西川 創業460周年の新ビジョン発表、睡眠改善へ産官学医との共創を目指す

寝具メーカーの西川(東京都中央区)は2026年5月13日、「創業460周年ビジョン説明会」を開催し、新ビジョン「Beyond Sleep ~眠りのその先へ~」と500年企業へ向けた事業ロードマップを発表した。寝具の製造卸モデルから体験型製造小売(SPA)へ転換し、睡眠データを起点に社会課題の解決を目指すとともに、自動車シートや宇宙領域まで事業を拡張する構想を打ち出した。460周年を「第2の創業」と位置づけ、近江商人の心得「三方よし」と最新の睡眠科学・テクノロジーを融合させる方針だ。

代表取締役会長CEOの西川八一行氏は説明会で、変えてはならない理念として三方よしと品質・サービスへの責任を挙げる一方、商品や事業形態は時代に応じて変革していく姿勢を強調した。5年前に掲げた「予約でいっぱいになる店づくり」が奏功し、現在では1か月先まで予約が埋まる店舗も出ているという。今後はAIやセンシング技術を活用し、睡眠時のデータから食事・服装・香りまで提案する「Beyond Sleep」の世界観を通じて、労働生産性の向上や病気予兆発見による社会保障費の抑制など社会課題の解決に貢献する考えを示した。「デジタルでできることは徹底してデジタル化する一方、最後は一人ひとりの心情に寄り添うアナログを極めます」と両極の追求を訴えた。

2026年2月1日に同社社長に就任した竹内雅彦氏(写真)は、同社の中心目標として「不眠大国・日本を眠りから元気にする」を掲げた。日本はOECD加盟国中で睡眠時間が最も短く、不眠がメンタルヘルスの悪化や生産性の低下につながっている恐れがある。ここで休息の質を高めることは、個人の健康にとどまらず、生産性・子育て・介護・メンタル・企業経営・社会の活力に直結する国家的テーマだと位置づけた。

具体的な施策として、国内では、百貨店・専門店に設置した「ねむりの相談所」を中心とするコンサルティング型店舗を、5年以内に現在の約500店舗から1000店舗へ倍増させる。同時に、量販店内のミドルレンジ売場を1000か所の「西川コーナー」とし、合わせて全国2000拠点の睡眠相談ネットワークを展開する計画。コンビニ、ドラッグストア、家電量販店など、これまで踏み込んでこなかった新業態への進出も視野に入れる。並行して、日本での成功をもって世界へ挑戦するとし、年内に米国・台湾に現地法人を設立する計画も明らかにした。

技術面では、2025年の大阪・関西万博で発表したクッション型の自律神経計測センサーを応用し、利用者の体調に応じて食事メニュー・音楽・ファッションをレコメンドする体験設計を進めている。マットレス内蔵センサーで布団内の温度・湿度を自動調整する「究極のスマートマットレス」の開発も進む。睡眠技術の応用先としては、全日空(ANA)の国際線ファースト・ビジネスクラスシートやJR東日本の寝台列車「四季島」での採用実績を踏まえ、自動車のシートへの本格導入も推進する。ここでは、前夜の睡眠データから疲労・覚醒・集中度を予測し、居眠り予兆検知や自動運転との連動に活用する構想だ。さらに、極限環境での睡眠設計の知見を地上の高齢者ケアや災害時休息環境にも応用するべく、宇宙領域への挑戦も表明した。

店舗網の拡大により増大する西川製品の需要に応えるため、必要になる生地量は3000万メートル、詰め物の量は1万トンに上ると竹内氏は試算している。原料メーカーや加工先には、コスト削減のパートナーではなく未来の素材や機能を共同開発する「技術パートナー」としての関係深化を呼びかけた。創業の地である滋賀県には工場と物流を一体化した西日本の大型拠点を新設する計画も示した。マーケティング体制の強化に向けては、Googleなどでブランドマーケティングをリードしてきた秋山有子氏をCMO(執行役員)に迎えた。

竹内氏は説明会の締めくくりで、事業会社、官公庁、大学・研究機関や医療機関などに対し、西川の睡眠データプラットフォームを共同研究や実証実験の場として活用するよう呼びかけた。「医療・行政・研究機関が連携した睡眠のエコシステムを日本発で世界標準まで育てたい」と述べ、健康経営・介護・ホテル・住宅・スポーツ・教育・モビリティ分野での協業をパートナーと進めていく考えだ。

西川は1566年(永禄9年)、初代仁右衛門が近江国(現在の滋賀県)で蚊帳や生活用品の行商を始めたことに起源を持つ老舗企業。1887年からふとんの販売を開始し、日本の寝具文化を牽引してきた。近年は睡眠不足による経済損失や健康課題の深刻化を背景に、睡眠研究と寝具開発の知見を活かした製品、スマホアプリ等を提供している。