土浦市×田中鉄工 「脱炭素×環境教育」で持続可能な水郷のまちへ
ゼロカーボンシティを推進する土浦市と、バイオマス燃料活用によるCO2削減やエネルギーの地産地消に取り組む田中鉄工。両者は事業構想大と連携し、脱炭素と教育を結びつけたまちづくりに取り組んでいる。土浦市の安藤真理子市長と田中鉄工の村田満和CEOが、目指す地域の未来について語った。

土浦市、田中鉄工、事業構想大学院大学は土浦市域のゼロカーボンシティに向けた産官学連携協定を2025年に締結し、プロジェクト研究を発足
共創の現場から見えた
地方創生の可能性
——2025年6月から2026年3月にかけて、事業構想大学院大学と連携して「ZERO-CARBON TSUCHIURA 事業構想プロジェクト研究」を実施されています。同研究会に参画された背景をお聞かせください。
安藤 土浦市は2020年に「ゼロカーボンシティ宣言」を行い、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指す方針を掲げています。これまでも家庭から出る廃食油の活用や生ごみ処理などの環境施策に取り組んできましたが、その成果が市民に十分伝わっているとは言えない面もありました。また、従来の延長線上の施策だけでは限界がある中で、地域特性を活かした新たな取り組みが必要だとも考えていました。そうした中で、民間企業の知見や構想力を取り入れ、実効性のある事業に落とし込んでいくための議論の場として、プロジェクト研究に大きな意義を感じました。
安藤 真理子(土浦市長)
村田 当社はアスファルト合材を製造するプラントメーカーとして、道路舗装業界におけるカーボンニュートラルの実現を目指しています。カーボンニュートラルを経営戦略の起点に据え、バイオマス燃料の活用による二酸化炭素排出量の削減や、エネルギーの地産地消に取り組んできました。その一環として自治体ごとの排出構造を調べる中で、土浦市は人口規模に比してアスファルトプラントの集積度が高く、メーカーとして正面から向き合うべき地域だと感じました。
村田 満和(田中鉄工株式会社 代表取締役CEO)
加えて、「土浦エコパートナー協定」に44社が参加していることや、廃食油回収を長年続けている点にも可能性を感じました。こうした背景から、単なる資金提供ではなく、行政と民間が共に考え、実装まで見据える官民共創のモデルをつくりたいと、プロジェクト研究に参画しました。
——プロジェクト研究に対する期待や、成果の捉え方についてお聞かせください。
安藤 行政だけで進めるのではなく、民間事業者の感覚や視点、市民の参加を得ながら、ゼロカーボンシティを目指す動きを、市全体に広げていくことが重要だと考えています。そうしたプロセスを通じて、プロジェクト研究から生まれた事業が起点となり、市民の意識や行動へとつながっていくことを期待しています。また、全国で脱炭素の取り組みが進む中で、土浦市ならではのまちづくりにつながる事業が生まれ、次世代を担う子どもたちに、より良い環境を引き継いでいきたいという思いがあります。
成果については、本市の実情に合っているか、実現性があるかという2点を重視しています。費用面や持続性も含め、民間企業と行政が連携し、協力し合うことが不可欠だと感じています。
村田 単に事業構想を描くだけでなく、次の段階として社会実装につなげていくことが重要だと考えています。本プロジェクト研究では、地産地消や教育、DXといった切り口から様々な事業構想が生まれていますが、その中から土浦市の戦略に合ったテーマを選び、2026年度以降に具体的な形にしていく。そのプロセスに関われることに大きな意義を感じています。
私が注目しているのは、土浦の名産であるれんこんです。れんこんは食材としておいしいだけでなく、葉や加工後に残る部分まで含めて、資源として活かせる可能性を秘めています。こうした地域資源について、「ゼロカーボンという視点からどう生かせるのか」を皆で考えていくことは、非常に示唆に富んだテーマだと思います。ただし、当社だけで完結できる話ではありません。コストや供給、技術面の課題もありますし、多様な知見を持つ人たちの参加が不可欠です。だからこそ、行政と民間、そして研究の視点が交わるこのプロジェクト研究に可能性を感じています。
地域特性を生かした
ゼロカーボン実装への挑戦
——地方創生とゼロカーボンを同時に進めていく上で、現場ではどのような動きが生まれていますか。
村田 民間企業同士の共創がどこまで進んでいるのかは、まだ見えにくい部分もあります。ただ、他地域の事例を見ると、行政が意図的に共創の場を設けることで、企業同士の連携が進み、新たな技術開発につながっているケースがあります。私たち自身も、他企業と連携しながら、二酸化炭素を吸収する技術を農業や道路資材に生かす研究を進めています。これはアスファルトプラントから排出される二酸化炭素を吸収し、新たな素材や道路の原材料として活用できないかを探る取り組みです。こうした挑戦は、単独の企業では進めにくいからこそ、行政が関わる共創の場の存在が重要だと感じています。
安藤 それぞれの得意分野を持つ事業者が情報を共有することで、これまで当たり前だと思っていた取り組みが、別の分野では新しい価値として受け取られることがあります。そこに、このプロジェクトの面白さがあると感じています。共通の課題に向き合う仲間として知恵を出し合うことで、次の展開が見えてくるはずです。
村田 例えば、土浦のれんこんづくりは、土・水・生態系を活かす技術の蓄積により、資源循環やゼロカーボンの考え方にも通じています。こうした話は教育とも結びつけることができます。例えば、子どもたちや社会人が資源循環やものづくりを、体験を通じて学ぶ場として活用することで、同じテーマでも立場や世代によって異なる視点が生まれます。その積み重ねが、次世代に何を残すべきかを考えるきっかけになる。教育とゼロカーボンは、非常に相性の良いテーマだと感じています。
安藤 田中鉄工さんの取り組みは、理念にとどまらず、具体的な事業として実装しようとしている点に大きな価値を感じています。特に、これまで廃棄されていたものや、妨げになると思われていたものに光を当て、地域の中で新たな価値として活かしていく。そうした視点は非常に斬新で、行政としても多くを学ばせていただいています。
――ゼロカーボンの取り組みは社会的価値が高い反面、経済的な価値を生みにくいという課題もあります。
村田 私たちは、ゼロカーボンをコストではなく成長の機会と捉え、事業として利益を生み出し続けることを前提に取り組んでいます。その循環こそが、持続可能な環境投資につながると考えています。ただし、これはまだ一部に限られています。例えば道路会社の場合、脱炭素のために設備投資を進めても、その後の運用段階で評価される制度が十分に整っていません。設備投資への支援はある一方で、運用やグリーン購入に対するインセンティブが弱く、加速しにくいのが実情です。
こうした課題は政策や制度設計と密接に関わっているため、私たちは社内に政策制度連動の体制をつくり、制度改正を事業にどう結びつけるかを常に検討しています。経済性と社会性を両立させるためには、時間をかけて制度と現場をつなぐ作業が欠かせないと考えています。その意味でも、行政が初期段階で伴走し、一定の形が見えたところで民間が担っていく今回の進め方は、ゼロカーボンに腰を据えて取り組む上で、現実的で再現性のあるモデルだと感じています。
安藤 民間事業者の皆さんにとって、社会的価値だけでなく利益を考えることは当然だと思います。一方で、行政としては、もっとグリーンな選択を取り入れたいという思いはありますが、限られた予算の中で判断を迫られる場面も多くあります。だからこそ、事業者・市民・行政が無理なくWin-Winになれる仕組みをどうつくるのか。その点について、本プロジェクトを通じて研究していくことに大きな意義があると考えています。行政には、率先して取り組みを進める役割があります。将来世代のために何を選択すべきかを常に意識しながら、責任を持って前に進んでいきたいと考えています。
「脱炭素×環境教育」で
“水郷のまち”の未来を拓く
——今後の構想として、どのような社会の未来を思い描いていますか。
安藤 土浦市では2022年3月に策定した「第三期土浦市環境基本計画」に基づき、環境保全に取り組んでいます。その中で掲げている将来像が、「人と自然が共生する持続可能な水郷のまち つちうら」です。この将来像の実現に向けて、市民・事業者・行政が協働しながらまちづくりを進めていくことが欠かせません。特に意識しているのは、次世代を担う子どもたちに、より良い環境を引き継いでいくことです。今回のプロジェクト研究で得られた成果を本計画に取り入れることができれば、実現性のある取り組みとして土浦市の未来に向けた大きな推進力になると期待しています。
村田 2050年を見据えたとき、コーポレートメッセージに掲げる「地域とともに循環型社会とネイチャーポジティブに貢献し、カーボンニュートラルを実現する」という方針は今後も変わりません。まずは、道路舗装業界におけるカーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと考えています。地域ごとに特性や地理的条件を踏まえ、市の戦略に沿いながら、共に最適な道を探っていく。場合によっては、「企業版ふるさと納税」を活用した資金面での支援も含め、実践につながる土台づくりに関わっていきたいと思っています。
――カーボンニュートラルと教育、そして未来の社会を担う子どもたちについて、お考えをお聞かせください。
安藤 土浦市は、他の地域から驚かれることもあるほど、すでに一定程度進んでいる取り組みもあると感じています。例えば、ごみの分別は子どもから大人まで、市民生活の中に自然に根づいています。ただし、土浦市だけが進めばよいという話ではありません。ゼロカーボンを目指す以上、こうした取り組みが地域を超えて広がっていくことが重要だと考えています。行政の役割は、特別な意識を持たなくても、環境への取り組みが「自然な習慣」として定着する仕組みや制度を整えることにあります。そのためにも、行政だけで完結させるのではなく、民間やアカデミアの知見を取り入れながら、産官学が連携して進めていくことが欠かせないと考えています。
村田 私自身も、環境教育の重要性は年々強く感じています。正直に言えば、カーボンニュートラルやゼロカーボン社会について本格的に向き合い始めたのは、ここ5年ほどのことです。学びを深める中で、制度や技術だけでなく、ペットボトルのキャップを外すなどの日常の小さな行動の積み重ねが、資源循環の効率を高め、社会全体の変化につながることを実感しました。
私たちは廃食油を使った石けん作りやろうそく作りといった体験型の取り組みも行っていますが、目の前で資源が別の形に生まれ変わる様子を見ることで、子どもだけでなく親世代も自然と関わってくれるようになります。教育とは知識を一方的に教えることだけでなく、体験を通じて自分事として実感してもらうこと。そのきっかけをいかに広げていくかが、これからの社会にとって重要だと考えています。

「ZERO-CARBON TSUCHIURA 事業構想プロジェクト研究」の研究会の様子
- 安藤 真理子(あんどう・まりこ)
- 土浦市長
- 村田 満和(むらた・みちかず)
- 田中鉄工株式会社 代表取締役CEO
お問い合わせ

田中鉄工株式会社
TEL:0942-92-3121
https://tanaka-iron-works.com/contact/

土浦市環境保全課
TEL:029-826-1111(代表)
環境保全課への お問い合わせは こちら→
https://www.city.tsuchiura.lg.jp/inq.php?mode=detail&code=17&code2=0
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