循環型社会へのスタートラインに立つ!CMPが目指す経済、社会の変革とは

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月24日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ウラノス・エコシステムが主導するデータの共有・連携は、欧州の厳しい環境規制などグローバルな規制動向に対応するという受け身の役割だけでなく、持続可能な社会を目指してサーキュラー・エコノミーを構築していくという積極的な動きを促している。

世界の動向に備え、日本の情報を守り、現状の課題を解決する。そして、将来の日本をつくる──。「ウラノス・エコシステム挑戦プロジェクト」に選ばれた「製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム」(CMP)の取り組みも、日本の経済、社会をアップデートする可能性を秘めている。

壮大な「伝言ゲーム」に終止符を

「これまで、あらゆる産業で壮大な伝言ゲームを延々と続けてきたのです」──。CMPコンソーシアム代表幹事の古田清人さんは工業製品の化学物質管理について、こう語る。

有害な化学物質や廃棄物の環境や人体への影響を取り除こうと、工業製品に含まれる化学物質の規制は、年を追うごとに強化されている。欧州のRoHS指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)、REACH規則(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals (REACH) Regulation)などを先駆けに、世界中で工業製品に関する環境規則は高度化している。

「日本の製品を輸出するにあたって、こうした化学物質の規制をきちっと守る必要があり、しかも、こうした規制は毎年2回程度アップデートされ、増えていく傾向にあります」と古田さんは解説する。

CMPコンソーシアム代表幹事の古田清人さん。長年キヤノンでデータ連携に取り組んできた。キヤノン サステナビリティ本部理事顧問も務める
CMPコンソーシアム代表幹事の古田清人さん。長年キヤノンでデータ連携に取り組んできた。キヤノン サステナビリティ本部理事顧問も務める

2025年10月、コンソーシアムが発足

これまでにも対策は講じてきた。国際基準に基づいたフォーマットをメールに添付し、OEMメーカーは部品メーカーに自社が購入する部品に規制物質が入っていないかを問い合わせる。すると、部品メーカーは材料メーカーへ。材料メーカーは化学メーカーへ。更に商社も加わり、「壮大な伝言ゲーム」が展開される。

かつては、複数のフォーマットが乱立していたことから、「chemSHERPA」という統一フォーマットが2014年に誕生した。ただ、「伝言ゲーム」が続くことには変わりなく、しかも年2回規制がアップデートされるたびに、再調査が必要となる。多くの企業に納品している素材メーカーや部品メーカーは相変わらず、各社からの問い合わせに一つひとつ対応していかざるを得ない。さらに「chemSHERPA」は電機業界の統一フォーマットで、自動車業界は別のフォーマットで、「伝言ゲーム」をしている状況だった。

「『chemSHERPA』をつくってはみたものの、やはり効率が悪い。電機と自動車が両立する形にする必要もあるということで議論を進めました」

こうした状況を乗り越えるべく2025年10月、CMPを本格的に推進しようとCMPコンソーシアムが発足。現在、電機、自動車業界の川上から川下までの各メーカー、商社など約570社が参画している。

各社をブロックチェーンでつなぐ

では、CMPで化学物質管理はどう変わるのか。

化学メーカー、素材メーカーなど川上のメーカーから、最終的に製品化する川下のメーカーまで、サプライチェーンを構成する各企業を、CMPでは暗号資産にも使われている「ブロックチェーン」でつなぐ。これは、ネットワーク上の取引履歴を正確に記録できるデータベース技術だ。これにより、法改正や新たな規制強化による影響について、より早く把握できるようになる。

最初に部品について情報開示を依頼すると、その時点でブロックチェーンで接続されるため、以後はデータが自動的にアップデートされる。これにより、繰り返し再調査を依頼したり、回答したりする手間を省くことができる。

「OEMメーカーからすると調べ直しが必要なくなり、正確なデータが早く手に入る。川中のメーカーからすると、聞かれて、聞いての繰り返しだったのが、工数を大幅に削減できる。川上のメーカーからすると、あちこちの企業から調査依頼が来ていたものを、ワンストップで情報提供できるようになる」

古田さんはCMP導入のメリットをこう語る。

CMPの概念図
※画像クリックで拡大

「総論賛成、各論反対」乗り越えられるか

CMPの実装に向けては、費用を抑え、効率よく進めていく観点から、「ウラノス・エコシステム」の仕様に沿って進めている。すでにシステム開発は完了しており、2026年2月現在、有志約40社が参加して、データが正しく伝わるかなど総合テストを実施している段階だ。3月末からは参加企業を約400社に広げ、実際のデータを実際のサプライチェーンで動かす大規模実証試験に入り、9月からの利用が開始される予定だ。

ただ、課題もある。

「『総論賛成、各論反対』はどうしても出てきます。サプライチェーン全体がCMPでつながれば大きな効果を発揮しますが、『とりあえずわが社はchemSHERPAで』という企業が出てくれば、『CMPもchemSHERPAも』となり、担当者の仕事が増えてしまう。更に大規模なシステムなので、一定程度の利用料金もかかる。先行導入については各社葛藤はあると思います」

リサイクル材の使用促進にも期待

課題もある中、CMPをなぜ推進するのか。それは、本格的な循環型社会に構造転換していくための一つのスタートラインと位置づけているためだ。

製品の原材料として使用されている様々な鉱物資源は、今後数十年単位で枯渇する恐れがあると言われている。しかも、全世界で年間6200万トンと言われる電機製品の廃棄物は、2037年には8200万トンに増えるとも言われる。これに対してリサイクル率は20%台にとどまっており、資源を再利用し、循環させる仕組みの構築は喫緊の課題だ。

資源に乏しい日本としては、資源循環に取り組まないかぎり未来の製造業は成り立たない。CMPは、廃棄された製品を再利用する際にも、その製品に含まれる化学物質の情報を正確に把握することができる。さらに、規制対象ではない物質も製品含有情報として伝達できるため、廃棄されるまでに規制物質が追加された場合にも、適切に対応することが可能となる。

これによって、「リサイクル材は何が入っているのか分からないので使えない」という状況を克服し、リサイクル材の使用促進が期待されるというわけだ。

古田さんは、「サーキュラー・エコノミーを本当に実現するためには、履歴管理をしていくためのデータの仕組みを整備していく必要があります。CMPはそのスタートラインなんです」と、経済・社会構造を転換していくための積極的な意義を強調する。

CMPを活用した情報連携のイメージ
※画像クリックで拡大

東南アジアなど海外展開も視野に

CMPコンソーシアムは、今後をどのように展望しているのか。古田さんは「まずはCMPをスタートさせたい」とした上で、「日本企業のサプライチェーンは国内だけでなく、すでに海外に広がっています」と述べ、海外展開の重要性を指摘する。

「先進国については同様の仕組みが構築されると考えられるので、そことデータ連携をしていく必要があります。重要なのは新興国です。例えば我々のサプライチェーンとして大きな位置を占めている東南アジアにCMPをシステムとして展開し、お互いやり取りできるようにする。ぐずぐずしていては、欧米のシステムが進出し、日本がそれに合わせなくてはならなくなってしまいます」

「これはある意味陣取り合戦でもあり、スピードが求められると思います」

古田さんは最後にこう強調した。

「CMPはサーキュラー・エコノミーを実現するためのスタートライン」と語る古田さん
「CMPはサーキュラー・エコノミーを実現するためのスタートライン」と語る古田さん

元記事へのリンクはこちら

METI Journal オンライン
METI Journal オンライン