村岡嗣政・山口県知事インタビュー 山口県の「新たな未来」に向けて

2022年2月の県知事選において、3選を果たした村岡嗣政山口県知事。この2月14日に発表した令和5年度当初予算案では、脱炭素社会の実現やデジタル実装の推進、交流の活性化などに重点を置いた配分をし、山口県の「新たな未来」に向けた県づくりに挑もうとしている。

村岡 嗣政(山口県知事) 取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2023年2月21日)

――2022年12月に策定された総合計画「やまぐち未来維新プラン」について、以前の総合計画との違いや、今回の計画のポイントについてお聞かせください。

「やまぐち維新プラン」を策定した2018年は、明治維新から150年という大きな節目の年でした。山口県には、幕末・明治の志士たちが維新の原動力となり、日本の近代化の礎を築いていった歴史があるという自負があります。そうした先人たちのように、困難な時代を乗り越えて山口県の未来を変えていく維新を果たしたいという思いを込めて、「やまぐち維新プラン」をつくりました。

図 「やまぐち未来維新プラン」に掲げる県づくりの推進方向

出典:山口県

 

このプランでは、産業維新・大交流維新・生活維新という「3つの維新」を掲げ、活力みなぎる山口県の実現に取り組んできました。例えば企業誘致では、この8年間で250件を超える誘致を実現し、5500人以上の雇用を創出しました。年間の移住者数も、東京・大阪に拠点を設けて推進してきた結果、この4年間で倍増し、山口への移住の関心が高まっています。また、広域的な範囲で集落機能や日常生活を支え合う「やまぐち元気生活圏」づくりの取り組みも県内各地に広がるなど、多くの成果をあげています。

しかし、この3年間はコロナ禍によって経済が非常に傷みました。また、デジタル化・脱炭素化などの社会変革や、少子化、自然災害の頻発など、様々な課題に直面しています。こうした環境の変化や社会変革を、ピンチでなくチャンスと捉え、これらの課題にしっかり対応することで山口県をさらに発展させていこうという思いで、2022年12月に、新たな総合計画「やまぐち未来維新プラン」を策定しました。

このプランでは、「安全・安心」「デジタル」「グリーン」「ヒューマン」の4つの視点を踏まえ、これまで取り組んできた「3つの維新」のさらなる進化を図り、基本目標である「安心で希望と活力に満ちた山口県」の実現を目指すこととしています。

CO2排出ゼロを目指すだけでなく
未来をリードする産業創出に活用

――山口県の基幹産業の競争力強化と、カーボンニュートラルへ向けた取り組みについてお聞かせください。

山口県は、産業の立地に優位な道路交通網や港湾施設、工業用水等のインフラが充実していますので、特に化学や石油関連製品などの基礎素材型産業や、自動車などの輸送用機械関連産業が集積しています。第二次産業の比率は県内総生産の4割を占めており、全国平均より14ポイント高い数値になっています。また、製造業1事業所当たりの付加価値額では2013年から、従業者1人当たりの付加価値額では2016年から、ともに全国トップを守り、高付加価値な部素材や製品を生み出し続けています。

県ではさらなる経済の持続的成長を目指すため、2018年に「やまぐち産業イノベーション戦略」を策定しました。今後少子高齢化や人口減少が進んでも、高い生産性や付加価値を持つ産業モデルを構築できるよう、イノベーションの加速度的な展開を図っています。

山口県の産業の最も大きな屋台骨はコンビナート企業であり、今後も本県の経済を牽引していく強い存在でなければいけません。そうした中で今、脱炭素の大きな流れがきています。コンビナート企業は多くのCO2を排出しているため、その排出削減と国際競争力の維持・強化の両立が極めて大きな課題となっています。そこで、2022年10月に「やまぐちコンビナート低炭素化構想」を策定しました。この構想では、①CO2の削減、②CO2の利活用、③CO2の回収・貯留という3つの視点から取り組みを進めていくことについて、事業者の方々ともイメージを共有しています。

これに基づき、2022年12月には「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。県として体制を整え、新年度に向けて、60億円の脱炭素社会実現基金の創設、コンビナート企業のカーボンニュートラルでは10億円の予算を組み、研究開発や設備投資など段階的に支援を行っていきます。

化学や石油製品、セメントの製造には、多くのエネルギーを必要とし、また、副産物として大量のCO2が発生します。これをただ単になくすのではなく、環境に優しい燃料へと転換したり、製品の中に組み込んだりする研究開発がいくつか動いています。そして、これらの企業は次世代燃料として期待される水素やアンモニアのハンドリング技術に非常に優れていますので、未来をリードするようなポテンシャルのある研究開発への支援を積極的に行っていきたいと考えています。

本県の基幹産業には、自動車関連産業もあります。近年の電動化の流れの中でサプライヤーが生き残るには、業態転換や新技術・新製品の開発が求められます。60億円の基金ではそうした分野への支援を行うとともに、脱炭素化への取り組みになかなか着手できないでいる中小企業に向けた普及啓発を進め、金融機関とも連携しながら省・創・蓄エネ設備の導入支援を行います。

医療、環境・エネルギー、バイオに加え
女性の創業支援にも注力

――新たな産業やイノベーションの創出について、これまでの施策の成果や、今後注力されるポイントについてお聞かせください。

県産業技術センターに設置したイノベーション推進センターでは、研究開発のフェーズや規模に応じた補助制度などで、企業の研究開発・事業化に向けた取り組みを支援しています。

特に本県には医療分野の企業が集積しており、医薬品原薬の出荷額は2018年に全国1位を達成しました。また、医療、環境・エネルギー、バイオの3分野で2014年度以降120件を超える製品が事業化されています。代表的なものとしては、患者への負担を軽減して高速・高精度でめまいの診断ができる「めまい診療用眼球運動検査装置」や、半導体から効率的に熱を放出するための「熱伝導性、電気絶縁性に優れたパワー半導体デバイス向け放熱材料」などが非常に高い評価を得ています。

再生医療分野でも、がん免疫細胞療法や細胞培養関連技術の実用化・産業化に向けた取り組みを支援し、再生医療関連産業の育成や集積を進めています。

創業支援については、2018年度から2022年度までの関係支援機関による創業数のKPIを1100件と設定し、昨年末時点で976件、達成度88.7%と概ね順調に推移しています。

また、本県では女性の人口流出が課題であるため、女性の創業支援にも注力し、「女性創業応援やまぐち」という会社を設立して、女性の創業支援や、女性経営者向けのコンサルティングを行っています。

さらに、スタートアップについては、新年度、起業家的能力を持った人材の育成や、機運を高めるためのワークショップの開催、事業化に向けた資金調達の支援、そうしたことを実施していきますし、産学公金が連携した支援体制を築いていきたいと思っております。

デジタルで地方の課題を解決
多方向から社会実装を支援

――山口県の産業・行政のDX推進戦略や施策についてお聞かせください。

県にデジタル推進局を設けて、DXに注力しています。DXは、都市部と地方の間にある格差を取り除くことができると考えています。例えば、MaaSによる移動手段ができたり、遠隔で医療を受けやすくなったり、ドローン配送で買物がしやすくなるなど、デジタルを活用すれば地方のいろいろな課題を乗り越えることができます。そのため、どんどん進めていくべきだと思っています。

DXへの取り組みの核として、NTT西日本を共創パートナーとしたDX推進拠点「Y-BASE」をつくりました。ここではNTT西日本の技術やノウハウを導入して、5Gなどを活用したデモ展示等での最先端技術の紹介や専門スタッフによるDXコンサルなどのサポートを行っています。本県独自のICT環境である「Y-Cloud」を設けており、相談だけでなく、アプリを作ったり、製品を紹介したり、いろいろな試みができます。うまくいかない場合は様々な提案をして、どんどんステップアップできる形でサポートを行います。予約でいっぱいになるほど人気で、利用者の満足度は96%を超えています。

NTT西日本を共創パートナーとしたDX推進拠点「Y-BASE」でDXコンサルティングや技術サポートを実施 画像提供:山口県

官民連携コミュニティ「デジテックfor YAMAGUCHI」では、会員企業や団体、市町、市民エンジニアなどが課題や技術を持ち寄り、課題解決に向けた共創活動に取り組んでいます。この会員は900名を超えました

デジタルはいろいろな試みがされていますが、社会に実装され動いていくまでにハードルがあるのも事実です。実証で止まらずに社会の中に組み込むところまで実行できるように、新年度の予算で40億円の「山口県デジタル実装推進基金」をつくりました。資金だけでなく職員のサポート体制もつくり、実際に社会の中で回るところまで支援します。デジタルが社会に実装されることで、多くの県民がデジタルによって暮らしが便利になったと実感し、事業活動や生産性が高まる、次はそういうステージに入っていきたいです。

キラーコンテンツを創出し
アウトドアツーリズムの聖地へ

――山口県ならではの観光戦略についてお聞かせください。

歴史やグルメや温泉など、県内には魅力的な観光資源がありますが、新しい展開も必要です。特に今はアウトドアへの関心が高まっています。本県は三方それぞれが特色のある海に開かれ、美しい山々が連なり、海と山の両方を楽しむことができます。この自然特性は他県にはないアドバンテージだと思います。

そうした意味で、これからアウトドアに着目して、本県ならではの新しいツーリズムを創り上げたいと思っています。「山口県といえばアウトドアの聖地」というブランドイメージになるように、大きく踏み出していきたいと思っています。そのためにまず、新年度にアウトドアツーリズムを推進する官民連携の体制を構築し、全県的にしっかりと取り組んでいこうと思っています。

また、アウトドアツーリズムのしっかりとしたキラーコンテンツも必要です。この開発にあたっては、上限1億円、補助率4分の3の補助金制度を創設しました。これは、本県のこれまでの観光施策では例のない思い切った補助金制度です。

本県には自然環境の豊かな山口きらら博記念公園があります。広々とした芝生広場など気持ちのよいスペースのあるこの公園で、県民の皆さまがいろいろなアクティビティができるように、また県外やインバウンドの方々がアウトドアツーリズムで訪れることができるように、施設整備を行います。

子どもから高齢者まで、誰もが気軽にスポーツに親しみながら健康づくりができ、レクリエーションなどを通して交流できる「山口きらら博記念公園」。人工芝のフィールドを持つやまぐち富士商ドームやサッカー・ラグビー場、水泳プールなどの施設がある 画像提供:山口きらら博記念公園

今年の秋に、アウトドアツーリズム推進のキックオフイベントを山口きらら博記念公園で行う予定です。また、他では体験できない山口県ならではのアウトドアのキラーコンテンツの開発を行い、本県への新たな人の流れを生み出し、地域の活力を創出して、地域経済の持続的な発展につなげていきたいと思います。

 

村岡 嗣政(むらおか・つぐまさ)
山口県知事