マルヤマ水産 ウニの陸上畜養で、磯焼け問題解消へ貢献

長門市の水産加工会社、マルヤマ水産は、ウニ畜養事業を展開するウニノミクスとともに、2022年11月に世界最大規模の陸上ウニ畜養施設「KAYOI UNI BASE」を完成させ、運営を開始した。磯焼けの海で採った痩せたウニを食用に適した身入りと品質に育て、海を守る持続可能な事業を目指している。

山田 晋太(マルヤマ水産有限会社 代表取締役社長、
株式会社EVAH 代表取締役社長)

漁業が盛んな青海島の
通地区で明治以前に創業

山口県長門市の青海島東端に位置する通(かよい)地区は、江戸時代には長州捕鯨の本拠地として栄えるなど、漁業を中心に発展してきた。同地を拠点とするマルヤマ水産は、明治時代以前に創業し、1995年に法人化した水産加工会社だ。

代表の山田晋太氏は東京・築地生まれで、幼い頃に父の実家がある通に移り住み、2001年から家業に従事してきた。現在の事業では主に、ちりめんじゃこや田作り、うるめいわしや剣先イカ一夜干しなどの加工をしている。また、2016年には未利用海藻だったアカモクを使った事業を始めるため、EVAHを設立。2020年にマルヤマ水産の代表に就任した翌年には、ウニ畜養事業の試験を開始した。

「私たちがアカモク事業を始めた頃は、タイミングよくテレビで取り上げられて注目を集め、各地で多くのアカモクが採られるようになりました。私たちは漁師さんと話をする中で『アカモクは旬の時期に3度放卵するので1、2回は放卵したのちに収穫してください。そうすると1年で生え変わるから大丈夫』と言って採っていただいていました。ところが数年後にはアカモクの量が減ってきたことから、なぜ減ったのかを漁師さんたちに聞いたところ、単に採ったからというだけではなく、海の中では海藻がなくなる『磯焼け』が起こっており、その一因がウニによる海藻の食害だということでした」

海藻のアカモク。近年、様々な栄養素を豊富に含んだスーパーフードとしても注目されている

海では近年、地球温暖化の影響で海水温が年間を通じて高くなり、本来はウニが活動していなかった冬場も海藻を食べ続けるようになっている。このため、海藻が成長できずに死滅する磯焼けが、多くの地域で発生していた。

磯焼けの海を救うため
ウニ畜養事業を開始

この問題を何とかしたいと考えて調査を行っていた山田氏だったが、ウニノミクスとの出会いが大きな転機になった。

2017年設立のウニノミクスは、環境問題解決の手段として、磯焼けの海で捕獲したウニを蓄養する事業を国内外で展開している。磯焼けの海で採ったウニは痩せていて、そのままでは市場価値はないが、同社はそれらを約3カ月間蓄養することで、食用に適した身入りと品質のウニにする技術を確立していた。

約3カ月で、食用に適す品質のウニに育てる

「2020年に大阪で開かれたシーフードショーに参加した際、ウニノミクスとの付き合いが始まり、翌年3月には共同でウニ畜養の実証試験を開始しました。そして、3カ月後には事業化を決定し、昨年11月に共同運営する長門市の陸上ウニ畜養施設『KAYOI UNI BASE』が完工しました」

ウニ畜養施設「KAYOI UNI BASE」の外観

ウニノミクスは2021年から、大分県国東市の漁業水産関係者とともに、世界初の磯焼け対策を目的とした陸上ウニ畜養事業を行う「大分うにファーム」を運営。「KAYOI UNI BASE」は2番目の商業規模拠点だが、年間生産能力が34トンで、大分の約2.2倍となっている。

「KAYOI UNI BASE」の屋内畜養現場

「ウニは寒い季節には餌を食べないので、施設では水温や水質を管理して、常時餌を食べる環境にします。また、ウニの味は食べた餌によって変化するので、餌にもこだわっています。餌の主原料は食用昆布を加工する際に出る端材で、添加物は使いません。基本的に11週間育ててから、回転寿司チェーンなどの飲食店や福岡の市場に出荷します」

事業はシンプルだが、開始からまだ数カ月ということもあり、仕入・飼育・加工・販売という4つの過程では、それぞれ課題があるという。例えば仕入の段階では、ウニを採る漁師との関係性を大事にし、採り方について理解してもらうことに力を注いでいる。

「従来の漁では、すぐに加工するためウニに傷がついても問題ないのですが、私たちのように数カ月育てる場合、生きたまま傷がつかないように採る必要があります。ですから、漁師さんたちにはそれぞれ独自のやり方があるものの、できるだけ丁寧に採っていただけるようにお願いしています」

また、加工では殻を剥く作業が必要になるが、過疎地でもあるため十分な人員の確保が難しく、現在はこれが最大のボトルネックになっている。一方、販売ではウニの人気は国内外で高く、市場で供給が追いつかない状態になっている。このため、この事業にとっては追い風だという。

「今はまだ手探りの状態ですが、まずは事業としてしっかり確立させることを目指します。藻場が回復し、魚が根付いてサザエやアワビも増えるような状況になるまでには時間がかかると思います。ただ、これまでのように一方的に人間が採るだけだった海との付き合い方を変え、地域の人たちとともに海を大切にし、共存していけるような流れができればと考えています」

地域の最大の資源である
海を守る新たな事業を

山田氏はウニ畜養事業を始めてから、アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が、かつてスピーチで語った「Connecting the dots(点と点をつなぐ)」という言葉の意味を実感しているという。

「自分がウニの畜養を始めるなんて、10年前は想像できませんでした。元々、イワシを加工する家業があり、それを起点としてアカモク事業やウニ事業に拡がりましたが、いずれも必要に迫られて始めた事業です。一生懸命やっていたら、次に取り組む課題が自然に出てきたという感じですね」

山田氏は、新規事業を始めようとする人は「常識や、『今まではこうだった』ということに捉われず、自分が良いと思ったら、まずやってみるのが良いと思います」と言う。「最初は周囲の理解を得るのが難しくても、一生懸命やっていれば誰かが見ていて、『一緒にやろうか』という人も出てくる。そういうアクティブな人たちを巻き込んでいけば、地域は必然的に変わり、地域活性化にもつながっていくはずです」

今後の構想としては、「ウニ畜養事業が軌道に乗ったら、海を活かした、他の養殖事業や島を訪れる人を増やせるような事業も手掛けていきたい」とも語る。

「水産業だけでなく、観光やレジャーにおいても、この地域の最大の資源は海です。何か興味を持ってもらえるコンテンツがあれば、外から島に来てくれる人も増えるはず。それがウニでできれば良いですし、将来的には他の事業にもつなげていければと考えています」

 

山田 晋太(やまだ・しんた)
マルヤマ水産有限会社 代表取締役社長
株式会社EVAH 代表取締役社長

 

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