレジットカード決済を導入すると消費単価が向上する傾向があることや、訪日客へのアンケートでクレジットカードが使えない点への不満が多いことを挙げ「地方の店でキャッシュレス化対応を進めていくことが重要」だという。また、リピーターは回数を重ねるにつれ地方を訪れ、コト消費にお金を使う傾向があることをふまえ「地域の宝を磨き、満足してもらい、リピーターになってもらう好循環を作れるよう後押ししたい」と述べた。

講演後のディスカッションでは、キャッシュレス決済を拡大する方策が話し合われた。一般社団法人キャッシュレス推進協議会事務局長の福田好郎氏が「キャッシュレス化はあくまでも手段。キャッシュレス化をすることによって何がしたいのかを明確にしたうえで推進すべき」と語った。QUICKデータソリューション事業本部データ分析G兼ナレッジコンテンツ本部シニアマネジャーの北村慎也氏は、「キャッシュレスの効果を見るには複数のデータソースをマッシュアップした合成指標を作り出すなど新しい経済指標を創出することがポイント」と話した。

また、日本総合研究所創発戦略センター シニアスペシャリストの若目田光生氏は何をいくらで買ったかがわかる明細データ活用の価値について触れた。個人情報保護法の改正の議論では、個人の権利利益の侵害がないことを条件に、統計やAI開発のためのデータ連携を本人同意なくとも可能とする方針が打ち出されている。これについて若目田氏は「より精緻な分析が可能になる」と評価した。片山氏は「テクノロジーの進化に合わせて規制や社会制度も変えていかなければならない。それがキャッシュレス推進のドライビングフォースになると思うので応援したい」と議論を締めくくった。

同研究会では、2025年度も引き続き「キャッシュレス」「データ利活用」による地域活性化をテーマに、研究会、成果報告会を実施する予定だ。

2025年度第1回の「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」は2月に東京・南青山の事業構想大学院大学で開催された