福島発イノベーションを強力サポート!特許庁は支援チーム、消防庁は災害支援ロボ開発で連携

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月30日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

福島の復興は、東日本大震災以前のなりわいを再建していくだけにとどまらない。目指すのは、未来に向けて、これからの日本経済の推進役として期待される産業を、福島の地から興していくこと。「福島イノベーション・コースト構想」の下、大手企業、スタートアップ、研究機関などの数々がこの「実証の聖地」に集い、自らのアイデアの種を実らせようと奮闘を続けている。

国も省庁の垣根を越えて、これを強力にサポートしている。

被災地派遣経験者の有志が結集

特許庁は2025年7月、被災地企業の知的財産戦略をサポートしようと、「福島復興支援チーム」を発足させた。

2011年3月の震災発生直後から、特許庁は多くの職員を被災地の自治体に派遣し、原子力発電所事故に伴う住民の避難や帰還促進など様々な業務を支援してきた。被災地が徐々に日常を取り戻し、産業復興支援の比重が大きくなる中、2023年夏、被災地に派遣された経験を持つ職員が動き出した。「福島協創チーム」を結成、有志的に活動を開始したのだ。

その後、2024年1月には特許庁は、福島県、福島イノベーション・コースト構想推進機構との間で「知的財産の保護及び活用に関する連携協定」を締結。庁内における福島復興の位置づけを明確化し、庁内各部署や関係機関との情報共有の強化を図ろうと、福島協創チームは福島復興支援チームに衣替えした。

福島協創チームでチーム長を務め、福島復興支援チームでも活動を続ける大谷純さんは、浪江町で支援活動に従事した経験を持っている。

「福島派遣経験のある人間は、戻って来ても自分が関わった自治体がどうなっているか少なからず気になっています。できれば、自分たちの本務である知財の分野で貢献したいという気持ちが、この活動に結びついています」

特許庁「福島復興支援チーム」の活動について語る師田晃彦さん(左)、佐々木洋さん(中央)、大谷純さん(右)の3人
特許庁「福島復興支援チーム」の活動について語る師田晃彦さん(左)、佐々木洋さん(中央)、大谷純さん(右)の3人

知財戦略の策定をサポート

活動の柱は二つ。一つは被災地域の企業を個別に訪問し、それぞれの実情に応じてサポートすること。もう一つは、最先端の研究開発と産業化の中核拠点を目指す「福島国際研究教育機構」(F-REI)への支援だ。

「復興に向けて産業団地の整備が進み、企業立地も着実に進展しています。一方で、実際に事業を継続的に展開していくためには、研究開発の段階から知的財産を適切に整理・管理していくことが重要です。F-REIで開発される技術についても、社会実装を見据え、実情に即した知財戦略を段階的に構築していく必要があります」

現チーム長の佐々木洋さんは、こう語る。

現在、福島復興支援チームは、特許審査官9人と商標審査官補1人のメンバーで活動しており、このうちの9人は被災地への派遣を経験している。

被災地域の名前を商標に

福島復興支援チームは発足以降、現地企業9社を訪問したほか、オンラインなどでの対応も含め計11社に対して個別支援を行ってきた。震災以降の継続的な活動の中で、地元の思いに応え、実を結んだ例もある。

楢葉町の波倉地区は津波と原発事故の影響で、人口が流出。「このままでは『波倉』という名前が人々の記憶から消えてしまう」と、地元事業者が地元で栽培したさつまいもの焼酎づくりに乗り出した。その時、波倉の名前を冠した「波倉の風」という名前で商標を取りたいと相談を受けたのが、佐々木さんだった。

「この名前と同一または類似の商標が登録されていないことを確認し、支援機関と連携して申請の手伝いをしました。『波倉』の名前を残した形で商標を取れたことで、商品を通じて地名が語り継がれることになります。地元出身者や避難先にいる人々にとっては故郷とのつながりを感じるきっかけとなり、地域外の人々にはその土地の存在を知ってもらう入り口になると思います」

「IPランドスケープ」の活用も

大谷さんが関わったケースにも印象に残るものがあるという。

福島ロボットテストフィールドを拠点にしているスタートアップから、自社のロボットの市場展開について相談を受けた。その時、紹介したのが、知的財産情報を分析してその結果を経営戦略の策定や企業の意思決定に活用する「IPランドスケープ」という手法だった。特許庁は「経営戦略に資するIPランドスケープ実践ガイドブック」を公開し、工業所有権情報・研修館(INPIT)も「IPランドスケープ支援事業」を実施している。

「IPランドスケープ支援事業を利用いただいた結果、そのスタートアップは『4足歩行ロボット』の市場動向の理解を深め、より狙い目の市場として『2足歩行ロボット』に思い切って舵を切る決断をしたといいます」

特許庁は知財戦略の面から福島をサポートしている
特許庁は知財戦略の面から福島をサポートしている

「福島発で日本全体の底上げを」

チームの活動と被災地域の未来について、佐々木さんは「技術とブランドで稼ぐ企業が、たくさん誕生してほしい。活動を継続していくことで、点と点が面になって、この地域が本当に稼ぐ地域になってほしい」と語る。大谷さんも「まずは少数でも本当に強い企業をつくり出したい。他の企業もそれに連なっていくことで復興が加速する」と話す。

福島復興支援チームを統括する審査業務部長の師田晃彦さんは、こう強調する。

「すばらしい技術やブランド力、デザイン力を持っていても知財戦略が無いために利益を上げられない企業は全国に山ほどあります。福島は『課題先進地』と言われますが、福島でしっかりとした知財戦略を持った企業が成長する実例を作れば、福島にならって他の地域でも知財戦略をしっかり作ろうという動きが出てくると思います。福島発で日本全体の「稼ぐ力」が底上げされることを、我々は期待しています」

消防庁と経済産業省は、世界有数のロボット・ドローン開発実証拠点である「福島ロボットテストフィールド(RTF)」(福島県南相馬市、浪江町)などを活用し、現場のニーズを踏まえた災害ロボット開発を連携して進めている。消防庁技術戦略室長の千葉周平さんと経済産業省ロボット政策室長の石曽根智昭さんに、連携の狙いや今後の展望について語り合ってもらった。

変化の時期を迎える消防の現場

石曽根 復興への取り組みは、具体的な形にしていくフェーズに入ったと思っています。「福島ロボットテストフィールド(RTF)」は、復興の一つの象徴として、様々なロボット技術が世界各国から集まり、実証試験が行われ、そこで鍛えられたロボットがどんどん現場に投入されていく。そんな姿を描いています。ただ、被災者や救助にあたる消防隊員の皆さんが「本当にロボットがいて助かった」と実感していただけるまでには至ってないと思います。まずは、災害の現状、消防を取り巻く環境について教えてください。

千葉 消防を取り巻く環境は今、大きな変化の時期を迎えています。南海トラフ地震や首都直下地震の逼迫(ひっぱく)性が警告され、風水害も激甚化する中、少子高齢化が進み、在住外国人も増えている。いかに社会の様々な変化に対応し、国民の生命、財産を守っていくかという課題が顕在化してきました。そのための体制づくりを進めてきましたが、技術の面からも、こうした課題に対応していく必要があるということで、今年度、消防技術の戦略ビジョンを策定しようと、有識者会議で議論しているところです。

消防隊員がなかなか行けない、高所や地下空間などでロボットやドローン、AIを使って活動範囲を拡大し、対処能力を高め、同時に隊員の安全も守れる体制をつくっていきたいと考えています。

千葉周平(ちば・しゅうへい) 消防庁総務課技術戦略室長・消防研究センター研究企画部長。2004年、消防庁入庁。消防学校(福岡市)卒業後、消防現場における実務に従事した後、消防行政全般に幅広く携わる。2025年より現職
千葉周平(ちば・しゅうへい) 消防庁総務課技術戦略室長・消防研究センター研究企画部長。2004年、消防庁入庁。消防学校(福岡市)卒業後、消防現場における実務に従事した後、消防行政全般に幅広く携わる。2025年より現職

最先端技術の「見える化」が重要

石曽根 高齢者が増えていく中で自主避難できない方をどのように救助するのかという課題がある一方で、人口減少の中で隊員確保が難しいという課題もある。二つの課題を両立させるための技術が、ロボットを含め大事になってくると思います。現場でのロボット・ドローンの活用方法として、どのような事が想定されているのでしょうか。

千葉 消火というところに関しては、今、地上走行型の放水ロボットの配備を進めています。また、ドローンを使った消火にも取り組もうとしています。救助現場には更にニーズがあります。現場の状況、要救助者の有無を確認する。あるいは要救助者や必要な資機材を安全に搬送し、医療機関にバトンタッチしていく。こうしたフェーズでロボット・ドローンが活用できたらという声は多く聞きます。

石曽根 ロボットはまだまだ不完全な技術です。開発する側としては、その不完全さを一つひとつ克服していく必要があります。かつてはプログラミングしないとロボットは動きませんでしたが、今後はAIの活用により、現場の環境変化に対応して自ら学習して動いてくれるロボットの開発が可能になります。フィジカルAIとロボットを組み合わせることで、環境の変化に対応できるロボットをどんどん現場に実装していかなくてはなりません。そのためには、最先端の技術を「見える化」し、消防用も含め様々な用途にカスタマイズして実戦投入していく流れをつくることが必要だと考えています。

私たちは2025年に「World Robot Summit(WRS)」を福島で開催しました。千葉室長にもご覧いただきましたが、何かお感じになったところはありますか。

World Robot Summit 2025 過酷環境F-REIチャレンジの様子(提供:F-REI)
World Robot Summit 2025 過酷環境F-REIチャレンジの様子(提供:F-REI)

千葉 期待感はすごく高まりました。ものすごいスピードでロボティクス技術が発展していることを実感しました。消防の現場の人間は正直、こうした技術的な動きは知りません。現場の活動と最先端技術の動向をマッチングさせる、連携させていくことが、すごく重要だと感じました。ロボットが入ることで「現場での活動がこんなに変わるのか」と隊員自身が実感したり、開発しているみなさんにとっても現場の声がヒントになったりと、お互いに気づきを得られるのではないかと思いました。

石曽根 私たちがWRSに期待しているのは、まさにそこです。ロボットの世界はAIと一緒になって非常に早い進化を遂げています。最新のテクノロジーを「見える化」していかないと、救助の現場でどのように活用できるのか、そのポテンシャルが顕在化しません。経済産業省では来年度、災害現場向けロボットの基礎技術を含め、技術を「見える化」するための「懸賞金事業」など施策を用意しています。

石曽根智昭(いしぞね・ともあき) 経済産業省製造産業局産業機械課ロボット政策室長。関東経済産業局入局後、製造産業局車両室課長補佐、いわき市産業振興部長、商務情報政策局産業保安グループ製品安全課長補佐などを歴任。2023年より現職。
石曽根智昭(いしぞね・ともあき) 経済産業省製造産業局産業機械課ロボット政策室長。関東経済産業局入局後、製造産業局車両室課長補佐、いわき市産業振興部長、商務情報政策局産業保安グループ製品安全課長補佐などを歴任。2023年より現職。

まずは訓練に投入し、フィードバックを

石曽根 最先端の技術と現場のニーズの「ハブ」として、経済産業省やF-REIが様々な最先端技術を集め、「見える化」する。そこに消防庁が抱いている現場の課題感をつきあわせて、対話していくことで、好循環が生まれると期待しています。ロボット開発において大事なことは、フィードバックです。現場からのいわばダメ出しがロボットの性能の向上にもつながっていきます。そうした好循環の中で、「かゆいところに手の届くロボット」が生まれるのではないでしょうか。

千葉 ロボットを現場に実践投入するとなった時に求められる水準は、「迅速性」「正確さ」「力強さと柔らかさ」といった、これまで人が行ってきたような、高いレベルのものになります。ただ、これを消防の現場の人間だけで閉じこもって議論しても、発想に限界があり、具体的な形にするのは難しい。完璧なものでなくても、訓練の中で実際にロボットを投入して、その中で修正するところがあれば、我々もそれをフィードバックし、さらに進化させていく。そうした具体的なコミュニケーションが必要だと思います。

人とロボットの協働訓練、RTFは最適の場

石曽根 面白い技術だと思っても、なかなか現場に入って行けない例はたくさんあります。実戦投入できるまで、その技術を育てていけるかが大きな課題です。

千葉 消防の現場に当てはめると、最終的には現場に持って行く「七つ道具」に加えなければいけないことになります。現在、車両に搭載している資機材とどう組み合わせていくのかなど、出動計画に組み込んでいくのが最終的な目標になります。技術そのものと同時に、どのように運用していくか、体制の面も併せて考えていく必要があります。

私たちは、消防大学校、消防研究センターで、日々消防技術の研究と同時に幹部教育を実施しています。こうした施設を活用して研究を進めながら、RTFのような本格的な大災害の現場を経験できるフィールドと連携して、実証試験を進めるのが理想だと感じます。

私自身、RTFには数回足を運びましたが、訓練するには最高の環境です。RTFに行けば、様々な場面を想定して訓練ができます。ロボットだけでなく、ロボットと一緒に隊員も訓練できる施設が整っています。RTFの活用の仕方についても、経済産業省やF-REIと連携していきたいと思います。

「ロボットやAIを活用し、消防の活動範囲を拡大し、対処能力を高めたい」(千葉さん)、「最先端技術を『見える化』するハブの役割を果たしたい」(石曽根さん)
「ロボットやAIを活用し、消防の活動範囲を拡大し、対処能力を高めたい」(千葉さん)、「最先端技術を『見える化』するハブの役割を果たしたい」(石曽根さん)

様々な段階で対処能力高める

石曽根 人の訓練の中にロボットが入ることで、初めて気づくこともあると思います。ぜひそうした仕掛けもつくっていけたらと思います。消防庁としてはロボット活用の理想の姿をどのように描いているのですか。

千葉 あらゆる段階でAIやロボットを活用できればと思っています。災害が起きる前段階である防火対策や施設の保安対策でも普段から活躍してほしい。災害などの発生時には、119番が掛かってくる段階、現場に出動し活動する段階、医療機関と連携する段階、そして現場検証や火災原因調査など事後の段階、それぞれAIから様々なアドバイスをもらい、ロボットの活用で対処能力を高めていければと思います。

それによって、我々の現場での活動を変えたり、防火対策や保安対策など社会の安全に関する様々な対策にもフィードバックされたり、というイメージを抱いています。

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