くら寿司 万博から次世代のレストランを世界へ発信
会社設立は1995年と、回転寿司業界では後発でありながら、独自性の高い運営と先進的なシステムで、他にはない店舗・商品・サービスを創り出してきたくら寿司。2025年4月からの大阪・関西万博では、「回転ベルトは、世界を一つに。」をコンセプトに、世界中の人々が笑顔になれる、新しい食体験を提案する。

田中 邦彦(くら寿司株式会社 代表取締役社長)
食の本来あるべき姿を追求
事業の原点は己の哲学
「Food Revolution=食の変革」を目指し、先進的かつオリジナルなシステムを次々に開発・導入し、独自性の高い店舗やサービスを生み出してきたくら寿司。
「『何をやりたいのか、何のためにやりたいのか』というコンセプトがすべての根幹です。当社のコンセプトは『安心・美味しい・安い』。それを具現化したのが回転寿司です」と同社社長の田中邦彦氏は説明する。
イギリスの脳栄養化学者マイケル・クロフォード博士は「世界に3000種類ある食事スタイルの中で、最も身体に良い食生活は戦前の日本食である」と述べたという。米を主食に、身近な畑で作った無農薬の野菜と魚が中心、添加物は使用せず、肉食もほとんどない。この理想的な食事を復活させたいという想いが、くら寿司創業の原点にある。
「事業を起こす上で大切なのは、儲けることではなく、己の哲学。簡単に言えば、『どう生きて、どう死ぬか』。我々の考え方の根底には、常に、自身に恥じないものを売るということがあります」。
くら寿司の店舗では、寿司だけでなくガリや醤油、酢、出汁など、すべての食材において化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料の四大添加物を使用していない。また、ベルトに乗って回転する寿司を空気中のホコリや菌から守るため、2011年に日本初となる抗菌寿司カバー「鮮度くん」(特許)を開発、米国や台湾の店舗にも導入している。
コロナ禍以降、衛生意識の高まりや、SNSで配信された迷惑行為などの問題から、大手回転寿司チェーンでは、回転ベルトでの寿司の陳列をストップする動きが主流となっている。しかし、くら寿司は全店で回転ベルトの形態を維持してきた。
「消費者は常に、安全性と利便性、そして変化を求めます。特に日本人は、種類が多いことを好みます。そして先進国では今後、人件費の高騰や人手不足が大きな問題となっていく。多品種を一度に陳列でき、席に着けばすぐにお寿司を食べられる。パフォーマンス的にも人件費的にも、回転ベルトは必須です。それを活かした新しい商品やサービスをいかに生み出し、提供していくか。これが、我々のビジネスにおける戦略・戦術です」。
回転ベルトを主役に
万博で未来の食の空間を演出
くら寿司は、2025年4月からの大阪・関西万博にも、回転ベルトで「回る寿司」の店舗を出している。全長約135mという同社史上最長の回転ベルトを設置し、席数も同最多となる338席を用意した。店内は木目調のテーブルや背もたれ、畳風の座面などジャパニーズモダンなデザイン。天井には、巨大な回転ベルトと寿司皿をシンボリックに描く。外壁には廃棄予定だった約33.6万枚の貝殻や、海藻から作られた糊などを使った漆喰を採用、持続可能性を強く意識した店舗となった。
ジャパニーズ・モダンな内装と最新のテクノロジーが融合した万博店内。高品質な寿司や各国料理を、新しい発想で提供する
同店舗では、「回転ベルトは、世界を一つに。」をコンセプトとし、寿司をはじめ、万博参加予定の70か国・地域を代表する料理を再現した70種類のメニューを開発、「ハンズ・ハンズPROJECT」として展開する。万博特別仕様の抗菌寿司カバー「鮮度くん」に入った各国料理とくら寿司の人気メニューが2皿で1組となって回転ベルトを流れる仕掛けだ。
万博記念「ハンズ・ハンズPROJECT」では、世界各国の料理とくら寿司人気メニューが手を繋いだかたちで提供される 🄫EXPO2025
「世界中から多種多様な人やモノが集まる万博で、高品質な食の提供と、回転ベルトを活用した記憶に残る食のテーマパークをお届けしたい。誰もが1つの回転ベルトを通じてつながり、笑顔になれる。そんな未来の食の空間を提供し、世界にアピールしたいと思っています」。
店内には、長年かけて工夫と開発を続けてきたAIやICTを活用した独自の衛生・品質管理のシステムや、利便性・快適性を向上させるシステムを搭載。世界へ向け、「次世代のレストランモデル」を発信する。
現在、米国に74店舗、アジアに62店舗の直営店を展開するくら寿司。大阪・関西万博をきっかけに、海外進出をさらに加速させる。
リーダーがやってみせることで
チャレンジできる風土をつくる
常に新しい発想で店舗づくりに取り組むくら寿司。2000年に開始した子ども向けの景品抽選サービス「ビッくらポン!」は他社とのコラボレーションの機会となり、くら寿司のスマートフォンアプリのゲームや店舗での射的ゲームなどに進化している。また2024年11月には、回転ベルトを活用した「プレゼントシステム」を導入した。パレードのようにポップな音楽にのせて、中身が見えない仕様の「鮮度くん」に入ったスペシャルメニュー(ケーキやちらし寿司など)が回転ベルトで手元に届く。客が手に取って、開けてはじめて何が入っているかがわかる。「寿司が回る楽しさ」に新たな要素を加えたサプライズサービスだ。
より便利に、より快適に過ごせるオンリーワンの食空間を目指した「SMART KURA PROJECT」も進める。全店舗で稼働している「スマートくら寿司」では、AIカメラと寿司皿の自動回収装置を組み合わせ、店員を介さずに食べた皿の枚数を自動計算するシステムや、寿司の鮮度を保証するための時間制限管理システムを導入。入店から退店まで店員と対面せずにお客様へサービスの提供が可能となる非接触型サービスを実現した。安心・安全は保ちながら、楽しく夢のある体験ができる、これまでにないレストラン空間を創り出す。
「既存の商品やサービスより良いものを生み出し、提供するという強い意志がビジネスの根幹です」。
これまで同社が独自に開発したシステムの特許は約80、商標は約680にのぼる。常に新しいものを生み出すには、「リーダーが率先して、チャレンジする雰囲気を作り出すことが大切」と田中氏は強調する。
「まずは、自分で面白がってやってみて、見せてみる。そこに、興味を持つ人間が集まってくる。そのなかから専門の人材を育てていく。新しい挑戦には失敗がつきものですが、失敗を叱らず、安心してチャレンジできる環境や風土を醸成していくことが重要だと思います」。

- 田中 邦彦(たなか・くにひこ)
- くら寿司株式会社 代表取締役社長