Symbiobeと出光興産が挑むバイオものづくり。スタートアップ×大企業で社会を変える!
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年1月29日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
スタートアップ企業の成長は、生み出した製品・サービスが市場の中で浸透していけるかどうか、新しい市場を創出できるかどうかにかかっている。特に重要なのが、知名度も実績も無い初期段階で、いかにスムーズに製品・サービスを市場に送り出し、会社を確実に成長軌道に乗せることができるかだ。
そこでカギを握るのが政府や地方自治体による公共調達の拡大、大企業による積極的な調達・購買を通じた「共創パートナーシップ」の構築だ。
スタートアップの成長をいかに促し、その力をイノベーションや新しい市場の創出につなげていくのか――。光合成細菌を用いて「空気の資源化」を目指す京都大学発のスタートアップ「Symbiobe(シンビオーブ)」の社長の伊藤宏次さん、出光興産戦略企画室新規事業推進グループ担当マネジャーの中尾仁亮さん、経済産業省イノベーション創出新事業推進課課長補佐の花房健太郎さんの3人が語り合った。
裾野は拡大、「高さ」が課題
――まずは、政府のスタートアップ政策支援の取り組み状況、今後の方向性や考え方について教えてください。
花房 2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出しました。2027年までにスタートアップへの投資額を10兆円に伸ばし、将来的にはユニコーン※100社、スタートアップ10万社を目指すという目標を掲げ、丸3年がたちました。現在、折り返しの時期にあたるという状況です。
結果として、スタートアップの数は2021年と比べて2025年には1万社増えて1.5倍に、大学発スタートアップの数も5000社強に増えています。一方で国内のユニコーン数は2021年に6社だったものが現在8社。裾野の拡大はできているが、「高さ」のあるスタートアップが育っていないのが課題です。5か年計画の後半戦は、裾野の拡大は継続しつつ、いかにユニコーン級のスタートアップを育成できるかに注力していきたいと考えています。
※ユニコーン…評価額が10億ドルを超え、設立10年未満の非上場企業を指す。
「共創パートナーシップ」で成長のエコシステムづくり
花房 スタートアップは顧客基盤、製品・サービスの提供基盤、販売実績、信用力などが大企業に比べると不十分なため、特に設備投資などで大型の資金が必要となる事業化に向けた最終フェーズで、実績がないために事業会社と連携が図れなかったり、金融機関からの支援が受けられなかったりといった課題があります。海外では政府が主導してイノベーション調達※に取り組む事例もあります。また、米国ではGAFAMがスタートアップの巨大オフテイカーとなっています。政府や企業が需要を主導する形でスタートアップを支援するエコシステムの形成が5か年計画後半に向けての課題です。
政府調達については、新規中小企業者との契約比率3%を目標に掲げており、特に高市政権が17の戦略重点分野に注力した形で、政府主導の初期需要創出を促進する施策を強化していく方針です。地方自治体の調達についても同様の方針で、政府として公共調達を促進するためのガイドラインを示しています。
大企業などの事業会社とスタートアップの連携促進は極めて重要です。潜在的な顧客である大企業などによるスタートアップの製品・サービスの調達を促進し、結果として「共創パートナーシップ」の構築を後押しする施策を打ち出していきたいと考えています。大企業などと、その課題解決に資する製品やサービスを有するスタートアップのマッチングを促す事業や、マッチングした大企業などとスタートアップの製品検証に係る共同研究開発をサポートする事業を進めています。さらにその先、市場を創出し、オフテイク契約などの本格調達に繋げていくことを目指し、製品化に向けた最終実証段階における大企業などによるスタートアップの製品・サービスの調達を促進する仕組みも打ち出したいと考えています。
※イノベーション調達…国や地方自治体などの公共機関や民間企業が、革新的な技術や製品・サービスの「最初の買い手」となることで、イノベーションやスタートアップの成長を促すこと。
※オフテイク契約…供給者と購入者の間で、供給者が提供する予定の商品・サービスの全部または一部を購入または販売するための長期供給契約のこと。
微生物の力で廃ガス、廃液から肥料・飼料を生産
――Symbiobeと出光興産は戦略パートナーシップを締結し、協業をすすめているとうかがいました。どのような事業に取り組んでいるのですか。
伊藤 Symbiobeは微生物の力を使って未利用資源を資源に変えていくことに挑戦しています。身近にある未利用資源を融通し合い、資源として循環させていくことで、資源を地産地消していける。そんな提案をしていきたいと思っています。国の安全保障にも関わる必要な技術だと考え、開発を進めています。
出光興産とは、「バイオものづくり※」という技術を使って、未利用資源を資源化する取り組みを進めています。具体的には、山口県山陽小野田市にある出光興産の子会社「西部石油」の敷地内に、実証のためのベンチプラントを設け、廃ガス、廃液といった未利用資源を材料に、光合成細菌を使って肥料・飼料をつくり、地域の生産者に使っていただくという実証試験を進めています。これまでラボでやってきたことを、初めてラボから外に出て、事業化に向けて取り組んでいるところです。
中尾 出光興産の立場からすると、現状、化石燃料に依存した事業ポートフォリオになっている中、2022年に策定した中期計画で事業ポートフォリオを変えていこうという中で、バイオものづくりを一つのテーマとして、化石燃料に頼らないものづくりの新規事業に取り組んでいます。その中で、未利用資源の有効活用というテーマが社内から上がり、その流れからSymbiobeと一緒に取り組むことになったというのが経緯になります。
元々、出光興産は海中の藻類を使ってバイオ燃料をつくる研究開発もしています。ただ、私の所属するイノベーションセンター技術戦略部は化石燃料以外の高機能材に関する新規事業創出を担当していることから、バイオモノづくりを活用した第1次産業向けの肥料・飼料の開発を進めているところです。
※バイオものづくり…生物由来の素材を用いてものづくりを行うこと、さらには微生物などの生物の能力を活用して有用化合物などを作り出すこと。
「ブランド力」×「技術+スピード感+柔軟性」
――二つの会社がタッグを組む意義はどんなところにあるのでしょうか。
伊藤 私たちにとっては第一に出光興産の圧倒的なブランド力です。消費者に対してもすさまじい認知度の高さですし、B to B企業としても大きなシェアを持っておられる。
我々のような無名の会社は、企業を訪問しても門前払いされたり、メールを送っても返信がなかったり、ピッチ※をしても響かなかったりと、様々難しいところがあります。ところが、出光興産とのパートナーシップを発表してからは、逆に企業からお声がかかるようになりました。ピッチをしても、出光興産と実証試験を進めていることを紹介すると、我々の本気度がより相手に伝わるように感じます。事業開発、資金調達、自治体との連携などあらゆる面で、出光興産のブランド力が我々にとってプラスに働いています。
中尾 大企業全体にいえることですが、研究開発の成果が思うように事業につながらない。これは出光興産も抱えている大きなジレンマです。こうした状況でスピーディーに事業転換を実現していくためには、スタートアップとの連携を積極的に進め、新規事業創出に取り組むことが欠かせないと考えています。
社内R&D※だけで新規事業のテーマ探索を完結させるのではなく、外部のパートナーと多様なテーマを同時並行で進めることで、新規事業の選択肢を広げることができます。特に、Symbiobeのような大学発スタートアップは一定の技術実証を終えており、そのスピード感や実証された技術を取り込むことで、事業化の不確実性を下げることができると考えています。
大企業の研究開発は、どうしても時間がかかるテーマも多く、柔軟なピボット※が難しいのが実情です。一方でスタートアップは尖ったテーマに集中し、仮説検証のスピードも圧倒的に早い。この違いが、互いの弱点を補う関係につながると考えています。スタートアップとの連携は、探索の幅とスピードを補完し、結果として社内のR&Dの成果が事業につながる可能性も高められると考えています。
こうした外部との協働が、単に新規事業の創出に寄与するだけではなく、社内の文化やマインドセットにも新しい風を吹き込み、社員の意識や組織の動きが変わっていく――そこにも大きな価値があると感じています。
※ピッチ…ビジネスシーンでアイデアや製品、サービスの価値を短時間で簡潔に伝える短いプレゼンテーションのこと。
※R&D…Research and Developmentの略。「研究開発」のこと。
※ピボット…ビジネスの世界で「方向転換」や「路線変更」を意味する言葉。
ウインウインの関係どうつくる?意思疎通も課題
――逆に課題はどういったところにありますか。
伊藤 協業に至るまでの課題と協業に至ってからの課題は、質も大きさも違うと思います。私は協業に至ってからの課題が、どちらかというと大きいと感じています。例えば、中尾さんは新規事業部門の方なので、とても話が通じやすい。ただ、我々が出光興産と組む意味合いを考えると、事業部門や研究開発部門とつながりを持ち、そのリソースを活用させていただくことが重要になります。
新規事業部門の方に伝える時のフックとなる材料と、事業部門、研究開発部門の方々に乗り気になってもらうための材料は、たぶん違うのだろうと思います。事業部門や研究開発部門の方々に「一緒に動こうよ」と言ってもらえるよう我々も汗をかく必要があると思っており、今まさにそこを頑張っているところです。
中尾 プロジェクトの重要性について啓蒙(けいもう)しながら、社内で協力を得ていくことは結構難しいと感じています。協業に至る前の話に戻すと、ウインウインの関係をどのようにつくっていくかは、かなり議論をしました。単純にスタートアップを引っ張ってきて、「一緒にやりましょう」とやってもうまくいきません。それぞれが目指す姿を共有し、それぞれがもつ強み、それぞれがどこで収益を上げていくのか見据えながら、役割分担を決めていき、契約内容に落としていくことが重要であり、我々の取り組みでも苦労したところです。
マッチングの質、大企業側の姿勢にも課題
花房 スタートアップの経営者とお会いすると、「大企業とのマッチングの機会はあるが、本当にその企業の中の会いたい人に会えない」という声をよくうかがいます。マッチングイベントで、新規事業推進や研究開発部門の人と会い、技術を評価してもらっても、その方が会社に戻って事業部門と連携しようとすると、話が前に進まず終わってしまうと。このあたりがマッチングの取り組みの課題だと感じています。
伊藤 マッチングの難しさという点では、私もまったく同じ認識です。どの企業と会えるかが重要なのではなく、その企業の誰と会えるかが重要です。何度申し入れても会ってもらえない方もいますが、それでも紹介いただける機会を狙って、申し入れ続けるということも実際にしています。出光興産とのケースを振り返ると、お互いに「こうしたい」「ああしたい」というイメージがあり、お会いするたびに徐々に進化していきました。
企業によっては、我々から情報だけとって、我々にとってのインプットはあまりないところもあります。そうした企業とは協業には至らない。我々だけでは見えていない世界がある中で、我々もインプットがほしいわけです。その点、出光興産からのインプット量は相応にあったので、話が深まっていったのだと思います。
花房 研究開発段階のスタートアップは顧客基盤や製品・サービスの提供基盤、販売実績が不十分なため、大企業側からすると評価が難しい。そうした状況の中で、大企業としてスタートアップとの協業を進める上で、越えていかなければならないハードルはどのようなものでしょうか。
中尾 やはり、大企業側が自分たちのやりたいことを明確に持っていることがスタートだと思います。我々として「これがやりたい」という事業戦略を持ったうえで、「ミッシングピース」を埋められるスタートアップを見つける。そして、一緒にこういう取り組みをしたいというシナリオを持って提案に持って行けるかどうかだと思います。
初期段階から出口まで一貫支援を
――政府に対しては、どのような政策支援を期待しますか。
伊藤 スタートアップの企業の成長は、初期段階ではどれだけ売り上げを伸ばせるか、その後はどれだけ利益をだせるかにかかってきます。どれだけ補助金を取れるかというゲームになってはいけないと思います。
その意味では、ベンチャークライアントモデル※は早期需要の創出に非常に役立つと思います。最も簡易で早くできるオープンイノベーション手法だと思いますが、もっと難易度が高く時間もかかるCVC※もあり、その先にはM&Aもあります。ベンチャークライアントモデルで終わらず、スタートアップが利益を出し、企業価値を上げていけるよう一貫した支援があればいいと思います。
また、環境によくないものを、勇気を持って規制していくということも必要ではないでしょうか。例えば、オゾン層を破壊することからフロンガスを禁止したところ、オゾン層を傷つけないものがたくさん出てきました。規制を入れていくことで、新しいイノベーションを起こしていくことも、政府だからできる手法だと思います。
※ベンチャークライアントモデル…大手企業が直面する戦略的課題を解決するためスタートアップのソリューションを発掘、導入し、売上の増加や費用の削減など経済的効果を実現する手法。
※CVC…Corporate Venture Capitalの略称。事業会社が自己資金でファンドを設立し、自社の事業と関連性のあるスタートアップなどに出資や支援を行う活動。
イノベーションマネジメントの浸透促進を
中尾 第1次産業を相手にしているので、農業者、漁業者、陸上養殖をやっている人たちと一緒に何かできるような補助金があるといいということは、一つあります。
もう一つはイノベーションマネジメント※という考え方が、まだまだ日本の大企業の中では十分に認知されていません。この概念がもっと広く理解されれば、スタートアップとどう向き合うべきか、新規事業をどう生み出していくべきかといった“共通の土台”が企業内に育っていくので、やりやすくなると思っています。現在は、多くの企業でイノベーション活動が「新規事業部門だけの特殊な仕事」のように扱われがちですが、本来はあらゆる部門が関わるべき全社的な活動です。企業全体にイノベーションマネジメントの考え方を広げていくような政策があれば、組織としてイノベーションや新規事業を起こしやすくなると思うのでありがたいです。その結果として、スタートアップとの協業もより建設的なものになり、日本全体の新規事業の成功確率が高まるのではと考えています。
※イノベーションマネジメント…不確実性を伴う価値創出を組織的に実現するためのマネジメント手法(ISO56000シリーズで定義)のこと。
「出光のアセットを最大限に活用して成長していきたい」
――今後の展望をお聞かせください。
伊藤 まずは、山陽小野田市で進めている今のプロジェクトを成功させ、横展開していきたい。瀬戸内で成功すれば、違う工業地帯に移していくことも可能で、海外展開にもつながっていきます。スケールの大きな展開は一定のアセットやパワーを持っていないと実現できません。国内外で強力なネットワークを持っている出光興産のアセットを最大限に活用させてもらって成長していきたいと思っています。
また、バイオものづくりを事業化するには、おそらく1社だけではなく様々な企業群との連携で作り上げる必要があるかもしれません。出光興産はバイオものづくりに関して、感度が高くバイオものづくり技術の社会実装に必要な他の技術や材料を統合し事業をつくり上げていくことができる企業だと思います。出光興産と協業する意義はそこにもあると思っています。
中尾 昨年末に竣工式を行ったベンチプラントをしっかり立ち上げ、そこでできたバイオマスをSymbiobeと一緒に売っていく。それがSymbiobeの成長につながり、我々が次のフェースに進むためのカギにもなります。
中長期的にはより大きなプラントを建設して、量産化、黒字化へつなげていかないと、「結局実証試験だけで終わった」と言われかねません。そして、Symbiobeと成功事例をつくることで、今後、他の新規事業も含めて出光興産はスタートアップと組んで社会に価値提供をしているという「タグ付け」を社内外にしていきたい。
我々は、皆様の生活を支えていくことを目的とした事業体であり、石油代替という課題もあります。「スタートアップと一緒に社会にインパクトを与えていく」というメッセージの第1弾として、Symbiobeとのプロジェクトを必ず成功させたいと思っています。
花房 本日ご参加頂いた両社には、先行的に共創パートナーシップの取り組みを進めていただいており、非常に期待しています。是非、このままステップアップしていってほしいし、新たな支援が必要だという時はご意見を頂ければと思います。我々としても、今ある支援のラインアップが全てだとは思っていません。実際に事業を担われている皆様のご意見をうかがいながら、更に良いものになるよう、引き続き、必要な政策を打ち出していきたいと考えています。
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