福井県坂井市の産業団地GX 行政主導で企業連携を進める脱炭素の実践
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年4月6日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

行政・企業・金融機関が連携することで、個社の努力を超えた“面の脱炭素”が動きはじめています。本シリーズ「産業団地からはじめるGX」では、その現場で生まれる変化や挑戦の声を追いかけ、産業団地GXが地域の未来をどう形づくっていくのかを探ります。
今回は福井県坂井市。広大な産業団地「テクノポート福井」を中心に進む、市のGXの歩みを追いました。坂井市は、2030年にCO2排出量を半減、2050年に「実質ゼロ」をめざすことを宣言し、ロードマップも整備。2025年度には環境省の「重点対策加速化事業」に採択されるなど、市全体で脱炭素に向けた動きが加速しています。
今回は、その中心にあるテクノポート福井での取組について、坂井市生活環境部環境推進課の北川課長、渡邉主事にお話を伺いました。
1|なぜテクノポート福井からはじめたのか?
テクノポート福井は、近畿・中部エリア最大級の産業団地です。2022年の坂井市の温室効果ガスの47%は産業部門であり、とりわけここテクノポート福井は、坂井市のCO2排出量の多くを占める“エネルギー大消費地”でもあります。北川課長は、市の脱炭素目標を達成する上でハードルになるこの点を弱みではなく「チャンス」と捉えていました。
「排出が多いということは、エネルギーの使い方を変えれば、そのインパクトも大きくなるということです。産業構造やエネルギーの転換につながる可能性がある場所だと感じています」
CO2排出量が集中しているのは、エネルギー需要が集中しているということでもあります。つまり、テクノポート福井の脱炭素の動きは、坂井市全体の脱炭素を加速化させる。だからこそ、ここが変われば地域全体に与える影響も大きい。坂井市は、最も影響の大きい場所からGXに踏み出しました。

2|知識ゼロからのスタート。でも、まず動く。
2-1 庁内:先導して実践し、信頼を積む
実は、担当者たちも最初からGXに詳しかったわけではありません。
前任から引き継いだ坂井市脱炭素ロードマップ(令和6年3月策定)はあっても、それをどう現場で動かすかは手探りでした。
「当初は専門知識もなく、どう進めれば良いかわからない状態でした」
そこから北川課長らは、まず外へ出て、会って、聞くところから始めます。
エネルギー会社、金融機関、市内企業──とにかく人に会い、話を聞き、地域の実情を知ることを積み重ねました。転機となったのは、中部地方環境事務所への出向から戻った福井銀行の岩堀さんとの出会い。岩堀さんは地方環境事務所での経験から坂井市に対して、地域に応じた脱炭素の方法があると地域の事例とともに説明しました。
「地域ならではの脱炭素の進め方があることを知り、各地の事例も参考にしながら、坂井市独自の脱炭素のイメージが少しずつ湧いてきました」
一方で、庁内をどう動かすかも大きな壁でした。庁内では市長をトップとする体制を整えましたが、環境やエネルギーと直接関わらない部署も多く、通常業務の中で優先順位が上がりづらい。部署ごとに温度差もあります。そこで北川課長、渡邉主事が重視したのは、お願いするより先に先導してやってみせることでした。
象徴的なのが、庁内のLED更新です。部署ごとに進めれば手間も増え、通常業務の中で止まりやすい。だから自らが調整を担い、段取りを整え、実践して前へ進めました。
そして、電気料金の削減による財政効果やCO2排出量の削減効果について、“感覚”ではなくデータで見える化し、丁寧に共有しました。理解が進まない理由を「関心がないから」と片づけず、理解できる形に落とし込むことを繰り返す。そうした積み重ねが庁内の信頼につながり、最近では他の部署から前向きな相談や提案が出るなど、主体的な動きが生まれ始めています。

2-2 企業:包括連携協定の締結
テクノポート福井のGXを進めるうえで、企業の巻き込みは避けて通れません。ただ、企業にとって脱炭素・GXは「重要」でも「すぐ動ける」とは限らないテーマです。市として手当できる予算がない段階ではなおさら、協力の仕方が見えにくい。坂井市の働きかけも、最初から順調だったわけではありません。
そこで坂井市では、脱炭素に取り組む自治体を支援する環境省の交付金事業「重点対策加速化事業」への採択を目指し、福井銀行をはじめ地元の支援機関と共に向けて動き出しました。
同時に、重点対策加速化事業の採択がまだ見えていない段階から、テクノポート福井に立地する企業など市内企業へのアプローチを行いました。「坂井市が採択されたらGXを目指しませんか」と声をかけたとき、返ってきたのは“慎重な反応”でした。
「採択も取れていない中で、どう協力したらいいのか?GXの重要性は理解できるが……」
企業が慎重になるのも当然です。企業には企業の判断があり、協力には納得できる理由が必要です。市として「地域でGXを回していける体制」をどうつくるのか。協定を結ぶことが企業にとって何につながるのか。そこを言葉にできる状態まで、内部の準備を積み上げていきます。
そして、庁内の検討が進んだ段階で、あらためて事業者に説明を重ねました。伝えたのは、「採択が取れたら一緒に」ではなく、採択前から地域として動ける形を整えたい、という意思でした。
「坂井市では基盤ができつつある。地域でGXを行える体制を整えたい。
そのために、連携協定を検討してほしい」
対話を重ねた結果、2025年2月に締結したゼロカーボンシティの実現に向けた包括連携協定の枠組みに入ったのは市内でエネルギー使用量の多い特定事業所であり、約半数がテクノポート福井に立地する企業となりました。そしてその後の重点対策加速化事業の採択へとつながっていきます。
興味深いのは、採択の“後”だけでなく、採択の“前”から変化が起きていたことです。協定締結と庁内検討が進む中で、企業側から要望や状況確認が寄せられるようになり、行政が一方的に説明するだけの関係から、少しずつ双方向のやりとりに変わっていきました。庁内で変化が生まれたのと同様に、外部でも、理解が進むほどに関わり方が前向きになっていったのです。
3|企業を「本気」にするのは、行政の努力から
包括連携協定で「一緒にやる」枠組みはできました。でも、枠組みができただけでGXが進むわけではありません。企業が実際に動くには、現場の不安や疑問が解け、次の一歩が見えることが必要です。坂井市が重視したのは、まず、脱炭素・GXに向けて同じ方向を見ながら話ができる関係に入ってもらうことでした。ただ集まってもらうだけではなく、対話が続き、課題を言葉にして、次の行動につながる状態をつくる。そこから先は、行政の努力が問われます。
「どんな形であれ、まずテーブルについてもらうことが大事」
テーブルについた後、企業が「やらされ感」ではなく「やる意味」を持てるか。坂井市はそこを、行政が担うべき役割だと捉えていました。
「いかに内発的な動機付けができるか。企業を本気にさせるのが行政の努力すべきところ」
そのために行ってきたのが、ゼロカーボンさかいコンソーシアム事業です。
ゼロカーボンさかいコンソーシアムとは、重点対策加速化事業に選定された坂井市が、市内の脱炭素を強力に進めるため坂井市内の企業・団体を対象にした産業部門の脱炭素を強力に推進するために新たに立ち上げた枠組みです。立ち上げ初年度である2025年度は計10回のセミナーなどを開催しました。
この制度設計にも、坂井市の狙いがありました。ゼロカーボンさかいコンソーシアムでは座学とフィールドワークを組み合わせ、参加のハードルを高くしすぎない。役割を割り振って縛るのではなく、まずは相談と学びが自然に回る場として設計する。そうすることで、行政が企業に話を聞きに行きやすくなり、企業側も相談しやすくなる。接点が増えるほど、課題は具体になり、次の打ち手が見え始めます。
「コンソーシアムは解決の第一歩のための場。名簿があって役割を課すようなものではない。参加条件を高くしないことで、そこから企業との広がりができた」
企業を本気にするのは、補助金の存在だけでも、市の号令だけでもありません。対話が回り、相談の回路が増え、次の一歩が描ける。そんな状態をつくるための“地ならし”を、行政が丁寧に続けていく。坂井市の取り組みは、そこに重心が置かれていました。
4|これからの話──学ぶ場から、実践の場へ。
学びの場ができ、相談の場ができた今、次の段階は「実践」です。設備更新、運用改善、投資判断──実装フェーズには、より現実的なハードルが増えていきます。
「コンソーシアムを学ぶ場だけでなく、実践のフェーズに」
だからこそ、企業ニーズと市の施策をどう結びつけるかが重要になります。
また、時を同じく、坂井市とのゼロカーボンシティの実現に向けた包括連携協定を締結した企業が多く立地するテクノポート福井において、団地企業がGXについて情報共有を行うテクノポート福井企業協議会 GX推進委員会が令和7年春に発足しました。そこでの議論が活発になれば、企業側のニーズと行政側の支援が噛み合い、企業単位のGXだけではく、テクノポート福井全体でのGX。さらにその先には、まちづくりへ、テクノポート福井のGXが地域全体に波及する形も見えてくるはずです。
そして何より、企業側の主体性が積み上がっていく。坂井市が目指すのは、行政が前に立ち続けることではなく、企業が動ける状態が広がっていくことでした。
そのため、ゼロカーボンさかいコンソーシアム事業では、第一歩を市が先導して実践し、効果を丁寧に示し、理解を積み重ね、仲間を増やしていく。その地道な積み上げが、産業団地GXを動かす土台になっていました。
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- 近畿経済産業局 公式note